iPad Proのレビューでも触れたが、Apple Pencil自体はこれまでと同じ製品であるが、iPad Proに採用されたProMotionのおかげで、反応速度が20msに向上している。

以前のiPad Proでは、サンプリングレート240HzのApple Pencilに対し、60Hzでの描画を行っていたことから、どうしても筆記と表示にずれが生じていた。それでも、ペン型デバイスの中では優秀な方だったというから、Apple Pencilの持っているポテンシャルが相当なものだということが分る。

もちろん、プロが作品制作のためにApple Pencilを気に入って使っているという話はたくさん聴く。先日も、Adobe Researchでエンジニアとアーティストを兼ねる日本人、伊藤大地氏にインタビューした際にも、12.9インチのiPad ProとApple Pencilを傍らに置いており、お気に入りの絵画道具であると仰っていた。

一般の人も、紙にペンで文字や絵を描く。実は、アーティストではない人たちの方が、デジタルのペンに対する評価は厳しいのではないか、と考えている。アーティストは、デジタルで作品を仕上げることに様々なメリットを見出しているが、一般の人はそうではないからだ。

とにかくメモが取れれば良いのであれば、最も素早くシンプルな方法から離れる必要はない。つまり、紙とペン以上にシンプルでなければ、一般の人が自然にデジタルのメモを使うようにはならないだろう。AppleがiOS 11とiPad Pro、そしてApple Pencilで目指しているのは、厳しい一般ユーザーのデジタルメモに対するハードルを越えることに、ほかならない。

AppleはiPadをパーソナルコンピュータの基軸にする、とTim Cook氏がBloombergのインタビューで指摘している。そのため、Macでの体験を部分的に上回る必要があり、Apple Pencilの体験はまさにその重要な構成要素と言えるのだ。

しかし、それだけではなかった。次回は実際にiOS 11をハンズオンで触れてみて、試した中で、「これはMacを上回っている」と感じたところを紹介したいと思う。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura