Appleはパーソナルデバイスの企業

21日に米Appleが本社タウンホールで開催したスペシャルイベントは、2つの面から注目を集めていた。1つは、2016年初の新製品発表会として。そしてもう1つ、解決の糸口が見えないFBIとの対立について、同社の考えを示す教書演説のような場になると見られていた。面白かったのは後者である。こうした逆境においても信念を曲げず、変革に挑む”Appleらしさ”がいかんなく発揮されていた。

イベントは「40 Years in 40 Seconds」というビデオでスタートした。1976年4月1日にAppleが誕生してから、もうすぐ40年。その歴史を40秒にまとめたビデオである。

Appleは40年の歴史で大きな変化をいくつも経験してきたが、一貫してパーソナル・デバイスを提供し続けてきた。パーソナル・デバイスの企業である。そして昨年末、アクティブなAppleデバイス数が10億台を突破した。

「信じられないようなマイルストーンであり、そしてAppleが世界中の人々に与える影響の大きさを実感しています。人々の生活の重要な一部に浸透している製品のメーカーとして、われわれは重い責任を果たさなければなりません」

ティム・クックCEOは「本題に入る前に、多くの人々が気に掛けていることについて話しておきたい」と述べて、プライバシー保護について語り始めた。

ユーザーの生活に浸透するパーソナルデバイスのメーカーとして、ユーザーに対する責任を説くティム・クック氏

「われわれは皆さん、そして全ての顧客の方々のためにiPhoneを作っています」

Appleの主張はシンプルだ。パーソナル・デバイスのメーカーだから、ユーザーを最優先し、ユーザーのプライバシーやデータの保護に責任を持つ。それを果たせなければ、ユーザーのために製品を作っていることにはならない。

国民のデータやプライバシーに踏み込む力を政府にどの程度認めるべきなのか、全ての米国人に議論が広がるように、この一カ月の間Appleは積極的に意見を主張してきた。同社に対する意見は分かれてはいるが、個人データの保護とプライバシーの保護を求める米国民が多数存在する。そうした人々をサポートするのが、パーソナルデバイス・メーカーであるAppleの責任という姿勢に、今も変わりはない。「これは私たち全てに影響が及ぶ問題であり、われわれがその責任から後ずさりするようなことはありません」と明言した。

プライバシー保護について、クック氏が語ったのはわずか数分だったが、シンプルで力強いメッセージだった。特筆すべきは、同氏がFBI、テロリズム、裁判所命令といった単語を一度も使わなかったことだ。Appleのメッセージは明快だ。同社は、プライバシー保護の原則を問うているのだ。