音楽に引き込まれていく

「HD650」など、ゼンハイザーの名機と言われる歴代のヘッドホンと同様に、このMOMENTUM Wirelessも音楽を聴いているとその世界にどんどんと引きこまれていく。たとえば、ヘッドホンのレビュー記事を書く際は、各曲の聴き所だけを再生することもあるのだが、MOMENTUM Wirelessの場合は音楽に引きこまれて途中で止められなくなってしまうのだ。それだけ曲の魅力を引き出す力がこのヘッドホンにはある。

ダイナミック型のドライバーユニットを搭載。再生周波数帯域は16Hz~22kHzで、インピーダンスはパッシブ時28Ω、アクティブ時480Ω。感度は113dB

カラヤンが1960年初頭にベルリンフィルと録音した「ベートーベン交響曲 第3番 英雄 (FLAC 96kHz/24bit)」を聴くと、解像度が高いうえに音場が広く、定位もきっちりしているので、コンサートホールの中央に座して聴いているような感覚になる。目を閉じると前方にカラヤンとベルリンフィルが見えるようだ。低域、中域、高域がバランス良く出ているため、各楽器の繊細な表現もしっかりと描写する。クラリネット、フルートなどの木管、トランペットなどの金管、バイオリン、ヴィオラなどの弦楽器が、あるときは繊細かつ美しく、ある時は激しく壮絶に目の前で奏でられる。

オーケストラの全体像をはっきリと見通すことができるので、ドイツの正統オーケストラらしい硬質な音を出すベルリンフィルを、若いカラヤンが高い統率力で推進していく様がはっきりとわかる。目を閉じて至福の時にひたっているうちに交響曲としては比較的長いベートーベン交響曲 第3番もあっという間に終わってしまう。あぁ、もっとこの時間が続けばよいのに……。何度となく聴いてきた曲でこんな風に思ってしまうのは、明らかにヘッドホンの力によるものだ。

マイルスデイビスの「Kind of Blue (FLAC 192kHz/24bit)」もすごい。もともと臨場感のある録音で有名なのだが、本機で聴くと、まるでスタジオの中にいるような感覚に襲われる。ドラムのジミー・コブが、ベースのポール・チェンバースが、テナーサックスのジョン・コルトレーンが、アルトサックスのキャノンボール・アダレイが、ピアノのビル・エバンスが、そして御大マイルス・デイビスが目の前でスリリングな演奏を展開していく。各楽器の音色やアタック感など細かな部分まできっちり描写されるので、バンド全体が生み出す絶妙なスイング感がストレートに伝わってくる。椅子に座っていても思わず体がリズムに合わせて揺れてしまう感じだ。