銃乱射事件の容疑者が使用していたiPhoneのデータへのアクセスを巡って米連邦捜査局(FBI)と米Appleが対立していた問題で、米司法省は3月28日(現地時間)、データを取得できたとしてAppleに対する訴訟の取り下げを申請した。
FBIとAppleが対立する発端となったのは、昨年12月にカリフォルニア州サンバーナーディーノで発生した銃乱射テロ事件の容疑者が使用していたiPhoneだ。問題のiPhoneはパスコード入力を10回間違えたら初期化される設定になっていたため、FBIがAppleにデータの取り出しで協力を求めたが、脆弱性につながるとして、iOSにバックドアを設けるようなツールの提供をAppleが拒否した。司法省の訴訟を受けたカリフォルニア州連邦地裁は同省の訴えを認め、それに対してAppleが異議申し立てを行い、法廷闘争の行方が注目されていた。
司法省が28日にカリフォルニア州連邦地裁に提出した報告書によると、捜査機関が容疑者のiPhone内のデータへのアクセスに成功し、Appleの手助けは不要になった。現在、そのデータを調査しているという。
Appleに対する裁判所命令が無効になれば、長期戦も予想されたFBIとAppleの争いは幕引きとなる。しかし、「プライバシー保護」と「テロとの戦い」を巡る議論が終わるわけではない。FBIは、今回の訴訟取り下げが、Appleの主張を認めたのではなく、サンバーナーディーノ銃乱射事件に関して訴訟が不要になった点を強調している。同事件で連邦地裁がFBIの訴えを認めたことを前例とし、今後も必要ならば裁判所を通じて協力を求めるという。Appleもまた、これまでと同様、捜査への協力を明言しながらも、ユーザーの「データ保護」と「プライバシー保護」、製品の「セキュリティ」を重んじる姿勢を明らかにしている。このFBIとAppleの対立は政治的な議論にも発展しており、国民のプライバシー保護に反する圧力とFBIを非難する議員がいる一方で、IT機器をブラックボックスにするような暗号化の禁止を提案する議員もいる。テクノロジー産業、米政府と米議会、そして米国民を巻き込んだ騒動は、まだ続きそうだ。