「モバイルウォレット」とは、クレジットカードやポイントカード、身分証やアクセスキーなど、さまざまな情報やデータを束ねてスマートフォンといったモバイル端末に保存し、財布(ウォレット)のように適時取り出して使える仕組みのことだ。日本では「おサイフケータイ」で有名だろう。今回、このモバイルウォレットに関する最新事情を紹介したい。

NFCとモバイルウォレット

スマートフォンなどのモバイル端末にセキュア情報を保存し、クレジットカードを使った決済を行うメリットの1つは、その可搬性にある。例えば財布にクレジットカードやポイントカード、ホテルのルームアクセスキーまで、すべてのカードを保存していたらサイズがかさばるし、なにより適時目的のカードを取り出して使用するのが煩雑だ。もし、これらカードをモバイル端末上にひとまとめにできたら、「モバイルウォレット」として便利に活用できるだろう。さらにNFCの非接触通信で、目的のカードを選択(あるいは自動選択)してリーダーにかざすだけで目的が果たせるならば、財布を懐から取り出してから磁気カードを通し、サインが完了してレシートを受け取るまでの手間が一気に省略でき、さまざまな処理がスムーズになる。モバイルウォレットは、こうした各種サービスを束ねる役割を持っている。

こうしたモバイルウォレットで最も著名なものの1つが「C-SAM」というベンダーの製品だ。米国のISIS、シンガポールのStarHubといった携帯キャリア系ベンダーでの採用実績があり、公表できないものの現在もいくつかの採用プロジェクトが進行中という。日本では大日本印刷(DNP)がライセンスを取得しており、同社技術を使ったDNPモバイルウォレットを昨年2012年にフランスのパリで開催されたCartesでデモしている。1年前の時点では、まだひな形状態のモバイルウォレットとユーザーインターフェイスだったが、今年2013年の同技術をベースに開発された「JCBモバイルウォレット」をデモしており、その動作を見ることができた。

大日本印刷(DNP)が昨年Cartesでデモしていたモバイルウォレットのひな形

JCBモバイルウォレットは10月に米サンフランシスコで実施されたトライアルで利用されたもので、すでに同市場のJCB加盟店一覧が見られるようになっており、項目をタップすると割り引きクーポンといったお勧め情報が表示される。NFCタグを活用した事前オーダー型のプリペイド決済も実装されている。

DNPのモバイルウォレット利用第1号となる「JCBモバイルウォレット」。海外で各種サービスを利用するための機能がモバイルウォレットに凝縮されており、例えば写真のように米サンフランシスコにある店舗のクーポンを取り寄せたり、お勧め情報を参照できる

モバイルウォレットはセキュアアプリの集合体、SP-TSMとの関係

一般に、クレジットカードなどのセキュア情報は「セキュアエレメント(SE)」という専用のハードウェアベースのセキュリティチップに保存されることが多い。ここには複製が困難な状態で各種データや認証のための強力な鍵が保存されており、適時必要に応じてのみ取り出しや照合が可能となる。SEはFeliCaであれば専用チップに、Type A/BであればUSIM (UICC)上に存在している。ただし安全性を担保するためにSE内のセキュアなアプリ(アプレット)はユーザーが直接インターネットダウンロードして書き込むのではなく、TSM (Trusted Service Manager)と呼ばれる専用のサービス事業者との通信でOTA (Over The Air)による配信や制御を受けることになる。