IP処理、蒸着、スパッタリング

ここで藤原氏の言葉にあった、金属への着色皮膜形成技術「IP処理」「蒸着」「スパッタリング」について簡単に説明しておこう。

まずはIP処理。反応性ガスを注入した真空の竈(かま)の中に、電気や高周波でプラズマを生み出し、約2,000度の熱で蒸発させた成膜粒子(チタンやジルコニアなどの金属)をイオン化する。これをIP(Ion Plating)としてパーツに付着させていくのだ。鮮やかな発色は難しいが被膜強度が高く、OCEANUSではベゼルなど外装部分に使用されている。

藤原氏「OCEANUSの現行モデルで使用しているブルーIPの開発には、2年を費やしています」

一方、蒸着は、電子ビームなどで金属を加熱蒸発させて、パーツ表面に付着させる技術だ。蒸着させる金属と時間によって色味が変化する。風呂場で湯気が天井に着いて結露することを連想するとわかりやすいだろう。

OCW-G1100のサファイアガラスベゼルには、ブルーの蒸着が施されている

そしてスパッタリングは、やはり真空の竈の中で、イオンとなったアルゴンガスを金属に衝突させて表面の原子をはじき飛ばし、パーツに叩き付けて付着。高精度な被膜を要求される、半導体の製造などにも使われている技術だ。これを何層も繰り返すことで色味が変わる。コストも高い。蒸着とスパッタリングは発色の点でIP処理より優れているが、被膜強度が弱いため、OCEANUSでは風防内のリング、インデックスなどに使用されている。

【左】藤原氏の説明にも、思わず熱がこもる。【右】着色のテストを行ったカラーチップ

藤原氏「一般的に塗装で済ませているような時計のパーツに、なぜここまでするのかと、協業メーカーの担当者に言われることもあります。でも、塗装だと『塗料の溜まり』ができて、面やエッジの精度が出せません。光の反射も鈍い。OCEANUS、特にMantaクラスになると、それじゃダメなんです。『エレガンス、テクノロジー』のコンセプトに恥じない、キラリと光る美しい高級感のあるオシアナス・ブルーでないと」

「今度のMantaはケースが薄いのに、ダイヤルには深度と立体感があるんです」

しかし、そんな無理を聞いてもらった試作が上がると、藤原氏がこだわる理由に協業メーカーも納得するという。

最近は「ここまでやらなきゃOCEANUSじゃないでしょう」「Mantaなんだから、もっと上を目指してもいいのでは」とまで言ってくれるようになったと藤原氏から笑みがこぼれる。それは、社内外を問わず、開発製造に関わるスタッフの間に、OCEANUSのスピリットが共通認識として浸透している証だ。

藤原氏「魂を込めてますよね、なんて言われます(笑)。でもね、カシオは時計メーカーとしては後発ですから、時計の歴史をなぞっていくだけではダメだと思うんですよ。常に違った視点を持ったり、一歩先を目指したりしないと」