医学・ヘルスケアはICの有望応用分野

ICの応用分野に話題としては、「半導体技術の進歩により劇的な変化を起こしているのがメディカル・ヘルスケア分野だ。ICのイノべ―ションにより、より速く、より精密な診断および最適の治療による正確な医学が可能になろうとしている。遺伝情報を解析するための基本手段であるDNAシーケンスは、以前は数百万ドル要したが、今は数千ドルで出来る。imecは、エレクトロニクスとフォトニクスをシリコンチップ上に集積して、さらに安いコストでゲノム解析をしようとしている。ゲノム当たりの解析コスト低減は、半導体のムーアの法則よりも速いペースで進んで来ている(図5)」と医療分野での半導体活用が今後進むとの見方を示すほか、「自動車分野も、半導体の有望な応用分野の1つであり、ゲームチェンジャーになりうる」とする。自動車のイノベーションの80%は半導体に依存しており、今後、半導体をフル活用したスマート・コネクティッド・カーが主流になることが考えられる(図6)。「自動運転を目指して、クルマには多数のレーダー、カメラ、LIDAR、超音波、GPSなどのセンサシステムが搭載されつつある(図7)。データフュージョンやラー二ングと繋がった自動運転のドライバーレス・カーは、我々の日常生活において最初にして最もインテリジェントなマシンとなるだろう」と同氏は将来の自動運転社会の実現に想いを馳せる。

そんなimecは、Infineon Technologiesと共同で車載用79GHz CMOSレーダーセンサチップを開発中であるが、その先の最終ターゲットは、アンテナも1チップに組み込んだ140GHz CMOSレーダーチップの開発であることを、同氏は講演の最中に明らかにした(図8)。「これにより、さらに精密に測長でき、ドップラーおよび角度分解能が高まり、より小さな物体まで瞬時にとらえられ、自動運転の安全性が増すであろう。車に搭載されるレーダーやカメラやLIDARは小型化、廉価でなければならないので、その方向で開発していく」とし、これらの車載技術に向けた研究開発が日常生活におけるすべての分野に広がっていき、そうしたすべてのツールをインテリジェントに結びつける存在がロボットになるとした。

図5 人のゲノム解析コストの変遷 (出所:imec)

図6 スマート・モビリティ・コネクテッド自動運転車の概念 (出所:imec)

図7 無人運転車を目指す先進車載センサシステム:(1)カメラ、(2)レーダー(30mまで)、(3)レーダー(50mまで)、(4)レーダー(250mまで)、(5)LIDAR、(6)GPS、(7)超音波 (出所:imec)

図8 車載レーダーの小型・低消費電力・低コスト化。正確・高分解能のための高周波化 (出所:imec)

すべてを統合するIoEの実現を目指す

これらのことを踏まえて同氏は「Internet of Everything(IoE)の世界ではこうしたことが一度に実現する。これからの10年、ハードウェアとソフトウェアの革新により、スマートに繋がったシステムの津波にさらされることになるが、次々と生み出されてくるデータの波に飲み込まれるのではなく、知恵を活用して、それを乗り越えていかなければならない。クラウドにすべてのデータを載せるのではなく、フォッグ・コンピューティングやエッジコンピューティングでビッグデータを予め整理/選別する必要がある。なぜなら、リアルタイムで判断を要するような場合には、クラウドではなくエッジが頭脳を持ってコンピューティングして瞬時に判断する必要があるからだ(図9)」と述べ、最後に「我々は今、エキサイティングな未来を見据える段階にある。もしも企業があえて異なった見方をするようにすれば、莫大なビジネスチャンスを持った未来が開かれるだろう。企業は、システムとテクノロジーを最適化して破壊的イノベ―ションを起こさねばならない。それには変化の激しい世界の中での成長に向けて、半導体が生み出すさまざまな技術の力を足がかりにする必要がある」とし、半導体技術の重要性が今後、ますます高まっていくことを強調していた。

図9 クラウドだけではなく、フォッグやエッジが頭脳を持ってコンピュ―ティングし判断することが必要