IIJ(インターネットイニシアティブ)は5日、事業説明会で「農業IoT」の取り組みを紹介しました。格安SIMサービス「IIJ mio」などを展開するインターネットの会社というイメージが強いIIJですが、農業IoTに取り組む狙いはどこにあるのでしょうか。

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  • IIJが事業説明会を開催。モバイルサービスが200万回線を突破しているIIJが、農業IoTに取り組む狙いは?

IoT分野でビジネスを共創していきたい

「ひとくちにIoTといっても、サービスを実現するために必要な技術は多岐にわたります。そこでネットワークの通信、データ管理はもとより、デバイスの開発やデータ解析などにも強みを持つIIJがIoTサービスを自ら実践することで、ビジネスを共創していけると考えました」と説明したのは、IIJ クラウド本部の染谷直氏。さまざまな企業や団体と連携しつつ、IoTを形にしていく方針です。

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  • IIJ クラウド本部 副本部長の染谷直氏。IIJだからこそ構築できるプラットフォームを基盤に、他社とも連携してIoTサービスを進めていきます

IIJのモバイルサービスは、200万回線を突破しています。これは個人と法人を合算した数で、法人に限っていえばSIMカードの3枚に2枚はIoT用途とのこと(!!)。すでにIoTが、IIJのネットワークビジネスで大きな柱になりつつあることが伺えます。

そのサービスですが、IIJは10月にメニューの刷新を実施しました。「よりシンプルで使いやすくなった」と話したのは、クラウド本部の岡田晋介氏です。現在、データ暗号化 / センサーデータ蓄積 / マルチクラウド接続 / デバイス監視 / デバイス制御などのサービスを付加して、月額300円でIoT向けモバイルSIMを提供しています。

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  • クラウド本部 クラウドサービス2部 ビッグデータ技術課長の岡田晋介氏。IIJでは、分かりやすさを重視したシンプルな月額300円のプランでIoT向けSIMを提供しています

農業IoTの狙い

近い将来、IoTの活用が予想されるシーンは、工場、農業、交通、小売り、住宅など、さまざまな分野におよびます。そこでIIJでも、そうした先々で活用できるIoTの開発に取り組んでいるとのこと。

この日に発表があった農業IoTでは、具体的にはどんなサービスを目指しているのでしょうか。達成目標に「水田の水管理コストを1/2にする」を掲げたのは、ネットワーク本部 IoT基盤開発部長の齋藤透氏。3年間の研究期間で、水位と水温を測定できる「水田センサー」を開発するほか、遠隔から水を管理する「自動給水弁」を開発し、それらを通信で結ぶ「無線基地局(LoRa)」の設置なども行っていく考えです。

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  • 「泥にまみれて農業IoTをやっています」と語るネットワーク本部 IoT基盤開発部長の齋藤透氏。LoRa基地局では、写真の矢印の先に、IoT向けのSIMカードが挿さっています

IIJが研究代表機関を務める「水田水管理ICT活用コンソーシアム」は現在、実証研究という形で静岡県の天竜川流域において、取り組みを進めています。ここで特徴的なのは、「自動給水弁は4万円以下」「水田センサーは1万円以下」「基地局までの通信費はゼロ」などと前もって販売価格が定められていること。

齋藤氏は「水田1枚あたりの収入は良いところで10万円前後。そこに10万円のセンサーを導入したのでは意味がないんです。つまりIT屋の発想でシステムをつくっても農家さんに受け入れられない」とします。コストの問題は、これまで農業のIT化を阻んできた要因のひとつだった、とも。

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  • IIJが研究代表機関の「水田水管理ICT活用コンソーシアム」。LoRaWANによる水田管理システムの構築を目指します。農林水産省からも期待されているとのことでした

このほかにも、齋藤氏は「農業とIT両方の知識がある人材が不足しています。また、田植えから収穫まで1年かかるため、開発コストが長くなります」といった課題を口にします。これをビジネスとしてまわしていくには、まだ相当な期間が必要な様子。体力のある企業だからこそできる取り組みといえるでしょう。

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  • 研究計画のロードマップと、オープン化後の全国普及までの道筋。ゆくゆくは、日本農業情報システム協会(JAISA)を経由して全国に普及させていきたい考え

それでも、モノづくりに協力できることに意義を見出していると齋藤氏。「例えば水の管理ひとつとっても、農家さんは朝の4時に起きて100枚前後の田んぼを全部まわり、必要であれば水を入れているんですね。田んぼによって水ハケの良さも違うので、微妙な調整も求められます。大変な負担のかかる作業。これをIoT化していきたいんです」と意欲的に話していました。

IoTに不可欠なフルMVNO

ところでIIJでは2018年3月に、他のMVNO事業者に先駆けて「フルMVNO」を実現します。これによりIIJは、自社で独自のSIMカードが発行可能になるほか、遠隔でネットワークの開通作業も行えるようになります。このフルMVNO、農業IoTにはどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

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    IIJの取り組み。2018年3月にフルMVNOを活用したサービスを開始します

例えば、農業には農閑期があります。この期間は通信を行う必要がないので、農家は秋にSIMカードの通信を停止し、春にまた開通させたいと思うでしょう。これを従来のMVNOサービスで行おうとすると、農地に設置したセンサーに差し込まれたSIMカード1枚1枚を秋と春の2回、手動で出し入れする必要があったわけです。大規模農家の場合、現実的ではありません。フルMVNOなら通信用のSIMカードの開通・停止を遠隔で行えるので、大きなメリットがあります。

IIJでは今後、製品の用途に合わせて、サイズや耐久性(防水性なども含めて)をカスタマイズしたSIMカードも発行できるようになります。つまり、このフルMVNOの実現は、IoTサービスに必要不可欠なものなのです。逆から見れば、IIJはこのフルMVNOを実現できるからこそ、IoTサービスに注力しはじめたともいえそうです。IIJが展開するIoTの取り組み、今後もいろいろな方面から注目を集めそうです。