移動体通信事業が牽引、過去最高の業績となった07年度決算

ソフトバンクの孫正義社長

ソフトバンクは、2007年度通期(2007年4月-2008年3月)の連結決算を発表するとともに、中国市場を足がかりにしたインターネット世界戦略を示した。同社の孫正義社長は「China Mobile(中国移動)、Vodafoneグループとの協業により、携帯電話加入者7億人向けのアプリケーション、コンテンツ提供基盤ができる」と述べ、ソフトバンクは「国内3番手の携帯電話会社になろうという意識はない」との姿勢を強調した。また、同社携帯電話とIP電話「BBフォン」、直収電話「おとくライン」との間の国内通話を24時間無料とするサービスを6月から開始すると発表した。

同社の2007年度売上高は対前年同期比9.1%増の2兆7,761億万円、営業利益は同19.6%増の3,242億円、経常利益は同68.6%増の2,586億円、当期純利益は同277%増の1,086億円で、いずれも過去最高となった。いまや同社の中核となった携帯電話事業が収益拡大に大きく貢献した。

連結業績は過去最高

携帯電話が中心の移動体通信事業の売上高は同13.1%増の1兆6,308億円、営業利益は同12.1%増の1,745億円で、全体に占める比率は売上高が58.7%、営業利益は53.8%となる。

売上高の6割近くは移動体通信事業

同社が現在の移動体通信事業部門の前身、旧ボーダフォン日本法人を買収したのは2006年4月だったので、連結決算に移動体通信事業が含まれるようになったのは2006年4月末からだ。そのため2006年度の決算では、移動体通信事業は2006年5月-2007年3月の11カ月分が反映されていたが、2007年度からは初めて、同事業部門の12カ月分が計上されることになる。この部門、2007年度は極めて順調だった。携帯電話の純増数は前年度比3.8倍の268万契約で、NTTドコモとKDDIを抜いて通期の純増数で首位に立った。旧ボーダフォンの純増数は2004年度が4万、2005年度で17万だ。シェアは前年同期比1.7ポイント増え18.1%となった。「ソフトバンクになってから着実に勢いが出た」(孫社長)状況で、この3月の商戦期には「純増数が53万、通常月の3倍」(同)になった。

2007年度の純増数は飛躍的に伸びた

月額基本料金が980円で、時間制限付きながら同社加入者同士は通話し放題となる「ホワイトプラン」と、「業界初、おそらく世界でも初めてではないか」(同)という端末の割賦販売方式「新スーパーボーナス」は、加入者数増の原動力になったといえよう。「ホワイトプラン」の加入率は全体の65%、新規では「九十数%」(同)に達している。「新スーパーボーナス」は全体で59%、「新規では90%近く、個人ユーザーでは九十数%」(同)だという。また、第3世代(3G)携帯電話では3大事業者のなかで後れを取っていたが、2008年3月末で3G契約数は1,401万、全体に占める比率は75.4%にまで上昇、「新規の99%以上は3G」(同)になっている。

2007年度第4四半期の総合ARPU(Average monthly Revenue Per Unit: 1契約者あたりからの月間平均収入)は同900円減の4,310円、内訳は音声が同1,120円減の2,710円、データは同220円増の1,600円だ。データARPUこそ増えているものの、全体では相当の減収ということになる。しかし、「新スーパーボーナス」の契約数が伸びたことで、加入者に対して同社から端末代の割賦請求分が徐々に増えている。これは月々顧客が同社に支払うわけであり、その分をARPUに加えると、2007年度第四半期の場合、合計5,540円となる。ARPUだけを見ると、2006年度以降四半期ごとにほぼ右肩下がりで減少を続けているが、割賦請求分を付加すると「2006年度第4四半期を底に、上昇してきて」(同)おり、孫社長は「ARPUと割賦請求分をあわせたものが、本質的なARPUといえるのではないか」と指摘する。

ARPU+割賦請求分の合計は上昇傾向

割引き合戦で、携帯電話分野では各社とも減収が不可避になっている。特に同社は「(新たな料金プランなどにより)契約者数は増加しているが、ARPUは激減しており、もうからない、といわれてきた」(同)が、「通信収入としてのARPUと割賦代金は、ユーザーから月額で支払われる。この合計を本質的ARPUとみれば、それほど減ってはいない」というのが、孫社長の見解だ。

3社連合は、ケータイユーザー7億の市場を擁する

モバイルインターネットの先兵となるインターネットマシン、孫社長も毎日使っているという

「モバイルインターネットを制する者がインターネットを制する」「アジアを制する者が世界を制する」。「このふたつが我々のキーワードであり、当社の戦略はこの2点に集約される」と孫社長は話す。同社は4月24日、携帯電話大手のChina Mobile、Vodafoneグループと共同出資で、携帯電話端末を利用する新しい技術やアプリケーションサービスの開発を推進する新会社「ジョイント・イノベーション・ラボ」(以下JIL)を設立すると発表した。JILはまず、セキュリティー、通信制御、課金システムなどに配慮した上で、多様な端末プラットフォームやOSに対応したモバイルウィジェット用実行環境を開発する意向だ。Windows Mobile、GoogleのAndoroid、Symbian OS、Linuxなど「既存のあらゆるOSを取り込んだプラットフォームをつくり、共通のコンテンツが動き、共通の方法で課金できる」(同)ようにする方針だ。

China Mobileの加入者数は約3億9,000万、Vodafoneグループのそれは世界で約2億5,000万(出資比率換算)、ソフトバンクは約1,900万、あわせておよそ7億。約7億人向けのコンテンツ、アプリケーションの共通基盤が実現する、と孫社長は力説する。「ソフトバンクの携帯電話向けの新ソフトをつくりませんか、といってもユーザーベースが1,900万では反応はもうひとつだが、今回の新プラットフォーム向けにはどうか、とコンテンツのパートナーに話すと一瞬に目の色が変わる。ゲーム機はさまざまな製品がたくさんあるが、7億台も出ているものはない」

アジア、すなわち中国のインターネット市場での勝者となり、携帯電話によるインターネットでの覇者となった者が世界一のインターネット企業になる、との図式は、同社の2007年度第3四半期の決算発表の会見の席上で孫社長がすでに示していたが、今回、その具体策の第1弾が明かされた。さらに「第2ステージでは、5年以内に3社の合計ユーザー数はおよそ10億になる」(同)とみている。10億の加入者基盤に課金できる共通のしくみが、3社連合の最大の強みであると、孫社長は考えている。

この合弁事業の出資比率は、それぞれ33%ずつだ。「ソフトバンクは3社の中では最も規模が小さい」(同)が、同社は他の2社と対等の対場で、しかも主導的でさえある。それは「日本は携帯電話のユーザー数こそ(China MobileやVodafoneより)少ないが、3Gの普及率では、全世界で圧倒的にナンバーワンだから」(同)だ。今後、モバイルでのインターネットは、データ転送速度の高い3Gでなければ十分なものにならないとの認識が背景にある。「ボーダフォンとチャイナモバイルが薩摩と長州で、ソフトバンクは両者を結びつけた海援隊の役割」と、明治維新の原動力となった薩長連合になぞらえて孫社長は説明した。

同社は、いまではすっかり携帯電話会社になったとの印象が強くなってきているが、「ソフトバンクは本質的にインターネット企業」との立場は不変であり、インターネットがさらに進化、発展するためには、モバイルでの利用環境が不可欠であり、そのために携帯電話事業を手中にし、活用しているとの考えだ。国内の携帯電話はすでに全人口に匹敵する1億台を超えており、一人複数台、あるいは通信モジュールの進展による市場拡大にも限界がある。現在、同社は携帯電話市場で快進撃しており、先行する屈強な2社の競合も、同社の戦力に追随している。ただ、それでも彼らを追い抜くのは決して簡単なことではない。だが、「データサービスを、7億の加入者規模で発想できると、ビジネスモデルは異なってくる」と孫社長は語る。新たな収益源確保に向け、もはや国境という垣根は眼中にないようだ。