このPCは「FitかDuoか?」

ソニーが、VAIO Fit 13Aに込めた思いは、この製品が「Fit」というブランドになったことからもわかる。

VAIOには、現在、「Duo」、「Tap」、「Pro」、「Fit」の4つのブランドがある。

4つのカテゴリは、最先端技術を搭載した上位モデルのProおよびDuo、普及戦略を担うTapおよびFitに2分できるほか、Windows 8の新たなユーザーインタフェースや機能に対応し、2in1などの新たなフォームファクタを持ったDuoおよびTap、従来からのクラムシェル型ノートPCなどのデザインを継承したProおよびFitという分類もできる。この2つの要素の組み合わせで、それぞれのカテゴリの位置付けが明確化されている。

つまり、「Fit」ブランドは、幅広いユーザーに受け入れられる商品カテゴリであり、前提はクラムシェル型ノートPCとなる。一方で、「Duo」は、最先端技術を搭載し、2in1などのWindows 8の操作に最適化したPCのカテゴリとなる。

そうして捉えてみると、変形をする2in1PCであり、Windows 8の先進的な機能にも十分対応するスペックを持つという点では、今回のVAIO Fit 13Aは、「Duo」シリーズのカテゴリに組み込んでも良かったともいえるのだ。

実際、佐藤氏は、「一時、Duoブランドを冠すことも議論した」ことを明かす。だが、あくまでも「クラムシェル型ノートPCとしての使い勝手は譲らない」というところからデザインが始まったこの製品は、「Fit」ブランドに適していると判断したのだ。

「Duoブランドへの展開も、当然議論された」と語る佐藤氏

VAIO Fit 13A(奥)とVAIO Fit 14A(手前)。サイズ感に大きな差はない

デザインチームの提案と、設計チームの盛り上がり

ソニー クリエイティブセンターネットワークプロダクツデザイングループNPデザインチーム・清水稔統括課長は、「普段は意識せずにノートPCとして利用する。ただ、タッチを使いたいという場合にも、変形することを意識せず、最適なスタイルに、自然に、スムーズに変化するというデザインを目指した」とする。

VAIO Fit 13Aはデザインチームからの提案をきっかけにして製品化がはじまっている。4人で構成されたデザインチームは、クラムシェル型ノートPCの形を崩さずに、タッチ操作にも適したデザインの追求を始めていた。

このデザインがスタートしたのは、2012年夏のことであった。

ソニー クリエイティブセンターネットワークプロダクツデザイングループNPデザインチーム・清水稔統括課長

ソニー クリエイティブセンターネットワークプロダクツデザイングループVAIOデザインチームデザイナー・本石拓也氏

ソニー クリエイティブセンターネットワークプロダクツデザイングループVAIOデザインチームデザイナー・本石拓也氏は、「タッチ操作といっても、手で触るタッチ、ペンで操作するタッチ、そして、見せるということを前提にしたスタイルでのタッチ方法もある。これらの操作方法に適したクラムシェル型ノートPCとはどんなものであるかといったことを前提にデザインを進めていった」と振り返る。

デザインチームは、厚手の紙を使って、様々な構造を検討しはじめていた。そのなかのひとつに、天板の中央部に刻まれた一本の線を起点に、液晶を回転させることで、タブレットに変形するという案があった。この構造であれば、手によるタッチ操作にも適しており、タブレット形状でのペン操作も行いやすい。

これをマルチフリップ方式と呼び、いままでのクラムシェル型ノートPCとして使える「キーボードモード」、タッチ操作やペン入力に適した「タブレットモード」、映像の閲覧やプレゼンテーションに最適な「ビューモード」の3つの形状を実現するデザインとして提案したのだ。

このデザインを見た設計チームは異口同音に「これはすごい」と評価した。その際、「テンションの高さは尋常ではなかった」(本石氏)というほどの盛り上がりぶりだったという。

提案時に制作された紙のモック。完成したVAIO Fit 13Aは「この時の設計をほぼ踏襲したものにできた」という