加えて奥村氏は、日本列島の地理的な特徴が、駅弁の多様性につながったとする。日本列島には北から親潮が、南から黒潮が流れてきており列島周辺で混ざり合う。この独特の海流によりさまざまな海産物が各地で水揚げされる。また、陸上においても山地や平野、森林、河川、湖沼が複雑な配置になっており、各地域で独特の産物が生じやすい。さらにアジアモンスーン圏に覆われた日本は四季がハッキリしており、春夏秋冬で収穫できる産物が異なってくる。つまり日本列島のあらゆる土地に、いわゆる“特産品”があり、それを使った郷土料理が生まれ、そして駅弁に発展していくのである。

会場に展示された駅弁の一部。左上から「村上牛しぐれ」(新潟駅)、「のどぐろわっぱ」(東京駅)、「北海道老舗イクラかに弁当」(東京駅)、「炭焼風穴子重」(姫路駅)、「仙台・宮城にぎわい祭り弁当」(仙台駅)、品川弁当(品川駅)

駅弁が日本に発祥した3つの要素

講演で奥村氏は「500種類以上の駅弁がある」としたが、実数はもっと多いだろう。駅弁の定義は曖昧で正確な統計はないが、5,000種類はあるのではないかという説もある。

いずれにせよ「弁当(昼食の持ち歩き)に抵抗感を抱かない日本人の気質」「年間の乗降客数が世界1位という鉄道大国」「全国各地に特産品が生まれる地理的優位」など、駅弁はこの3要素が見事に結びついて生じた“結晶”ともいえる存在。海外でも駅弁が販売されている例はわずかにあるが、その“質”“量”“歴史”ともに日本の駅弁が圧倒的だ。そのため、駅弁は日本独自の食文化と言い切れる。

では、駅弁が外国人に受け容れられるのか、後編で考えてみたい。

過去最高のインバウンド来日数にわく日本文化

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