月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」(GLXP)に出場する日本のローバー「SORATO」が完成し、12月19日、打ち上げ地であるインドへの輸送が行われた。輸送に使われたJAL717便の出発に先立ち、成田空港ではメディア向けイベントが開催。パートナー企業の関係者が一堂に会し、SORATOにエールを送った。
SORATOは、GLXPに日本から唯一参加している民間月面探査チーム「HAKUTO」が開発したもの。格納庫で開催された壮行会では、HAKUTOの袴田武史代表が挨拶。「この日、この場に立っていることを嬉しく、誇りに思う。これも、パートナー企業、一般の皆さんの支援があってのこと」と、感謝の気持ちを述べた。
SORATOは、打ち上げに向けた「フライトモデル」(FM)が2016年8月にすでに発表されていたが、相乗り先がTeamIndusに変更になり、着陸地点がより赤道に近くなったことから、熱設計を変更。今回、実機のお披露目は無かったものの、初めて写真が公開され、変更点に関する言及があった(以下、初期型をFM1、最終型をFM2と表記)。
変更点のポイントは3つ。1つめは、ボディの全高が低くなったこと。これは、放熱能力の向上が目的だ。SORATOの天板は放熱面になっているので、この面積が増えれば、それだけ放熱能力が向上する。台形の本体の上側をカットすることで、天板の面積を増やしたというわけだ。
2つめは、コーティングの面積を削減したこと。FM1で特徴的だったボディの銀色は、銀テフロンを蒸着させたもの。これで、外部からの熱の流入を抑えつつ、外部に熱を放出するのだが、ホイール、サイドパネル、リンク部分のコーティングについては、不要であることが分かったため省略。その分、軽量化を図ることができた。
3つめは、アンテナの変更だ。FM1では、長距離通信に適した900MHzと高速通信に適した2.4GHzを使用する予定だったが、TeamIndusとの協議の結果、2.4GHzのみに。これで安定した通信を実現するため、アンテナ位置を高くする必要があり、展開式のアンテナを採用した。展開前のFM2の全高は293mmだが、展開後は796mmと、50cmも高くなる。
袴田代表は、「FMにおけるこのような仕様変更は無謀と思われるかもしれないが、我々としては、可能な限りできる改良はしていく」とコメント。「この最終形態のSORATOで、Google Lunar XPRIZEの優勝を目指したい」と自信を見せた。
壮行会には、auのCMで織姫として出演している女優の川栄李奈さんが駆け付け、袴田代表に特製のお守りを手渡した。好きな言葉として「楽しむ」を送り、袴田代表は「困難なことがたくさんあるが、ベースとしては楽しむことを大事にしていて、どんどん楽しみたいと思っている」と応えた。
さらに、JAL717便の搭乗ゲートでは、出発式も開催された。今回、袴田代表自身は居残りとなるが、ローバーと一緒にHAKUTOのメンバー8名が渡航。なおローバーは機内持ち込みではなく、飛行機の貨物室に搭載されている。
袴田代表は、「これまで困難の連続だったが、エンジニアが頑張ってくれたおかげで、ようやく今日、ローバーをインドに運ぶことができる」とコメント。「大きな区切りではあるが、月面ミッションに向けて、さらに準備を加速していきたい」と、打ち上げに向けて気を引き締めた。
JAL717便は無事に離陸。SORATOは同日中にインドへ到着し、今後、ソフトウェアの改良、地上局の準備、ローバーの運用訓練などを行っていく。打ち上げ日については明らかにされなかったが、ミッションは2018年3月までに完了する必要がある。