100万円超のApple Watchは誰が買うのか?

さて、数カ月前からApple Watchの上位モデルが100万円を超えるという噂が飛び交っていたが、ジョークだと思っていた。だって、Apple Watchは職人が組み立てた精巧な機械ではない。デジタル機器である。しかも、発展途上だ。高価な時計は数十年、数世代にわたって大事に使われ、財産と見なされるが、Apple Watchの商品寿命は数年程度だろう。時間と共にディスプレイは明るさを失い、バッテリーはへたってしまう。高価な時計のようにリセールバリューを長期にわたって維持できそうな"何か"が今のところない。そんなApple Watchに一体誰が100万円超も支払うだろう?

そう思っていたのだが、噂は本当だった。Apple Watch Editionは128万円から、最も高価な組み合わせは218万円である。しかし、今回のキーノートでぼんやりとではあるが、Appleの狙いが見えてきた。

キーノートで同社はApple Watchを高価な時計として展開するようにアピールしてはいなかった。スーパーモデルのクリスティー・ターリントン・バーンズが登場したが、マラソンレースを目指す1人の女性という感じだったし、終始Apple Watchが普通の人たちの生活をどのように変えるのかに焦点を当てていた。Apple Watchは、やっぱりデジタル機器なのだ。

キーノートでは、私たちの生活をより便利なものにする新しいスマートデバイスとしてアピール

となると、Appleが高級ブランドの腕時計市場を本気で奪おうとしているとは考えにくい。財産やコレクションとして大事にしまっておくような高級腕時計ではなく、使ってなんぼのデジタル機器なのだ。同じウォッチでも土俵が違う。こうした点から推測すると、Apple Watch Editionのターゲットは絞られる。財産やコレクションではなく、普段使いのために高級ブランドの腕時計を身につけている人たち。キズがつくのもお構いなしでロレックスを巻いている人たちだ。つまりデジタル機器としてApple Watchに興味はあるけど、他人と同じものは身につけたくないという人たちを満足させるモデルである。

Apple Watch Editionはどこにでもあるデジタル機器ではなく、他の人が持っていない特別なデジタル機器

1万ドルを超えるApple Watch EditionについてTim Cook氏は「ユニークで特別な存在」と述べていた。Apple Watch Editionは「限定数」になるという。その言葉通りだろう。本当に少ないのだと思う。この世に数十本しかないというぐらい少なくなければ、1万ドルを超える値札の価値はない。AppleがVertuのようなビジネスに乗り出すのは、それはそれでApple好きとしてはちょっと複雑な気持ちなのだが、それがApple Watch Editionなのではないかと思う。

Apple WatchはiPhoneのコンパニオンデバイスだし、モバイルWi-FiホットスポットになるiPhoneは新MacBookの良き相棒である。振り返ると「Spring Forward」イベントは、iPhoneが登場しないiPhoneイベントだった