―― スマートフォン事業は、ソニーにとって課題事業になっているが、これをどう回復していくのか。

平井氏:スマートフォンビジネスは、数年前から、シェアや台数を追求するよりも、まずは黒字化することを優先してきた。その一方で、ソニーの将来から見ると、スマートフォンそのものをビジネスとして捉えるよりも、コミュニケーションビジネスをどうするかという観点で捉えることの方が重要である。

私は冗談交じりに、人間同士がテレパシーでコミュニケーションができるようになるまでは、遠隔での対話の実現には、なんらかのデバイスとネットワークが必要になってくるといっている(笑)。

その手段として、かつてはフィーチャーフォンがあり、いまはスマホに変わってきた。今後は、スマホが何かに変わるというパラダイムシフトが起こるだろう。それがウェアラブルになるのかはわからない。だが、次のパラダイムシフトを作るぐらいの意気込みで、コミュニケーションビジネスに対して積極的に取り組んでいかなくては、「KANDO(感動)@ラストワンインチ」を実現したり、ライストワンインチよりも短い距離で使っていただく商品を提供したりといったことができなくなる。

  • ソニー、Xperia

だからこそ、いまも、業界のプレーヤーとして存在し、スマホビジネスを続けている。これによって、キャリア各社とのリレーションシップをキープしたり、クアルコムなどのメーカーともバートナーシップを強化したりできる。そうしておかないと、次のパラダイムシフトが訪れたときに、改めてこの分野で存在感が発揮できない。

ソニーの将来のビジネスポートフォリオという戦略的観点から、スマホ事業を捉え、コミュニケーションビジネスとして重視していくことになる。将来のコミュニケーションパラダイムは、スマホとは別の領域で考えている。現行のXperiaというデバイス単体との関連性はむしろ低い。

―― スマホ事業における収益拡大策はどう考えているか。

平井氏:ソニーは、日本では高いマーケットシェアを持っている。ユーザーに評価してもらえる機能を、どうやって追加していくかといった取り組みのほか、製造現場を含めて、いかにコストダウンしていくか、品質をさらに高めて不良返品率をいかに下げるか、人件費を下げるにはどうするかといった取り組みを行う。秘策というものはない。

現行のスマホでは、スーパースローモーションや4K HDRなど、様々な機能の採用によって、ソニーらしさを追求している。一方で、Xperia Hello!のような周辺デバイスを含めて、スマホ以外のビジネスでどう収益を確保していくのかということが、収益拡大に向けたひとつのドライバーになるともいえる。

―― 格安スマホの領域には入っていかないのか。

平井氏:スマホ市場は、地域とマーケットという観点から、いろいろな捉え方がある。今回のCESでソニーは、ミッドラインの製品を発売した。格安スマホは台数でどう稼ぐかというビジネスになるので、そこに注力するよりハイエンドからミッドラインで勝負するのが基本的な考え方である。

―― Androidが登場してから2017年で10年。ソニーが、Androidを選択したことをどう評価しているか。

平井氏:スマホやタブレットなどは、新たなプラットフォームや新たな商品を、いかに早く立ち上げていくかが大切。ダッシュスタートや垂直立ち上げの大切さは、私自身、プレイステーションビジネスで強く理解している。これがコストにも、アプリの広がりにも影響していく。

Android採用による功罪はあったのは確かだ。OSに対して投資をしていくのではなく、違う部分でどう差異化するという課題を突きつけられた10年でもあった。そのなかで、いい商品もあれば、それはどうなのかといった商品があったかもしれない。OS以外にフォーカスして差異化することは、ソニーの商品にとって悪いことではなかったと思っている。

仮に、Androidがなく、この10年間、独自のOSでやってきたとしたら、いまは「これからどうするのか」という判断が求められていたかもしれない。それを10年前に決断したことはいいことである。これからも、ソニーがAndroidに変わるものを作ろうという気持ちはない。

一方で、プレイステーションは1995年から日本初の独自プラットフォームとして展開し、その上でビジネスを行ってきた。世界に誇るプラットフォームとして独自に投資し、さらに強化していくことは、プラットフォーマーとしてのソニーの責任でもある。

―― 富士通が携帯電話事業の売却を検討しているようだが、ソニーはこれを買収する意思はあるのか。

平井氏:それに関してはなにもない。さらに、他の企業の携帯電話事業に関してもなにもない。