さて、楠本氏は再生・保存の手順について解説した。手順は至極単純。種が実り、枯れる直前の既存種・希少種を刈り取り、まだそうした植生になっていない場所に撒くだけ。既存種などを掘り起こし、根ごと新しい場所に植える方法もあるが、それでは掘られた場所がダメージを受けてしまう。種を自然に蒔く感覚でよいのだそうだ。このときに気をつけたいのが外来種を撒かないこと。せっかく新しい場所に既存種・希少種を再生したくても、外来種が混入しては台無しだ。

刈り取った草をブルーシートに集め、ほかの場所に撒く。このとき「セイタカアワダチソウ」や「ブタクサ」といった外来種は除く。右の写真はブタクサ

あの話題番組の草原版ともいえる活動

こうした作業を見学しているうちに、あるテレビ番組を思い出した。今年から不定期で放映されているテレビ東京の「池の水ぜんぶ抜く大作戦」だ。池の底に何があるのかの興味、増えすぎた外来種の駆除による爽快感などで、放映開始から話題だ。このブドウ農園での植生の再生・保存は、あの番組に通じるものがあるのではないか、と感じた。

ただ、楠本氏によると、外来の植物はブルーギルやブラックバスのように凶悪に繁殖するということはなく、定期的に刈り取っていればあまり影響はないそうだ。とはいえ放置してしまい、鬱蒼とした森林になった場合は、外来植物の繁殖が懸念される。

たわわに実ったブドウ。手の届きそうな距離にある

一連の再生・保存作業を見学させていただき、ブドウの収穫が始まった。広大なブドウ農園を歩いていると、フト気づいたことがある。たわわに実ったブドウが、あまりにも不用心に樹に成っているのだ。道路と農園の境には30cmほどの柵しかなく、手を伸ばせばブドウをもぎ取れる。案内してくださったスタッフにそのことをたずねると、あまり気にしていない様子だ。

「人間よりも野生動物の対策が重要です。とはいえ、もっともブドウをつまみ食いしているのは我々収穫スタッフかもしれません(笑)」と笑みをこぼす。ただ、これは盗み食いではなく、“ブドウのデキ”を確認するためのことらしい。筆者も失礼させていただきつまみ食いさせていただいたところ、「甘い!」。ワイン用ブドウは生食に向かないと聞いていたが、そのイメージは払拭した。