13時間のバッテリ駆動時間は、先行したKIRA V632では譲れないスペックだった。
「モバイル用途を考えれば、13時間のバッテリ駆動によって、安心して利用してもらうことを目指した。それを実現するために、部品のひとつひとつを検証し、1mW単位での改善を加えていった」と語るのは、東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 設計開発センター デジタルプダクツ&サービス設計第三部 第二担当主務・堀江裕氏。あるとき、搭載した特定のユーティリティソフトが、かなりの電力量を消費することがわかり、その改善も大きな課題となった。
「13時間もの駆動を計測できるのは一日に1回。何度も繰り返し検査ができないため、どうしても時間との勝負にならざるを得ない部分もあった」と、堀江氏は笑いながら振り返る。
基板およびバッテリのレイアウトを進める中で、キーボードの操作感をより快適にすることも重要な課題だった。
設計開発センター グループ長・古賀氏は「Ultrabookだからといって、打鍵感を犠牲にすることは避けたかった」と振り返る。デザインセンター 参事・杉山氏も「納得のいく打鍵感を実現するために、19mmのキーピッチ、1.5mmのキーストロークを実現することを目指した」と異口同音に語る。
1.5mmのキーストロークを実現するには、本体に一定の厚みが必要になる。そこで、キーボード周辺の基板配置を変えるなど、試行錯誤を重ねてキーボード部分の厚みを吸収。さらに、キーキャップの中央を0.2mmほど凹ませて、指が吸いつくような打鍵感を実現したという。
キーボードが「トランポリン」なのは×
東芝のPC開発部門には、「トランポリン」という社内用語がある。これは、キーボードを打った際に、キーボード自体がたわんでしまい、操作しにくい様子を指す。トランポリンは悪いキーボードの代名詞だ。
「トランポリン化しない打鍵感の実現にもこだわった。作ってみて、改良するという繰り返しは10回以上に及んだ」と、東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 設計開発センター デジタルプロダクツ&サービス設計第一部 第一担当・佐藤努氏は語る。
R632では1.2mmのキーストロークだったが、それに比べると、KIRAシリーズの打鍵感はまったく異なるものとなっている。こうした操作性へのこだわりが、KIRAシリーズの快適な打鍵感を実現したといえる。
だが、開発チームの苦闘は、それだけでは終わらなかった。
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