東北大学は5月21日、細胞がドレスを着るように後天的に変化することから、今回の研究者らによって名付けられた「ドレス現象」による、「ナチュラルキラー(NK)細胞」の細胞死機構を発見したと発表した。

成果は、東北大 加齢医学研究所の中村恭平研究員、同・生体防御学分野の小笠原康悦教授、同・医学系研究科の張替秀郎教授、同・血液・免疫病学分野の石井智徳准教授らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間5月20日付けで米国科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

NK細胞は、腫瘍免疫、感染免疫などにおいて中心的な役割を担うリンパ球の1種だ。感染や腫瘍局所では、NK細胞が増殖し活性化してウイルスや標的細胞を殺したり、免疫細胞の1種である「樹状細胞」との相互作用でリンパ球の主力である「T細胞」を活性化させて免疫力を増強したりする役割を担う(画像1)。しかしNK細胞については、増殖して活性化することはまだしも、逆にどのようにして減少し、正常状態に戻るのかについてはよくわかっていなかった。

画像1。NK細胞の働き

NK細胞は「NKG2D」と呼ばれる主たる活性化受容体を持ち、活性化して腫瘍組織に入り込み、がん細胞上にある「NKG2DL(NKG2Dリガンド)分子」を目印にがん細胞への攻撃を行う(画像2)。しかし、これまでがんの免疫療法で効果をあげることができなかった症例では、急速なNK細胞死が観察されていた。その理由は前述したように不明だったのだが、今回のマウスを用いた実験により、NKG2D-NKG2DLの相互作用でNK細胞死が起こるということが判明した(画像3)。

画像2。NKG2D受容体は、NK細胞が以上細胞を攻撃する体の主たる受容体だ

画像3。急速なNK細胞死の理由はわかっておらず、これまではNKG2D-NKG2DLの相互作用が招くと推測されていた

具体的には、NK細胞ががん細胞を攻撃した際にNKG2DLを獲得し、「NKG2DL-dressed NK細胞」に変化してしまい(画像4)、その結果、これまでは自分もその一員だった活性化NK細胞の標的となり、急速なNK細胞死が起こることがわかったのである(画像5)。

画像4。NKG2DL-dressed NK細胞は膜を取り込むことで誕生する

画像5。今回判明した急速なNK細胞死の仕組みの模式図

これが意味するのは、がんの免疫療法においてNK細胞を活性化して増殖させても、それのみではがん細胞によるNK細胞のドレス現象によりNK細胞は減少し効果が減弱してしまうことを意味する。前述したように、これまでがんの免疫療法で効果をあげることができなかった症例で急速なNK細胞死が観察されているわけだが、今回の発見はその1つの原因である可能性が考えられるという。

研究チームはこのドレス現象をコントロールする方法を見つけることができれば、より効果的な腫瘍免疫療法の開発につながることが期待されるとしている。