東京大学(東大)は、二硫化モリブデン(MoS2)の単層を用いて、入射光の偏光情報を保った励起子を伝達し、選択的に空間分離することが可能な現象(励起子ホール効果)を発見したと発表した。

励起子ホール効果の概念図(出所:東京大学Webサイト)

同成果は、東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センターの岩佐義宏 教授、同研究科附属量子相エレクトロニクス研究センターの井手上敏也 助教、同研究科物理工学専攻の恩河大氏らの研究グループと、大阪大学産業科学研究所の張奕勁 研究員らによる共同研究グループによるもの。詳細は英国の学術誌「Nature Materials」オンライン版に掲載された。

フォトダイオードやLEDを構成する半導体の受光・発光において、励起子といわれる複合粒子が主要な役割を果たす。励起子は素子の電気特性と光を結びつける概念として20世紀半ばから研究が続いてきたが、その光のエネルギー・情報を受け取った励起子そのものを伝達・制御し、光エレクトロニクスにつなげようとする研究は少なかった。一方で、固体中のさまざまな粒子の軌道を曲げて制御するホール効果と呼ばれる現象は広く研究されてきたが、励起子についてはまったく報告がなかった。

今回の研究では、単層二硫化モリブデン内の励起子が光の偏光情報と結合することに着目し、その特異な励起子が磁場を加えなくてもホール効果を示すことを発見した。

今回の成果を受けて研究グループは、これは光の偏光情報を固体中で励起子として選択的に輸送できることを示しており、励起子を直接的に用いた新たな光エレクトロニクスなどの基礎となりうる結果であるとコメントしている。