刻み込まれた模様に光が乱反射する様子が目にも彩な「切子」、美しい紋様で外出時の気分を高揚させてくれる「染め物」、艶やかな塗装で日々の食事を彩ってくれる「漆器」。これらはすべて古くから日本に伝わる伝統工芸だが、その継承に警笛が鳴らされている。後継者不在による事業継続断念、材料高騰による経営難など、“地盤沈下”の理由は数多い。こうした伝統工芸に光を当てるべく、東京都があるプロジェクトを始めた。

東京手仕事のロゴマーク

「東京手仕事」と名付けられたのがその施策。東京に伝わる伝統工芸を現代風にアレンジし、それを国内外に発信するというのがこのプロジェクトの概要だ。

同事業のプロセスをかいつまむと以下のとおり。「1:参加者を募集する」「2:工房見学・デザイナーとのチーム組成」「3:デザイン案の選考」「4:約6カ月間の商品開発および製品のブラッシュアップ」「5:最終選考・商品発表会」「6:PR活動・展示会出展といった普及促進」という過程をたどる。

ポイントとなるのは“2番”と“3番”だろう。伝統工芸品といえば、古くから伝わってきた形状・機能を職人が受け継ぎ、それを忠実に守って製作されるというイメージが強い。だが、同プロジェクトでは“デザイナーの感性”が伝統工芸に加えられる。古くから伝わる技法を生かして、現代の生活様式にマッチする伝統工芸品が創出されるというワケだ。

普及促進を都が後押し

そして同事業で注目なのが、製品の試作資金の一部を都が補助し、さらには創出した製品のプロモーションも推進してくれること。伝統工芸はほぼ例外なく“スモールビジネス”だ。せっかく新製品のアイデアが浮かんでも、試作のための資金が負担になることが考えられる。そのうえ製品を創り上げても、マーケティングやプロモーションにかける資金に乏しく、事業として成り立たないということも十分にありうることだ。冒頭で伝統工芸の地盤沈下の理由は数多いと記したが、綿密なマーケティングや大々的なプロモーションがおいそれと行えないことも、そうした理由のひとつに加えてもよいだろう。