オシアナス・ブルー、原点はロタ島の海
高級時計のデザインは、もはや机の上の作業だけでは収まりきれなくなってきている、と藤原氏は続ける。
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最新のManta「OCW-S3400」 |
藤原氏「プロダクトデザインの世界では、COLOR(色)、MATERIAL(素材)、FINISHING(仕上げ)の頭文字を取って『CMF』というんですが……。たとえば、このパーツを青くしよう、と考えたとします。
でも実際には、素材や仕上げによってその見た目が大きく変わってしまいます。だからOCEANUSは、さまざまな素材や加工、着色で試作されたパーツを実際に組み合わせてデザインしています」
一例を挙げると、新しいManta「OCW-S3400」のダイヤル外縁にセットされる都市コードリングは、蒸着、スパッタリング、偏向あり、偏向なし、緑がかった青、赤っぽい青、彩度高めと低め、明度高めと低め……などなど、その試作数は60以上を数えるという。これに、ダイヤル、インデックス、インダイヤルのリング、針などの試作を組み合わせてデザインを考えるのだ。気が遠くなる。
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OCW-G1100のサファイアガラスベゼルの蒸着サンプル。こちらも細かな違いで、数多く試作されている |
藤原氏「試作パーツを手に取って組み合わせてみると、たとえばパソコンの設計画面上ではパッとしなかった配色が良く見えたり、反対に、良さそうだったものが今ひとつだったりと、発見があるんです。その組み合わせも、色評価用の蛍光灯だけでなく、一般蛍光灯や朝陽、夕陽など、さまざまな環境下でどう見えるか確認します。とにかく、考えて試作して確認して、また考えて試作して確認、の繰り返しです」
近年のOCEANUSに見られる赤や金色の差し色、微妙に色味の異なる数色のブルーを組み合わせたコンビネーションも、こういった膨大な試作の繰り返しと検討から生まれたのだ。それぞれのパーツに見る立体感と着色、研磨による仕上げ、そこから生じる輝きは、確かにコンピュータの画面だけでは確認できないだろう。
藤原氏「協業メーカーが持っている最新の素材や技術を吟味したり、設計の部署に足繁く通ったりして、今までにない加工や仕上げをお願いすることのほうが、ずっと重要なんです。
製造の現場で物を見て、話をしてこそ新しいアイディアが出てくるし、技術者は自分たちの持つ技術をこちらのアイディアに結び付けてくれる。特に、社内の設計部門には頻繁に行きますね。もう、そこに自分の席が欲しいくらい(笑)。」
ちなみに、「オシアナス・ブルー」というネーミングも藤原氏によるものだ。
藤原氏「私自身、海が好きなんですよ。特にロタ島(サイパンとグアムの間)の海の色が好きで。深みを帯びた濃い青が、太陽が傾くとともに紫へと変わっていく。それが本当にキレイなんです。これはオシアナス・ブルーの原点とも言える色ですね。
この海の色を『ロタ・ブルー』というんですが、こんなふうに『○○ブルー』という名前を付けたら、青のイメージが伝わりやすいんじゃないかと思ったんです。ピカソの『青の時代』も、ピカソ・ブルーと言われますし」
すると、藤原氏の狙い通り、オシアナス・ブルーのネーミングはひとり歩きをはじめ、現在では多くの時計ファンに「OCEANUS=青」のイメージを浸透させるに至った。
藤原氏「ちなみに、このオシアナス・ブルーという言葉は、カシオ社内ではあまり使われません。社内の呼び方は『ディープ・シーブルー』ですね。秒針の青は『グラン・ブルー』と呼ばれています」