「The Kinect Effect」と題したPart 3は、Kinectが与える社会的な効果を紹介。家庭で楽しむゲームの活用例は既に実現しているので割愛するが、2011年11月に公開されたビデオでは、手術シーンやリハビリシーンなどで活用されるKinectを取り上げている。このようなゲーミフィケーションを取り入れつつ、リハビリ治療を行う場面にもNUIを具現化したKinectが有用であるとアピールした。

この他にも米国のデパートであるBloomingdale's(ブルーミングデールズ)に設置されたショーウィンドウでは、洋服やアクセサリーを身に付けなくともディスプレイ内で着替えられるバーチャルフィッティングルームを紹介している。あくまでも当時はイメージビデオだったが、海外では既にいくつかの実用例があることを紹介し、日本国内でも医療現場で実用化されているのは以前の記事でも紹介したとおり。このようにNUIは一歩ずつ現実世界に浸透し始めているのだ(図06~07)。

図06 Kinectの導入で子どもでも楽しくリハビリ治療を行えるというイメージシーン(画像は動画より)

図07 米国のデパートに設置しているバーチャルフィッティングルーム。店内で販売している洋服をディスプレイ内で試着できる(画像は動画より)

そして最後となるPart 4は「What's Next?」と題し、今後のNUIについて説明している。記事では「The Internet of Things」「Big Data and Machine Learning」「Speech」「Computer Vision」「Machine Translation」と五つのテーマを用意しているので、一つずつ解説しよう。

一つめの「Internet of Things」は、スマートフォンや自動車、白物家電などあらゆるもの(Things)がインターネットへつながり、コミュニケーションを実現する技術を指すキーワードである。Internet of Thingsは今現在も実現しつつあるが、そこにNUIという新たなインターフェースが活躍する場があると、Clayton氏は例を交えて解説した。ただ、この文書を読むよりも一つの動画を見た方が理解しやすい。元となるのは2011年にOfficeチームが公開したコンセプトビデオである。以前のレポート記事で概要を解説しているので併せてご覧いただきたい(図08)。

図08 2011年にOfficeチームが公開した将来のコンピューターを予想したビデオ。NUIという概念が至るところに込められている(画像は動画より)

「Big Data and Machine Learning」は、最近話題のビッグデータとNUIの連動である。そもそもビッグデータは文書や動画などあらゆるタイプを含む膨大なデータの集合体を指し、多様化するデータが非構造化であることを踏まえ、膨大なデータを効率的に処理し活用する新たなビジネスとして注目されている。一見するとNUIとの連動性がないように思えるが、例えばWindows Phoneのキーボード入力には学習機能を備えているが、このロジックはNUIを実現するために収集すべきロジックと通じるものがあり、より良いNUIを実現するために、ビッグデータの解析は重要であるとClayton氏は説明した。その結果として、スケジュールを自動的にコントロールするスマートアシスタントが具現化するだろうとも付け加えている。

「Speech」は既に実現化しているので割愛し、「Computer Vision」について述べておこう。Clayton氏は以前本レポートでも紹介したMicrosoft Researchの「IllumiShare」を取り上げ、同研究所のSasa Junuzovic氏らが紹介した同プロジェクトに感動したと述べている。IllumiShareは物理的に離れた相手同士が、同一のホワイトボードにメモや数字を書き込むことを可能にするという技術だ。カメラを用いてそこに描かれたものをリアルタイムで共有することで、双方が書き込んだ文字や図がリアルタイムで反映される。そのため、相手が横にいなくともカードゲームを楽しみ、テストの採点などを行うことが可能だ。Clayton氏は、IllumiShareを実現するにはKinectが必要であることを強調。現在は研究段階であるIllumiShareが商品化する際はNUIを具現化したKinectと連動するのだろう(図09~10)。

図09 Microsoft Researchの「IllumiShare」を紹介する同研究所のSasa Junuzovic氏(画像は動画より)

図10 「IllumiShare」は物理的に離れた相手同士が同一のホワイトボードにメモや数字を書き込むことを目標としている(画像は動画より)

そして最後の「Machine Translation」。こちらは以前のレポート記事で紹介したように、Microsoft Researchによる音声翻訳技術で今後のNUIに欠かせない分野の一つである。Clayton氏は英国の週刊新聞であるThe Economistが書いたConquering Babelを引用し、同分野の進展を紹介した。蛇足だがここでいう"バベルの解消"は、旧約聖書に登場するバベルの塔のように、言語の壁を生み出した神の意志を超える意味合いで同編集部が付けたタイトルだろう(図11)。

図11 Microsoft Researchの最高調査責任者であるRick Rashid(リック・ラシッド)氏が行った音声翻訳技術のデモシーン(画像は動画より)

このようにNUIを具現化したKinectシリーズや、将来我々が手にできるであろう近未来のデバイスは実現に向けて一歩ずつ歩みを進めている。生活を大きく変えるNUIが浸透することで現実世界がどのように変化するのか。筆者の想像できる範囲をはるかに超えているが、今後もNUIに対しては深い興味を持って注視し、多くの情報を本レポートで紹介していく。

阿久津良和(Cactus