ラジオの競合はスマホアプリ?

「radiko」の登場により、スマートフォンでもラジオが聴ける環境が整った今、ラジオをラジオ以外のメディア、特にネット上で宣伝する重要性は増している。「(通勤時間などに)他のアプリを使っている人に、今、ラジオで面白いことが起こっていると定常的に伝える手段が必要だった」。TOKYO FM+の企画・開発を担当したTOKYO FM マルチメディア放送事業本部の藤井大輔氏は、同事業を始めた背景をこのように説明する。

TOKYO FMの藤井氏。TOKYO FM+の立ち上げを担当し、現在はTOKYO FMらが取り組む新たな放送プラットフォーム「i-dio」の企画・開発にも携わっている

記事のクオリティにもよるが、ニュースサイトやキュレーションアプリなどに記事配信を行うことで、TOKYO FMの番組がスマホユーザーの目に留まる可能性は高まる。radikoはバックグラウンド再生に対応しているため、記事を読んで番組に興味を持ったスマホユーザーが、radikoの「ながら聴き」に移行することも十分にありうるだろう。配信している記事のPV(ページビュー)について詳しい数字は聞けなかったが、記事経由でTOKYO FMに接触する人は1カ月あたり数百万人規模に達するようだ。

記事の読者を番組の聴取に結びつけるため、TOKYO FMは記事投入のタイミングにもこだわっている。例えば週1回の番組であれば、直近放送分の記事を次回放送の数時間前に投入し、読者をリアルタイム聴取に誘導するといった具合だ。「Pokemon GO」の大流行を引き合いに出しつつ、大勢で同じ時間に同じことをする楽しさが改めて注目を集めていると指摘する藤井氏。誕生当初から「リアルタイム性」を堅持してきたラジオが、再び脚光を浴びる日は近いのかもしれない。

radikoが「聴き逃し配信」に対応し、ラジオ番組の過去放送分を聴くことができる環境が整えば、TOKYO FM+の記事には別の用途も出てきそうだ。過去番組の記事にradikoのリンクを張れば、記事の読者を直接、過去番組の聴取へと誘導するルートが確立する。記事の読者をリスナーにするのに、実際の番組を聴いてもらうことほど有効な手段はないはずだ。

記事コンテンツがラジオの“検索ワード”になる

ラジオ局がネット上で番宣を行う方法として、番組の記事化は有効な手法といえそうだが、記事コンテンツがネットに存在することにより、ラジオとネットユーザーがつながるルートは他にも考えられる。記事がラジオ番組の「検索ワード」となるケースだ。

そもそも、ラジオ局はHPに各番組のサイトを用意しているものだが、訪問者の多くはリスナーで、その番組に関心のない人が偶然サイトを訪れるケースは稀だ。ラジオ番組に紐付く記事コンテンツがネット上に存在すれば、番組に関心がない人が検索サイト経由でラジオ番組に流れ込む可能性が出てくる。例えば著名人の名前を検索サイトに打ち込んだ場合、その人物が出演するラジオ番組のサイトが検索結果の上位に登場することはほとんどないが、その番組に紐付くニュース記事として、TOKYO FM+が上のほうに来ることはありうる。番組の記事化は、ラジオ局にとっての「SEO対策(検索エンジン最適化)」と捉えることもできるのだ。