消費電力(グラフ49~52)

まずグラフ49に実効消費電力の絶対値を示す。ただ、実のところこれに意味があるかと言われると、余り無い。というのは、オンボードデバイスの構成などが全く異なるためだ。冒頭に書いたとおり、AMD 890FXの売りの一つは65nmプロセスによる省電力性だが、ASUSTeKのCrosshair IV Formulaはハイエンド向けにオンボードデバイス満載の製品であり、多少のチップセットの省電力性など全部これで帳消しになっている感がある。勿論不要な機能は全部BIOSで無効にしているが、「無効にしている≠消費電力は0」であり、これによる無駄な消費電力がそこそこにあると思われる。IntelのDX58SOも似たようなものだが、Crosshair IV Formulaほどにはオンボードデバイスは多くない。一番オンボードデバイスが少ないのは、今回の場合はCore i7-860用に用意したASUSTeK P7P55Dで、上位のEVO/DELUXE/Premiumに比べるとオンボードデバイスなどはかなり少なめとなっている。このあたりを念頭におくと、待機状態におけるPhenom II系の消費電力の多さは、どこまでがCPUでどこまでがマザーボード(の余計なオンボードデバイス)なのか、はにわかに判別しがたい。

そこで、グラフ50では差分をとってみた。これは待機状態(High)と、SandraのDhrystone以下の値の差を示したものである。厳密には色々有るのだろうが、大雑把にはこれでオンボードデバイスなどの分が消えて、純粋にCPUとGPUによる消費電力の増分のみが示されることになる。

さて、数字を見てみると「意外に差が無い」という印象を受ける。面白いのは、X6 1090T(2.4GHz)の結果が意外に低いこと。グラフ49から判るとおり、待機状態ではやや消費電力が大きくなっているのだが、稼動時の消費電力は殆ど変わっておらず、結果として数値が低めに振れていることになる。効率良くアクセスできている分、無駄な消費電力が抑えられている、という事なのかもしれない。それはともかく、Phenom II X6の消費電力の増分は、Phenom II X4に比べるとさすがに増えているとはいえ、Core i7-860/930とそれほど大きなものではなく、結果的には同レベルと判断してよさそうに思える。

次に、前回もちょっと触れたコアの数による消費電力の増加分である。Crosshair IV Formulaは6コア(Photo22)のみならず4コア(Photo23)のCPUでもこれを個別に設定できるので、これも実施してみた。ちなみにCore i7-860/930は1/2/Allのみの設定しかないため、こちらは1/2/4コアでの測定となる。

Photo22: こんな具合に、コア単位でActive/Deactiveを設定できる。特定のコアだけをDeactiveに出来るあたりが面白い。

Photo23: 4コアではちゃんと項目も4コア分に減る。

ちなみに前回うっかり書き忘れたが、このテストではTurbo COREやTurbo BoostをEnableにすると動作周波数がその分上がってしまうため、いずれのケースもTurbo CORE/Turbo Boostを無効にして実施している。ただしHyper-Threadingは有効のままである(ここまでずっとHyper-Threadingを有効にしてテストしているので、ここだけ無効にするのも変だと思ったからだ)。

Dhrystoneがグラフ51、Whetstoneがグラフ52となる。ここから各々の数値の直線近似値を算出してみると、

Dhrystone 0切片 1コアあたりの消費電力
X4 965 140.0 16.70
X6 1055T 129.7 12.29
X6 1090T 129.5 14.06
X6 1090T(2.4G) 132.8 14.49
i7-860 114.5 17.21
i7-930 126.0 19.43
Whetstone 0切片 1コアあたりの消費電力
X4 965 138.5 13.90
X6 1055T 129.3 9.86
X6 1090T 128.7 11.43
X6 1090T(2.4G) 132.2 11.80
i7-860 113.0 15.00
i7-930 126.5 16.64

となる。大雑把に言うと、

  • Uncore部の消費電力が一番多いのがPhenomII X4で、Phenom II X6に比べ10W程度高い。i7-930はPhenom II X6よりちょっと少ない程度、i7-860は更に10W以上低いが、こちらはオンボードデバイスの影響も考えられるので、断言はしにくいところ。
  • コアあたりの消費電力は、Core i7は2.8GHzと低い周波数にも関わらず、結構高めである。Phenom II X4 965は3.4GHzと動作周波数が最高にも関わらず、i7-860よりもやや低めに抑えられている。もっと低いのはPhenom II X6で、3.2GHz駆動の1090Tで14W(Dhrystone)/11W(Whetstone)である。1055Tは更に低いが、これは動作周波数が更に下回る(2.8GHz)から当然とも言える。

といった傾向が見えてくる。つまりPhenom II X4も決して消費電力が多いとはいえないのだが、Phenom II X6は更に低いことが明確である。このあたりは、プロセスの熟成などで随分改善したものと思われる(特にUnCore部の消費電力が下がったのは、勿論回路設計し直しもあっただろうが、コア数が増えれば普通は消費電力が増えそうなもので、10Wも下げたのは見事といえる)。