国立情報学研究所(NII)は2月15日、日本の社会や産業界に変革をもたらすようなコグニティブ・テクノロジーによるイノベーションを推進する研究部門「コグニティブ・イノベーションセンター」を2月1日付けで設置したと発表した。

同研究所の11番目となる研究施設(センター)で、東京大学 名誉教授でもある早稲田大学 基幹理工学研究科 情報理工専攻の石塚満 教授がセンター長を務める。同氏は、長年にわたり人工知能に関する研究を行ってきており、人工知能学会の会長などを務めるなど、人工知能分野で高い業績を有しており、2015年12月よりNIIの客員教授に就任している。

NII所長の喜連川優氏は、「同研究センターに期待することは、3年後にイノベーションを生み出すとは言っているが、それ以上の、こういったことを行っていく、という具体的なことについては述べていない。逆に考えると、機動的に考えるフレームワークを作っており、変化の激しいITの1年先を見据えながらターゲットを絞り込んでいくというNIIとしてもエキサイティングな取り組みを行うことになる」とその役割を説明。NIIとしても新たな挑戦としての位置づけにあることを強調する。

「コグニティブ・イノベーションセンター」はNIIの研究施設としては11番目の設立となる。指揮を執るのは人工知能学会会長も務めた石塚満氏。「コグニティブ」をテーマに、多数の企業に参画してもらい、社会に向けた産業側からのイノベーションの創出に向けた芽を育てていくことを目指す

具体的な取り組みとしては、日本アイ・ビーエム(日本IBM)と研究契約を締結し、同社より支援を受ける形で複数の参画企業とともに、コグニティブ・テクノロジーを活用し、社会への展開力や活用力といった人間の認知や判断の支援を促進する新たなイノベーティブを生み出すことを目的に、参画企業のCEOやCOOといった経営判断に直接関与するレベルの役員などが参集し、新たなビジネスコンセプトの創造などを行っていくことを目指すとする。

2016年2月15日時点での参画企業は以下のとおり(五十音順)。

  • アルパイン
  • イオンフィナンシャルサービス
  • オリンパス
  • エイチ・アイ・エス
  • 小松製作所
  • みずほフィナンシャルグループ
  • 三井住友銀行
  • 三越伊勢丹ホールディングス
  • 三菱東京UFJ銀行
  • キッコーマン食品
  • キリンビール
  • 第一生命保険
  • 帝人
  • DIC
  • 東京海上日動火災保険
  • 日揮
  • 日産自動車
  • 日本航空
  • パナソニック
  • 三菱自動車工業
  • 明治安田生命保険相互会社

今回用いられている「コグニティブ」という言葉は、近年、IBMが良く活用することで知られるようになっているが、同センターが語る「コグニティブ・テクノロジー」は、IBMが語る「コグニティブ・コンピューティング」と同義語ではなく、学術的な意味も含めた広い考えでの、機械学習や自然言語の処理と理解、ビッグデータや知識ベースの構築と利用などの知的情報処理の集合体を指しており、日本の産業界のトップレベルたちとの対話を通じて、広い活用を図っていきたいとする。

NIIは専任スタッフとして、数名の特任助教やインターンを用意するほか、NII内部での人工知能系研究者や各大学・研究機関の研究者、IBMのグローバルで活躍するコグニティブ・コンピューティング研究者たちの協力も得る形で研究を進めていく予定としている。研究期間としては3年間をめどとしているが、イノベーションの創出具合により、その後の継続も検討していくとしており、まずは初年度の取り組みとして、参画を決めている21社を中心に話し合いを進め、6月~7月を目安にターゲットを絞って、デモシステムの構築を進め、評価を行っていくとしている。また、2年目以降は、初年度の反省点や良かった点を踏まえて、新たな参画企業を募り、イノベーションの創出に向けた取り組みを進めていく計画だという。

なお、IBMは、今回の取り組みに対し、研究者やコンサルタントによる支援のほか、「IBM Watson」やアプリケーションの構築・管理・実行を行うためのクラウド基盤「IBM Bluemix」の提供などを行うほか、2015年10月に開設したばかりの「戦略共創センター」を研究会の開催場所として提供するとしている。

左から、日本アイ・ビー・エム 取締役専務執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業本部長のキャメロン・アート氏、国立情報学研究所 所長の喜連川優氏、早稲田大学 基幹理工学部 情報理工学科 教授で国立情報学研究所 客員教授の石塚満氏(コグニティブ・イノベーションセンター センター長)