レノボ・ジャパンThinkPadが、Ivy Bridgeプラットフォームを採用してラインナップを全面刷新した。3桁数字のモデル型番の末尾2桁が"x20"から"x30"へと移行した今世代では、さらに伝統の7列キーボードがついにその役目を終えており、このトピックも含め、ThinkPadの長い歴史の中でも転換期として記憶される世代になるだろう。その新世代ThinkPadから、フラグシップの"T"に属し、かつ薄型プレミアムラインの「ThinkPad T430s」を入手したので、さっそくレビューをお届けしたい。

「ThinkPad T430s」

CPUより気になる!? キーボードの使い心地

この"x30"世代のThinkPadにおける最大の関心事は、キーボードだろう。普通のノートパソコンであれば、内部のパーツがどう変わったのか、とか、外観デザインは……、ベンチマークの結果は……、といったあたりが注目されるのであろう。が、ことThinkPadにおいては、いわゆる「伝統の7列キーボード」と「トラックポイント」こそが、"ThinkPadらしさ"の象徴であり、アイデンティティのひとつでもあったはずだ。これが変わったというのはThinkPadファンにとっては相当な衝撃である。なので、まずはここから見ていきたい。

ThinkPad T430sのキーボード

新世代のThinkPadが採用するキーボードは、既存モデルのThinkPad X1が採用していた6列アイソレーションタイプのキーボードをベースに、フィーリングや配列を改良したものだとされる。キーのサイズ面を実測してみると、文字入力キーのキートップが縦約15mmで、縦約13mm(キー端)~15mm(キー中央)、キーピッチが縦横約19mm。キートップには微妙なくぼみがあり、ここまでは従来の7列キーボードのものと変わらない。ファンクションキーは横一列に並んでおり、他のキーよりほんの少しだけキートップの高さが高く設置されている。

文字入力キーのキートップが縦約15mmで、縦約13mm(キー端)~15mm(キー中央)、キーピッチが縦横約19mm。キートップには微妙なくぼみがある

ファンクションキーは横一列に並んでおり、他のキーよりほんの少しだけキートップの高さが高く設置されている

とりあえず、筆者はThinkPad暦はそれなりに長く、学生のころからちょくちょく、またテキストライティングを主とするこの編集記者の仕事について以来は、業務ではずっと7列キーボードのThinkPadを乗り継ぎ使い続けてきた人間だ。なので、ちょっと製品に対する思い入れが強く、なるべく冷静にレビューすることを心がけるが、場面場面であまり公平ではない情報になってしまっている可能性もあることを、あらかじめご了承いただきたい。

ボリュームコントロールやミュートなどのボタン

電源ボタンは右端に移動していた

トラックポイントは健在。従来と互換性ありなので、交換キャップもそのまま使える

タッチパッドまわりはデザインそのままで、特に大きな変更はないと思われる

ともあれ、ThinkPad T430sのキーボードだが、機材を入手してから本稿を掲載するまでの約1週間ほど、これを実際に筆者の編集部での業務で使ってみた。ちなみに、本稿の原稿も、そのT430sで書いている。さて、直近でもっとも長期間、業務で使っていた7列キーボードのThinkPadは、ThinkPad T410sなので、これとの比較ということで使用感などを述べさせていただく。

T410sと比較。左がT410sで、右がT430sだ

まずはおおまかな打ち味だが、現在のところ、悪く感じないというか、むしろ好印象を持っている。実際にはキーストロークはそんなに変わっていないらしいのだが、筆者の感想としては、キーストロークは浅くなっているように感じる。一方で、鍵打した際の指へのフィーリングが、従来にくらべ打ち始めは硬め、というか、たぶん本当は硬くは無いのだが、鍵打感が明確にある感じで、その打ち始めを越えると、そのままスルッとかなりスムーズに、スピード感が出る感じで底までつき、底打ち感はがっしり、びくともしない感じで、そこまで指を離すとスッとすばやくキーが戻ってくる感じだ。

フィーリングは結構違うが、比較してスピード感のあるタイピングができた

T410sの従来キーボードと、改めて打ち比べてみると、従来は、打ち始めの部分は、ある程度遊びをもった、しかし鍵打感は感じる、やわらかめのクリックに近いような感触で、その後フワッとストロークし、底付もやさしく受け止めている印象となる。底付に関しては、ハードウェアとしては明らかに、T430sのキーボードベースが堅牢になっている感じで、そのことが底打ち感の印象の違いにも大きく影響しているように感じる。全体的に、おおまかに言うと、新キーボードはシャキ、従来キーボードはフワッ、という印象だ。

少なくとも、QWERTのキー領域のローマ字変換での日本語ライティングでは、このT430sの6列キーボードの方が打鍵スピードが出た。1週間使った結果ではなく、それこそ、使い始めた日のうちに、かなりのスピードでテキストを打つことができた。アイソレーションタイプになって、打ち間違いの増加が不安であったのだが、もともと台形キートップだった7列時代と、キートップの鍵打スイートスポットのサイズは変わらないようで、またキーピッチも同じなので、実際にはこの部分での違和感も皆無だった。違和感はもう見た目だけで、ブラインドで打っていれば何も変わらない。これはかなり優秀なキーボードなのかもしれない。

一方で、前述のストロークのフィーリングや底付のがっちり感の違いからなのだろうが、従来の7列キーボードの感覚で、さらにスピード感も増している状態でガシガシと鍵打していたら、これが筆者の、この6列キーボードに対する目下最大の問題なのだが、指が痛くなった(笑)。もう少しソフトにキータッチする癖を、早々に指に覚えこませないと、結構つらいことになりそうだ。個人の慣れで解決させる部分なので、このThinkPadに対してフェアでは無い意見だが、これまで7列を使い込んでいたユーザーは、ちょっと覚悟した方が良いだろう。

慣れの問題では、ついでに、ファンクションキーはやはりちょっと使い辛い。以前までは、F4とF5の間にスペースがあったり、ある程度区分けされた配列だったのが、横一列に等間隔で並んでおり、F2やF5を多用する筆者の場合などは、現在これを頻繁に押し間違えており、やや不満が残っている。また、カーソルキーも頻繁に利用するのだが、以前までは、キーボード最上段に並んでいたページアップ/ダウンキーが、カーソルキーのところに移動してきたせいで、指に覚えさせるのに苦労している。ついでにカーソルキー、以前は文字キーと変わらない感覚で打てたのが、今回は文字キーと明らかに打ち味が違う感じがして、微妙にカチャカチャ感があり、すこし打ちづらい。

ファンクションキーが、すべて等間隔に一列フラットで並んでいるので、慣れるまではやや違和感があった

カーソルキーは、打ち味の違いがあるとともに、ページアップ/ダウンキーに慣れが必要。もう少し大きめのキーだとさらに良い気がする

とまぁ、筆者の使い道や慣れに起因する部分の大きい文句が無いわけではないが、全体としては、このキーボードはかなりいい。本当は、ThinkPad信者(?)として、「俺の大切な7列キーボードを変えやがって!!」と、ちょっとは不満を述べちゃおうかな、などと思っていたのだが、今回は大和研究所のキーボード開発者の方々に完敗した気分だ。いや、どうやら個人的には打鍵効率がかなり向上してしまっているし、業務上かなり嬉しくはあるのだが、なんというか、くやしい。指が痛くならないくらい、このキーボードに慣れたころには、筆者は周囲に新6列キーボードの良さを吹聴する人間になってしまっているのだろうな、などと思うと、ちょっと複雑な心境になってしまった。

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