一方で、退任する平井氏も危惧するのが「好業績を背景とした気の緩み、危機感や緊張感がなくなることが心配だ」(平井氏)。吉田氏も、バランスシートの改善は緒についたばかりであり、そもそもグローバルメーカーとして競争力が付いていないという見立てを話す。

「(株式市場の)時価総額という形で世の中(の企業価値)を見てみると、以前のトップ企業は『資源』企業ばかりだったものが、今はテクノロジー企業が多くを占める。ソニーはテクノロジーの会社。だからそこに、危機感がある」(吉田氏)

平井氏はこの数年間、ソニーのミッションを「お客さまに『感動』を提供する」と掲げ、コンシューマーエレクトロニクスの再生を果たした。PS4のゲーム&ネットワークサービスは、定額制サービス「PS+」のグローバル会員数が3000万人を超え、テレビやカメラなどは一時期戦犯視されながらも高収益が見込めるハイエンド市場を果敢に攻め、着実に成果を残した。

吉田氏はこの路線を引き継ぐとしつつも、感動を提供するビジネス側、B2B事業の拡大も示唆した。

「会社の競争力を上げていく上で、『感動の提供』というキーワードに合わせるならば形としてはコンテンツとIPが重要になる。映画事業ではジュマンジが好調だったが、これは1995年に作られたIPだ。今回のヒットではなくIPの価値が上がったことが重要で、同様にコンテンツ面ではユーザーに近いPSNも投資すべきポイント。クリエイターに近いところとユーザーに近いところ、ここへの投資を増やして企業価値を上げていきたい」(吉田氏)

  • ジュマンジのヒットは短期的な要因だが、長期的には「IPの価値向上」がソニーにとって大きな意味を持つと吉田氏は話す

質疑応答で吉田氏は、「短い時間軸であれば、私という議論だったようだ」と語ったように、財務畑の吉田氏はあくまでソニーの財務基盤をより強固にするための中継ぎであり、テクノロジーをよりよく知る「次期経営者候補」の育成期間なのかもしれない。

過去最高益だった1997年、その次に高い利益水準だった2007年の翌年以降は利益水準を維持できず、韓国勢の台頭を許した。同じ轍を踏まぬためにも「持続的に高水準の利益を黒く出来るかが大きなチャレンジ。経営陣としてやらなければならないところ」(吉田氏)と話す。

九州の新聞社が「九州の出身として経営に活かしたいことは?」と尋ね、「生まれは熊本、親が公務員だったため九州内で転勤が多く、文化が異なる環境に揉まれ、適応力が付いた」と笑顔で答えた吉田氏だが、平井氏と同じく非テクノロジー領域の人間が持ち味の"適応力"でソニーを更なる高みへと導けるか。

今、一番愛用している自社製品と語ったロボット「aibo」が成功するか否かが、ある意味で「吉田ソニー」の運命を握っているのかもしれない。

  • 1月11日に発売された「aibo」