ソニーは2月2日にソニーグループの新経営体制を発表し、既報の通り2018年4月1日付で同社の新しい社長兼CEOに、現副社長兼CFOである吉田憲一郎氏を迎えることを伝えた。2日にはソニー本社で記者会見も行われた。

  • 記者会見の壇上で握手を交わす平井一夫氏と吉田憲一郎氏

現職の平井一夫氏は4月1日から代表権のない会長に就任する。なお現在ソニーでは執行役EVP CSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー)を、ソニーモバイルコミュニケーションズでは社長兼CEOなど複数の要職を兼任する十時裕樹氏が、新たにソニーの代表執行役EVP CFOに就くことも決まっている。

新CEOとなる吉田氏はソニーの業績説明会ではお馴染みの顔だ。壇上ではいつも会社の業績を淡々とした口調で読み上げ、記者からの質問に対してポーカーフェイスで答えている印象が強い人物だが、この日の記者会見では今後の経営方針を力強い口調で語ったり、記者からの質問に穏やかな笑顔を見せながら答えていた。まずは以下に、質疑応答での吉田氏、平井氏のコメントを抜粋して紹介する。

――社長としての6年間の業績を振り返ってどのように感じているか。

平井氏:一番苦しかったのはやはり構造改革に関しては厳しい判断をしなければならなかったこと。経営トップとしては判断が必要だが、そこには社員や株主にもかなりのインパクトが伴う。心は痛んだ。それをしてもなお、ソニーを良くしていくんだと自分に言い聞かせてきたが、判断は容易ではなかった。もっとも嬉しかったことは今年度(2017年度)の好業績。全社一丸になって会社をよい方向に導いてくることができた。色んな判断がうまく回り出してソニーをここまで持ってくることができた。好業績に向かっていくソニーを吉田氏にバトンタッチできることが最も満足だ。

――なぜ新社長に吉田氏を推したのか。

平井氏:ソニーが進むべき方向のイメージ、会社として何をするべきかなど、私と考え方がよく似ている。ソニーは大きな企業なので、全体をまとめて前へ進めていくためには強いリーダーシップが必要。吉田氏はソニーの様々なビジネスに絡みながら豊富な知見を獲得してきた人物。広い視野も備えている。新しいソニーグループのリーダーとして最適と考えた。

――ソニーのDNAであるコンシューマー・エレクトロニクスについて、今後は韓国や中国のメーカーとどのように競い合っていくのか。BtoB事業への考え方は。

吉田氏:ユーザーに「感動」を届けるというソニーの企業理念はこれからも変わらない。感動を届けるためには、感動をつくるクリエイターに私たちも近づく必要があると考えている。BtoB、BtoCともに感動を創る立場としてのソニーの役割は変わらないと思っている。

後継者を議論。吉田氏「短期的には私が適任」

――吉田氏は自身が社長に選ばれた理由をどのように解釈しているのか。

吉田氏:私が選んだわけではないので、答えるのは難しい(笑)。新社長の指名委員会の中で交わされてきた様々な議論の中では、短期的には私が適任だが、中長期的には別の人物も考えられるという意見もあったと聞いている。

平井氏:確かに短期的、中長期的というダブルの面でCEOの後継者を議論してきた。今回は吉田氏が最も適した人物であると指名委員会で意見が一致した。

  • 現職社長兼CEOの平井一夫氏は、2018年4月1日からソニーの会長に就任する

――平井氏はこれから会長としてどのような仕事をしていくのか。人生の次のステップへ進みたいという発言もあったが、しばらくはソニーの仕事に関わるのか。

平井氏:私は取締役会の要請を受けて会長に就く立場。4月1日から、ソニーのトップになるのは吉田氏。私の会長としての役割は、エンターテインメントやゲーム&ネットワークサービスについて吉田新社長にアドバイスを送ったり、マネージメントとの橋渡しなど社長の補佐をすること。国内外で実施される様々な会議に吉田氏から要請があればソニーの代表として参加することもあるだろうが、私の役目はあくまで「サポートすること」だ。

――平井氏はテレビの構造改革を重視してきたが、今のソニーにとって最大の課題をどう捉えている。

平井氏:事業環境が目まぐるしく変化している時代だ。様々な戦略商品やコンテンツ、サービスを投じる必要はもちろんあるが、一番の経営課題は約20年ぶりの好業績なので、社内のマネージメントや社員の気が緩んでしまうことが怖い。緊張感や危機感がなくなってしまうことが一番大きな課題だと認識している。今後も中期タームで好業績をいかに維持できるかが問われている。バランスシートの健全化も取り組む必要がある。

吉田氏:バランスシートを改善していくことが大事。またグローバル企業にとっての時価総額が資源からテクノロジーに移っているので、ソニーもテクノロジーの企業として競争力を養っていかなければならないと考えている。

攻める時は攻め、守るべきところはしっかりと

――吉田氏は自身をどのような経営者だと自己分析している。平井氏との経営スタイルの違いは。

吉田氏:私は経営者として方向性を明確に打ち出していくことを大事にしたい。決めるべきことを適切なタイミングで決めて、責任を取る。反対に自分が決めないでもよいことは適任の者を信頼して任せることも経営者として大事なこと。平井氏と経営のスタイルは違うかもしれないが、基本的なベクトルは一緒だと思っている。

――ソニーの社長として、吉田氏はどんな「顔」を出していく。

吉田氏:平井氏はデジタルカメラの"オタク"。私もモノは好きだしゲームもやるが、平井氏のレベルには到達できないと思っている。同じ真似はできない。でも当然ソニーの商品は好きだし、ラストワンインチのものづくりというコンセプトには共感している。そこにコミットする姿勢はトップとしてしっかりと打ち出していきたい。

――平井氏より1つ年上の吉田氏が新しい社長に就任するということで、ソニーが守りに入るのではと受け止める人がいるかもしれない。

吉田氏:企業経営には守りと攻めの両方が求められる。平井氏がトップだった6年間の間にも「守りの時期」はあった。私も今後、守るべき所はしっかりと守って、攻めるときは攻めるつもりだ。どちらかだけということはないし、バランスを取りながら進んでいきたい。