Intelの動向 - 先行きが不透明なBroadwell-K

さて次はIntelの話だ。最初にお断りしておくと、筆者は現時点でのIntelのDesktop向けロードマップは保有していない。なので、現実問題としてBroadwell-Kがキャンセルされるかどうかは知らない。ただ、先に紹介したBitsandchipsの記事を見る限り、「いかにもありそうだ」という感想を持った。このあたりを少し説明しておきたいと思う。

まずはIntelのプロセスについておさらいから。Photo05は2014年8月11日にIntelのSenior FellowであるMark Bohr氏が"14nm Technology Announcement"という発表をした時のスライドである。ここでは14nmプロセスは、22nmプロセスと比べて「同じ動作周波数ならより消費電力が少ないし、同じ消費電力ならより高速に動作する」ことを示している。

Photo05:これはあくまでイメージ図なので、比率は正確ではない

ただ、このスライドの図は「嘘は言っていないが、正確でもない」ものである。なぜならIntelの場合、22nmプロセスはLogic向けのP1270とSoC向けのP1271から構成されており、この2つは内部構造が違うからだ。

Photo06はIntelが2012年のIEDMで発表したトランジスタの特徴であり、P1270がHigh Speed Logic、P1271がLow Power Logicにそれぞれ相当するが、Gate PitchやLgateの寸法が異なっているのがお分かりかと思う。

Photo06:元論文のタイトルは"A 22nm SoC Platform Technology Featuring 3-D Tri-Gate and High-k/Metal Gate, Optimized for Ultra Low Power, High Performance and High Density SoC Applications"で、これで検索すれば論文を入手できるはずだ

これを受けて、2013年末にはこんな一覧を示していた(Photo07)。この段階では、まだMobileを含むClientはHP、つまりPhoto06で言うところのHPとSPのトランジスタをベースに製造する前提になっている。2014年の表が無いのは、2014年のInvestor Meetingではこのスライドがばっさり抜け落ちているからであるが、もしあったらClient/ServerにはLow Powerが追加されていても不思議ではない。

Photo07:2013年11月に行われたIntel Investor MeetingにおけるWilliam Holt氏(EVP, GM, Technology and Manufacturing Group)のスライドより。まだこの時点ではClientはHPを利用する前提であることがわかる

話を戻すとIntelの14nm世代はこちらに示したような理由で詳細が公開されていない。なのでこれは筆者の推察なのだが、おそらく14nmでもP1272(SoC)とP1273(Logic)という2種類のプロセスが用意されていると思われる。

先のPhoto05のグラフで、P1270~P1273はどういう風にオーバーラップするか、というイメージ図がPhoto08である。22nm世代までは、Mobile向け製品もLogic向けプロセスで製造していたのが、14nm世代ではSoC向けのP1272に切り替えたた。これによりCore Mの最初の製品は4.5Wなどという驚異的なTDPを実現できたわけだ。逆に周波数を引き上げた現状のハイエンドであるCore i7-5557Uは2core/定格3.1GHzで28Wというのは、P1272における上限に近い部分であろう。

Photo08:P1272とP1273のオーバーラップはMobile Computingあたりに設定したが、実際はClient Computingの方にもう少し食い込むかもしれない

Desktop向けプロセッサの命運を握るP1273

さて、ここからはBroadwell-Kについて話を進めよう。例えばCore i7-5557Uと同じスペック(Base 3.1GHz/Turbo 3.4GHz)で4coreにしたら、TDPは2倍の56Wで収まるか? といえば、おそらくぎりぎり収まるだろう。ただ、これをCore i7-4770Kと同じBase 3.5GHzまで引き上げたら、恐らくTDPは84Wで収まらないし、ましてやCore i7-4790Kの様にBaseを4GHzまで引き上げることはそもそも無理だろう。

それはなぜか? Intel ARKで第5世代Coreプロセッサ(Core i7/5/3)を確認すると、Baseが2.5GHzを超えるかあたりで大幅にTDPが異なっており、P1272は大体このあたりから急速に消費電力が増える特性であろうと想像されるからだ。

分かりやすい例がCore i3で、2.1GHz駆動のCore i3-5010UのTDPは15Wなのに、わずか400MHzアップのCore i3-5157UのTDPが28Wなことからもこれは確認できる。

現状出回っているBroadwell-KのES(や、一部話題になったSkylake-SのES)は、この特製をも持ったP1272を使って試作されていると思われる。しかも、そのプロセスは現状の安定した段階での製造ではなく、P1272自身に問題を抱えていた時点での製造と思われる。そりゃ消費電力が鬼の様に増えても不思議ではない。

じゃあ、Broadwell-Kは駄目なのかというとそんなことはない。問題が生じているのはLow Power向けのP1272を使っているからで、High Performance向けのプロセスであるP1273を使って製造すればきちんと動作すると思われる。

Base Clockで4GHz超えも難しくないだろうし、その際の消費電力もむしろ下がるかもしれない。Devil's CanyonよりもOCに向いたチップになるだろう。なので、まともなBroadwell-Kが出るかどうかは純粋にP1273に掛かっているわけだ。

では、IntelはP1273をやるのかやらないのか? といえば、やらざるを得ない。Desktopだけでなく、XeonにはP1273が絶対必要になるからだ。昔からIntelにとってXeonのマーケットは最大の稼ぎ頭であり、Intelは「既存のServerを新プロセスで製造した新しいXeonに更新するだけで、こんなに性能が上がり、さらに消費電力が下がるので、運用コストを考えたら更新するのがお徳ですよ」という主張をサーバ戦略の軸として成長を続けてきた。

だから新プロセスを使い、絶対性能を(上げないまでも)下げずに性能/消費電力比を改善したXeonを出すことは経営的にも必要であり、P1273をやらないという案はまずありえない。幸いにもXeon系列はDesktop/Mobileよりも導入が遅れており、いまはHaswellベースの製品がやっと広くDeployされ始めたばかりだから、次の弾が必要になるまで1年弱のゆとりがある。それまでにP1273をきちんとモノにできれば、影響は最小限に抑えられるだろう。

やはり問題はDesktopに絞られる。Mobile向けにBroadwellの大量出荷が開始されたということは、P1272がやっと出荷品質になったということだ。それはP1273の作業はこれから始まることを意味している。

P1273を使った製品が出荷されるまでにどの程度の期間で可能になるかは不明だが、まぁ普通に考えて1四半期では収まらず、2四半期は軽く要するだろう。だから、早くて8月中に出荷アナウンスであり、遅れればなんとか2015年中にというスケジュールになる。

Broadwell-Kは市場に投入されるのか

さて、ここでもう1つ絡んでくるのがSkylakeの動向である。OEMメーカー(特にマザーボードメーカー)としては、Broadwell-Kが出てもあまりうれしくない。なぜなら現行のIntel9シリーズチップセットに関しては、基本的にBIOS UpdateでBroadwell-Kに対応できてしまうからだ。

このあたりはSandyBridge→IvyBridgeの時の騒ぎに似ている。ただ前回は、IvyBridgeがPCIe 3.0に対応した(SandyBridgeはPCIe 2.0対応のみ)という違いが「それでも」あったが、今回はそうしたネタもなし。せいぜいがUSB 3.1とかUSB Type-Cコネクタ位しかトピックがなく、買い替え需要を喚起するのは非常に難しい。

ところがこれがSkylake-Sになると、そもそもソケットの互換性もないからマザーボードは買い替える必要がある。さらに当初はDDR3/DDR4マザーがリリースされ、後でDDR4のみのマザーボードが主流になるというトランジションが今回も出てくると予想される。これはマザーボードメーカーにとって大きな商機であり、「Broadwell-Kをすっ飛ばしてSkylake-Sを」という声は当然出てくるだろう。

では、P1273ベースのBroadwellは作られないのか? というと、それはないだろう。Desktop向けプロセッサと共通のプロセスを使うXeon E3ファミリーのマーケットも大きい。いきなりここでBroadwellをすっ飛ばしてSkylakeに飛ぶのは(ソフトウェアのValidationという観点から)困難である。

ただ、P1273ベースのBroadwellをどの程度Desktop向けCPUとして出すかはP1273の成熟次第ではないかと思う。もしP1273が早期に安定して出荷できるようになれば、Skylake-Sを若干後ろにずらしてBroadwell-Kをリリースするのは、「公約を守る」という観点からも好ましい。

一方、P1273の成熟に時間が掛かるようなら、Broadwell-Kをすっ飛ばしてSkylake-SをいきなりDesktopに投入するのは当然選択肢としてありえるだろう。この場合は「Intelの公約違反」という、単にメンツだけの問題である。

ということで、IntelのDesktop CPUは引き続き、14nmのプロセス動向に影響されていると思われる。そりゃしっかりしたロードマップ(=過去の公約とは無関係な、確実なロードマップ)が出てこないのも無理ないところである。

2015年のIDFでIntelはBroadwell-KやSkylakeなどを発表するのは確実と思われるが、問題はそれが本当に大量出荷されるのはいつかということだ。2015年のCeBITあるいはCOMPUTEXあたりのマザーボードメーカーの動向を見れば、もう少しこのあたりがクリアになりそうに思える。