東芝 デジタルメディアエンジニアリング 共通ハードウェアセンター メカデザイン技術担当 メカデサイン第二チーム シニアエンジニア・立道篤史氏

東芝 デジタルメディアエンジニアリング 共通ハードウェアセンター メカデザイン技術担当 メカデサイン第二チーム シニアエンジニア・立道篤史氏は、「デザインされたものを、そのままの形でいかに具現化していくかが、構造設計部門の仕事。しかし、様々な要因が組み合わさり、それがなかなか実現できないのが実情」と明かしながらも、「KIRAシリーズでは、設計思想そのものから見直しを行い、さらに製造手法にも踏み込んだ改革によって、デザイン通りの製品づくりを達成した」と語る。

なかでも大きな変化は、「寸法精度」の大幅な改善であった。

たとえば、PCの組み立ての際には、歩留まり率を維持するために、一定の“隙間”が必要とされる。つまり、設計側が単純に隙間を小さくすれば済むという話ではない。こうした点においても、KIRAシリーズでは構造設計部門と製造部門とが連動して、部品同士の位置決めを的確に行い、隙間を均一にする治具を共同で開発するなどの取り組みによって寸法精度を高めたという。

「たとえば、R632では0.4mmの隙間を空けていたものを、KIRAでは0.2mmの隙間にするなど、50%もの水準で精度を高めている」(立道氏)。設計部門と製造を統括する部門とが同じ青梅事業所内にあることも、こうした取り組みを推進するにはプラスだったといえよう。

ちなみに寸法精度向上の成果は、こんなところにも出ている。KIRAシリーズのキーボードにはバックライトが装備され、暗い部屋でもキーをしっかり視認できるようにしている。このバックライトがキーボードの隅々まできれいにムラなく明るくしているのも、87キーの隙間がすべて均等になっているからだという。

コネクタやキーのまわりなど、あらゆる隙間にこだわりが

奥行き20mm減と長時間駆動を支えた基板設計

KIRAシリーズのデザインをそのまま実現するために、最大の困難に直面したのが、基板の設計であった。

コンシューマ利用を想定したKIRAシリーズでは、R632で搭載していたアナログRGBおよびEthernetポートがない分、基板は小さくできるが、それだけでは奥行を20mm縮小したきょう体の中にすべてを埋め込むことは不可能だった。

東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 設計開発センター デジタルプダクツ&サービス設計第一部 第三担当・村上満洋氏

「基板の小型化とともに、13時間駆動を実現するためのバッテリサイズが必要。最初は、どうやってもはみ出していた」と、東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 設計開発センター デジタルプダクツ&サービス設計第一部 第三担当・村上満洋氏は開発当初の様子を振り返る。

だが、開発チームはこのデザインを変更することも、バッテリ駆動時間を短縮することも、「逃げ道」とはしなかった。基板の小型化とバッテリを含めた部品のレイアウトの改良にしか、回答はないという姿勢を貫き通した。

実装設計チームは、基板を1mmずつ小さくする努力の積み重ねとともに、バッテリに使用するセルも最適に配置できるものを選んで、きょう体内のレイアウトに改良を加えて行った。

そして、村上氏が選んだひとつの回答は、10層基板を採用することだった。R631では8層基板を採用し、薄さを徹底追求したが、KIRAでは10層基板を採用することで、基板そのものの省スペース化を図ることができたというわけだ。実際、KIRAシリーズの基板サイズは、R632に比べて約33%小型化しているという。

dynabook KIRA V832内部。バッテリが大部分を占める

R632(上)とV832(下)のマザーボードを比較

バッテリにも前例なきチャレンジが

さらに、最薄部で7.6mmという、くさび型の形状を実現するために、基板を後方に配置するとともに、前方にはバッテリの回路部を配置。バッテリパッケージを斜めにレイアウトするという構造を採用した。

回路を前面に配置し、セルを斜めに配置するというのは、東芝としても初めての挑戦だったという。回路を前面に配置したため、基板との配線におけるノイズ発生を抑えたり、バッテリの揺れを抑える工夫を加える一方、複雑なレイアウトのなかで、アンテナからのノイズを遮蔽するための工夫も凝らされた。村上氏が、なんとかきょう体内の基板およびバッテリのレイアウトに目途をつけることができたのは、2012年8月中旬のことだったという。

セルを斜めに配置するなど工夫を重ねたバッテリ

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