コンセプトを守る、譲れない「一線」
だが、その盛り上がりが一段落すると、設計チームの担当者から次に口を突いて出たのは、「どうやって作るのか」という言葉だった。
デザインチームが見せたのは、あくまでも厚手の紙を使ってデザインしたものである。単純に考えても、中央部の線を起点に液晶を裏返すといった点で、構造上の制約が大きいのは明らかだった。
「もし、中央部に存在感のあるヒンジがついてしまったら、その途端に、クラムシェル型ノートPCを前提とするコンセプトが完全に崩れてしまう」――本石氏は、その点は絶対に譲らないことを前提に、設計チームに、このデザインの具現化を迫ったのだ。それがまた開発チームのやる気に火をつけた。
課題は、やはり、一本の線を起点とする変形構造であった。クラムシェル型ノートPCとしての自然さを実現するには、メカ(金属)としてのヒンジは避けなくてはならない。そこで行き着いたのが、ラバー素材をヒンジ材料に採用することであった。
使用するラバー(TPU)素材は、すでに工業製品などでも採用されており、耐久性についても十分なものであることは実験で確認していた。「何万回もの引っ張りテストなどを行い、耐久性は十分クリアしている。可動部の線材などの処理をどうするかといった課題がクリアできれば採用は可能だと考えた」(本石氏)という。
もちろんコスト上昇の壁もあった。VAIO Fit 13Aは、マス市場に展開するための製品であり、フラッグシップのような価格設定はできない。だが、素材選定や様々な改善の結果、大きなコスト上昇につなげることなく、この構造を実現したという。この素材の採用によって、天板は2mmという溝を見せるだけで、クラムシェル型ノートPCとして、自然なデザインを実現することにつながったのだ。
そして、この溝はむしろ、VAIO Fit 13Aのアイデンティティを示すものになっている。持ち運ぶときには、手で持った位置がちょうど「VAIO」のロゴが隠れてしまう場合にも、この一本の線が、VAIO Fit 13Aであることを示すものになるといえるからだ。
新しい変形機構ならではの懸念
もうひとつのデザイン面からの懸念は、タブレットモードにした際に、金属面同士がぶつかり、傷がつきやすいのではないか、という点だった。これに関しても、何度もテストを行い、傷がつかないことを確認。その結果、2枚板のような形状を実現し、タブレットモードでも特徴的なデザインイメージを演出している。
また、クラムシェル型ノートPCとして使用している際には、液晶ディスプレイ下部のヒンジ部に、ディスプレイロックスイッチを配している。このスイッチもさりげなく、目立たないように置かれている。これをLOCKにしておけば、液晶部の誤回転を防ぐことができ、RELEASEにすれば液晶を回転させることができる。回転の際には、適度な磁力を持った磁石が作用し、スムーズに変形できるようになっている。
「ディスプレイロックスイッチは、むしろ意識して、ロックとリリースを、自然な作法のもとで行うことを考えた。なかには、月に数回しか、ディスプレイロックスイッチを使わない人がいるかもしれない。クラムシェル型ノートPCとして利用することを前提にしたスイッチといえる」(本石氏)とする。
だが、これまでにない変形機構なだけに、変形時の耐久性や、ロックを外したまま液晶を持った際の強度なども課題といえた。これに関しても、各種耐久試験を行い、ソニーの品質基準に達するレベルを実現しているという。
使い勝手を活かす本体カラー
クラムシェル型ノートPCのスタイルを前提したことは、キーボードへのこだわりにも見てとれる。
VAIO Fit 13Aでは、バックライトを採用しながらも、1.2mmのキーストロークを実現。19mmのキーピッチもノートPCとしての操作性を優先したものだ。
「一番使うシーンは、クラムシェル型ノートPCのスタイル。キーボードを使うことが最も多い。しっかりとした打鍵感を実現することは最優先課題のひとつだった」(本石氏)とする。
基本性能は、店頭モデルでは、CPUに第4世代CoreプロセッサのCore i5-4200Uを搭載。メモリは4GB。一方、VAIOオーナーメードモデルでは、CPUが、Core i7-4500U、Core i5-4200U、Core i3-4005Uの3種類から選択できるようにしており、メモリも4GBと8GBを選択できる。ストレージはすべてSSDのみを搭載。店頭モデルは128GBであるのに対して、VAIOオーナーメードでは128GB、256GB、512GBから選択できる。
1.31kgの重量と、12時間のバッテリー駆動時間は、モバイル用途として求められる要素を高いバランスで実現しているといえよう。軽さを求めるならばProシリーズがあり、バッテリー駆動時間を求めるのであればDuoシリーズという選択肢もある。VAIO Fit 13Aは、メインストリームのモバイルPCとしては、十分なスペックだといえる。
最薄部では14.3mm、最厚部でも17.9mm。オプションでデジタイザーペンを用意している。また、前面の92万画素のカメラとともに、背面には799万画素の高性能カメラを内蔵。Exmor RS for PCならではの特徴を生かし、文字などをくっきりと撮影できるようにした。
ここでは、ソニーが新たに提案するVAIO Inspiration Streamにより、タブレットモードにしたVAIO Fit 13Aの背面カメラを、机の上などにある書類にあわせ、OCRスキャナーのようにしてデジタル化するといった使い方もできる。ビジネスシーンでも活用できるソリューションとして訴求する考えだ。
底面カラーをすべて黒としたのは、こうした利用の際に、光の反射などを起こりにくくするという狙いもある。「背面へのカメラ搭載はタブレットモードでの利用がなかったら考えていなかった。VAIO Fit 13Aでは、背面も顔になる。ビスも最小限の露出に留めている」(本石氏)という。
なお、VAIO Fit 13Aの店頭モデルはシルバーのみだが、VAIOオーナーメードモデルでは、ブラックとシルバーの色選択が可能となっている。