――個人ユーザー以外にも普及は進んでいるのでしょうか?

「大企業というレベルでは、導入例はまだありませんが、スモールビジネスの世界では、アメリカではすでに導入が進んでいます。特に多いのは、工事や不動産、流通といった分野です。例えばあるスーパーマーケットでは、何か問題が生じた際に、チェーン店の店長が写真を撮って本部に報告する際に活用しています。

リテラシーが十分ではないため、デジカメの写真をPCに取り込んでレポートを作成するというレベルまでは困難ですが、とりあえず写真を送るだけならEye-Fiが最適です。また損保業界では、自動車事故が起きた際に、まず近くにいるアルバイトの人が写真を撮って送り、それを見てからプロが指示をするといった活用例があります。

「Eye-Fi Center」から写真のアップロードが可能。共有したい写真を選択し、下のバーに入れていく

こうしたBtoBの利用シーンは、アメリカではかなり広がっています。もちろん、それにも増してBtoC、つまりエンドユーザーの利用層はアメリカでは確実に広がっています。デジカメ好きではない一般ユーザーまで広がっています」

――日本ならではの販売戦略としてはどんなものを考えていますか?

「私の考えでは携帯ショップでの販売を狙っています。最近の携帯電話は高機能化が非常に進んでいますが、それでも、ちゃんとした写真を撮る場合はデジカメを使うという考えは残っています。若い人にとっては、携帯電話によって写真を撮る楽しみを知り、そこからデジカメにステップアップするという流れがあります。しかし、携帯電話の場合は撮ったデータをすぐに共有できますが、デジカメではそれができません。携帯電話からデジカメへとステップアップする過程で、画質やスピードはグレードアップしますが、コミュニケーション性能という点ではグレードダウンしてしまうのです。

その部分を補うツールがEye-Fiカードです。今後さらに公衆無線LANや家庭内無線LANが普及すれば、携帯電話のような感覚でデジカメの写真を共有することが可能になります。現状であれば、最近流行しているモバイル版のWi-Fiルータなどと、Eye-Fiカードをセットで販売することで、いい写真を携帯電話のようにリアルタイムで共有できるというストーリーを伝えていけると考えます。これはたぶん、携帯カメラが進化している日本独特のマーケティングだと思います」

Eye-Fi Viewで写真を共有する場合は、メーラーが自動で立ち上がる設定

――現状のEye-Fiカードユーザーはどんな層が中心でしょうか?

「35歳以上の男性の方が主体です。その方たちの、スマートフォン所有率やツイッター使用率は高いといえます。ちなみに、オンラインサービスにデータを送る人は、ユーザー全体の約45%になります。それ以外の方はPCにのみに転送しているようです。また、オンラインサービスだけに送る人は3%ぐらいいます」

――さらにどのあたりの層に普及させたいですか?

「もっとアーリーアダプターをしっかりと囲って行きたいと思います。そうすれば自然発生的にマジョリティに入っていくと思います。日本のユーザーの場合、無線LANが難しいという印象を持っている人がまだ多いようです。今後、家庭内無線LANや公衆無線LANがどう広がっていくか、また地下鉄などの移動体での無線LANがどれくらい普及するかが、Eye-Fiの普及にとってもキーになります」

――Eye-Fiカードの価格設定は、高くないですか?

「これだけ円高なのでもっと安くして欲しいという声もあり、もちろん値段を下げて販売したいという気持ちを持っています。ただ、フラッシュの値段次第という面があります。自社開発のチップを搭載するなどカードの中には小型のコンピュータが入っているようなもので、現状でもかなり無理をした価格設定をしています。

Eye-Fi Viewのような様々なサービスを充実させることで、カードを安くするという考え方はあります。カード自体を通常のSDカードと同じくらいにするのが理想かもしれません。しかし現状では、通信機能の有無によるカードの価格差は、6倍以上もあります。この差を5倍に縮めたとしても、状況は何も変わりません。仮に2倍の価格差を実現できたとしても、それでもまだ2倍もの差があると感じる人もいるでしょう。

結局のところ、Eye-Fiカードの便利さは、使ってみなければ伝わらないものです。実際のユーザーからは、5千円以上の価値が十分にあると評価をいただき、時間にしてみれば2日間くらいでペイする価値があるという声もいただいています。

人からEye-Fi経由で写真を受け取り、Eye-FiカードやEye-Fi Viewのことを知り、その利便性や価値を感じていただけた人が、我々にとっての次のターゲットです。そうした普及が今後さらに広がっていけば、戦略的に価格を合わせていきたいと思います」