ハードル2 : 耐空証明と型式証明

MRJは旅客機である。旅客機が実際にエアラインで就航するためには、その機体が安全に飛べるものであるという確認が必要だ。それがなければ安心して乗れない。

厳しい社内チェックを受けるMRJ(三菱飛行機公開映像から)

そこで出てくるキーワードが、耐空証明(Airworthiness Certificates)と型式証明(かたしきしょうめい、Type Certificate)である。一般にはあまり馴染みのない言葉だが、これは新たに設計・開発した航空機が安全運航に必要な要件を満たしているかどうかを当局が審査して「必要な要件を満たしている」とのお墨付きを出すものだ。

耐空証明とは、耐空性(Airworthiness)があることを証明するというものだ。安全性、騒音、発動機(エンジン)の排出物といった項目について、遵守しなければならない基準が定められている。そこで、設計・製作・飛行試験と順を追ってさまざまな試験や確認を行い、基準を満たして問題なく飛べることを立証・確認する作業が行われる。

ただし、生産ラインから出てくる機体すべてについて、いちいち全項目の検査を行うのは非現実的だ。そこで、最初に製作した機体を使って検査を行い、それで合格すれば「このタイプの機体については耐空性を確認しました」という形を取る。これにより、耐空性に関する検証手続きを済ませた特定の型式について、個々の機体で重複する検査を省略できるようにする。それが型式証明で、単位が飛行機の型式だから、型式証明という。

参考 : 航空機及び装備品に対する証明制度 > 新たに耐空証明を受ける場合(国土交通省Webサイト)

MRJは世界に向けて売ろうというのだから、型式証明も日本だけでなく、海外でも取得する必要がある。といってもすべての国でいちいち取得するというわけではなく、基本的にはアメリカの連邦航空局(FAA : Federal Aviation Administration)と、ヨーロッパの欧州航空安全機関(EASA : European Aviation Safety Agency)からの取得が必要になる。 型式証明を取得するために必要な手続きや、そこで満たすべき条件は、もちろん公開されている。しかし、実際に取得のための作業を進めるには、やはり相応のノウハウがある。 三菱重工が以前に、MU300というビジネスジェット機を開発したときには、アメリカで型式証明取得のための要件が変わった後の第1号となった。そのため、型式証明取得までに多大な苦労を強いられ、大幅な設計変更が必要になり、スケジュールの遅れにも見舞われた。

結果として安全な機体ができたわけだが、その間に景気後退や他社との競合に直面して、結果的は販売面で苦戦することになってしまった。そして結局、MU300の設計・生産・サポートの一式をアメリカのビーチ社に売却する羽目になった。それがビーチジェット400だが、それを後日、航空自衛隊が練習機として(ビーチから)購入することになったのは皮肉な話である。

MRJでは同じ轍は踏めない。そこで、民航機の巨人であるボーイング社と手を組んで、開発・販売・カスタマーサポート分野に関するコンサルティングを受けることになった (プレスリリース)。MRJに相当する規模の機体はボーイングのラインナップにないので、競合はしない。とはいえ、民航機ビジネスを展開するのであれば、当の三菱航空機が型式証明取得を円滑に進めるためのノウハウを身につけることは不可欠の要件である。