ターボシステムズは2月2日、Intelと共同で記者説明会を開催し、ここで「Intel E600」向けのAndroid BSPである「Android BSP for Intel Atom Processor E600 Series」を発表した。

説明会冒頭、まずIntelの津乗学氏(Photo01)がIntelの組み込み向けマーケットの事業戦略について簡単に説明を行ったが、内容的には昨年11月のET2011における基調講演とほぼ内容が被るので、ここでは割愛する。ET2011ではオムロンのシーケンサがAtomベースということで紹介されていたが、今回のメインはAtomをベースとしたシステム向けのAndroid対応の話である。こちらはターボシステムズの谷口剛社長(Photo02)からもう少し細かい話が行われた。

Photo01:インテル クラウドコンピューティング事業本部 エンベデッド・マーケティングの津乗学氏

Photo02:ターボシステムズ代表取締役社長の谷口剛氏。氏によれば同社はもう10年ほどLinuxベースのソリューションを手がけてきており、ここ2年はAndroidをやってきているそうである

本日のメインテーマは"Android BSP for Intel Atom Processor E600 Series"を発表したことであり、同日より同社の専用WebサイトよりこのBSPを無償で入手可能となっている(Photo03)。

Photo03:専用サイトはコチラ。ユーザー登録は必要だが、誰でも入手できるとのこと

なぜAndroidか?というと、この動機そのものは既に良くありがちな話である(Photo04)。

Photo04:各々の項目そのものはさして珍しい話ではない。まぁ今もって解決するには色々遠い状況が続いているからこそ、様々なベンダがソリューションを提案する余地があるのだが

この解法の1つとしてAndroidが注目を浴びているのはご存知の通りである(Photo05)。

Photo05:解の1つがOSとしてAndroidを使うこと、というのは他のベンダも言っている話で、これはこれで間違いない。この図にあるように、これだけで「解決」とまで言い切れるかは疑問だが

GUI周りに関して言えば、シングルウィンドウながら高度なウィンドウ操作が可能で、かつマルチタッチを含むタッチパネルインタフェースと従来型のキーボード/マウスに対応したインタフェースを持つ組み込み向けのGUIというのは、AndroidとWindows CE位しか存在しない。こうしたGUI周りの開発工数をAndroidによって大幅に減らせるのは、間違いなく事実である。またAndroid自身が、単に携帯電話やTabletのみならず様々なEmbedded Application向けの対応を当初から想定しており、実際こうしたAndroid向けの各種ミドルウェアなどを提供するベンダも出てきた。

最近の話で言えばアプリケーションそのものはJava(とほぼ互換のDalvik)で記述するので、既に多く存在するJavaエンジニアを開発者リソースとして利用できる点も大きい(Photo06)。またAndroid自身の認知度もずいぶん上がっており、また歴史は短いものの非常に急速に広がり、多くのプラットフォームで「揉まれた」ことによる実績と安心感も大きいとする。

Photo06:今回のターゲットはAtom E600が対象

ところで通常BSPという場合、ボードとのパッケージの形で提供される。というよりも、半導体メーカーのリファレンスボードや開発用ボードにBSPが付属する形だ。今回同社のBSPがターゲットとしているのはイノテックのTX-70で、これにキャリアボードとして「T73」を組み合わせた構成を想定しているそうだ。この組み合わせはターボシステムズでも販売の予定がある模様だ(こちらの下にあるコンタクトフォームから問い合わせを掛ける形)。

同社としては現在Atom E600ベースのAndroid BSPを7種類ほど手がけているそうだが、今回リリースするのはTX-70向けという事になる。このあたりは、今後対応プラットフォームを増やしてゆきたいという話であった。また今回提供されるBSPはAndroid 2.3ベースのものとなる。このAndroid 2.3向けのJNI(Java Native Interface)もまた同社から提供される。

ターボシステムズとしては、このBSPそのもので儲けるというのは始めから考えていないそうで、その代わりにカスタムハードウェア向けのBSP移植を含んだドライバ開発や、今後のOSを含むメンテナンスといったサービス部門で収益を確保したいとの事だった。会場では、実際にTX-70を使ってのサンプルアプリケーションのデモ(Photo07~09)や、別のボードへの移植デモ(Photo10)が行われた。

Photo07:ヒートシンクの下にTX-70ボードが隠れている。USBコネクタなどが接続されているのがT73で、ここにWiMAXと(ハードウェアキーボード代わりの)マウス、それとUSB接続のFelicaリーダーが搭載されている

Photo08:AndroidでFelica Readerを構築した例。これはごく簡単にできるとか

Photo09:Felicaで読み取った搭乗情報を基にGoogle Mapを呼び出して表示させるといった例。こうしたアプリケーションがAndroidだと簡単に構築できることを示した

Photo10:こちらはNECエンベデッドプロダクツ(旧NECパーソナルプロダクツ)の試作品だそうである。液晶の裏に、やはりAtom E600ベースのボードが隠れている

ところでここまでの話ではIntelが肩入れする理由が見えてこない。実のところ未だにIntelはAtom E600に対応したAndroidを含む各種OS向けBSPを自社では一切提供していない。その代わり、サードパーティと協力する形でサードパーティからのBSP提供を促進すると共に、開発者に対して必要ならこうしたBSPを紹介するという形でのマーケティングを行う。これは別に日本だけでなく全世界で共通である。Intelの関係者によれば今回の場合、BSPの開発が日本国内で行われている事、つまり何か問題が出た場合の対応が海外より取りやすく、しかも日本語で話が出来る(海外のBSPだと、トラブル対応は原則英語になる)あたりが大きなポイントで、こうした特長を求めているお客様(つまりアプリケーション開発を行っている会社)に、このAndroid BSPを紹介してゆきたいとの事であった。