テクノロジーを評価する日本の消費者

率直に、「なぜ日本で発表会を行ったのか」という疑問をダイソン担当者にぶつけてみると、返ってきた答えは「ダイソンがテクノロジーを大事にしている企業であり、日本の消費者もまたテクノロジーを重視しているから」というものだった。

確かに、ダイソンは研究開発に惜しみなく投資する企業だ。実際、Dyson Supersonicの開発にも、毛髪を研究するための専用実験施設を新設。4年間にわたって、さまざまなタイプの毛髪でテストし、全長1,625km(距離にして東京から沖縄くらい)を超える本物の人毛を実験で使用したという。開発にあたって、総額5,000万ポンド(約95億円)を費やした。

発表会には自動テスト装置やプロトタイプも展示。開発に手間とお金がかかっていることがうかがえる

そこまで投資してヘアードライヤーを作ろうとした理由は何だろうか。先述のAir Multiplierテクノロジーをどう生かすかと考えた結果、ヘアードライヤーというひとつの答えに至ったそうだ。Dyson Supersonicはおいそれとは買えない値段だが、「これまで積み重ねてきた研究に値する価格。日本の消費者はテクノロジーを正当に評価してくれる」(ダイソン担当者)と自信をみせる。

アジアで急成長中のダイソン

ダイソンの2015年度業績

もちろん、日本で発表会を行ったのはテクノロジー云々の話だけではなく、日本含めアジア市場が好調だから、というのも大きな要因。ダイソンにとって、日本はアメリカに次いで2番目に大きな市場で、広報担当者いわく「人口のわりにはマーケットが大きい」。4月27日に開催された発表会には海外のメディアも多数参加しており、あくまで筆者の見た範囲では、欧米よりも中国や東南アジアの記者が多いように感じた。もちろん地理的な事情もあるだろうが、ダイソンのアジア市場への期待の大きさがうかがえる。

ここで、ダイソンの2015年度業績をひもといてみよう。かなり好調なようで、売上高が前年比26%増の17億ポンド(約3,060億円)、利益が前年比19%増の4億4,800万ポンド(約806.4億円)を達成した。アジア太平洋地域に絞ると70%成長。ダイソン自身も、売上を牽引する重要な地域と位置づけている。特に中国の成長が「3倍以上」と著しく、収益は222%アップ。それに比べると地味に思えるが、韓国は185%、日本は48%、台湾は33%成長した。

掃除機、空調家電に次いで美容家電を投入するのも興味深い。日本に限った話だが、富士経済が2015年2月に発表した美容家電市場の調査結果によれば、理美容家電は特に高価格帯商品が好調。白物家電の需要減が叫ばれるなか、ビックカメラ有楽町店の「ビックビューティー」に代表されるように、家電量販店でも女性向け美容家電の売り場を拡充する動きがある。

また、ダイソンの調査によれば、日本はヘアードライヤーの所有率が高い。アメリカが91%だったのに対し、日本は96%。男性だけでも91%がヘアードライヤーを所有または使用している。こういった美容市場の大きさ、ヘアーケアへの意識の高さも、日本が発表会会場として選ばれた理由だ。

4.5万円のドライヤーは受け入れられるのか

ダイソンのいう通り、確かにヘアードライヤーの形状は1960年代からそう大きくは変わっていない。モーターを小型化してハンドル部分に収めるという発想は革新的だし、実際に手にとってみても思わず「軽っ」と声に出てしまうほど持ちやすかった(実際には618gあり、一般的なドライヤーと比べて、同じか少し重いくらいなのだが)。

カットモデルも展示。とてもドライヤーにはみえないメカメカしさがある

実はDyson Supersonicと同時発売の「Dyson Pure Cool Link」。空気清浄機能付きの扇風機だ(写真は製品発表会にて撮影)

ヘアードライヤーという製品カテゴリには、パナソニックはじめ、シャープやテスコム、小泉成器など競合がひしめく。ヘアードライヤーはそうそう買い替えるものでもないうえ、すでに9割以上の人が所有している。あまり勝機はなさそうにも思えるが、期間限定で「満足できなかったら全額返金キャンペーン」を実施したり、有名ヘアーサロン「Apish」全店舗で導入したり、と製品自体への自信のほどがうかがえる。

これまで、テクノロジーを前面に押し出してサイクロン掃除機や扇風機など数々の製品を日本でヒットさせてきたダイソン。Dyson Supersonicもその仲間入りができるだろうか、今後に期待したい。

Dyson Supersonicはヘアードライヤー業界に新風を巻き起こすのか