ニトリは、家具・インテリア用品を中心に商品企画から原材料調達、製造、物流、販売までを一貫してコントロールする「製造物流IT小売業」という独自のビジネスモデルを展開している会社です。「IT」の名が示すとおりデジタルの活用を積極的に推進しており、古くからシステム開発も社内で行ってきた経緯から、まずは自社で何でもやってみるという風土が当たり前のものとして浸透しています。同社が掲げる「製造物流IT小売業」を実現するうえでもシステム内製が基本となっていますが、業務によっては外部システムを利用せざるを得ないところもあります。そうした外部システムの一つで定着・活用が広がらないことを課題に感じていたなかで、Microsoft Power Apps を活用し、現場が使いやすいシンプルな業務アプリを作り上げることで、定着・活用の課題解決に取り組みました。本稿ではその“ニトリ流”DX(デジタルトランスフォーメーション)に注目してみます。

他社 SFA の定着が進まない課題の解決に向けて

ニトリの IT ・デジタル活用の根底にあるのは「内製」です。ビジネスの拡大に伴い外部システムを利用することはもちろんあるものの、基本的には自社で作り上げていくのが基本姿勢となっています。その姿勢は IT だけでなく、製造・物流・小売と上流から下流まですべて自社で担うことを標榜した“製造物流IT小売業”という独自のビジネスモデルに端的に表れています。2022 年 4 月にはグループ内に IT をリードする新会社「ニトリデジタルベース」を設立。文字通りデジタル活用促進のベースとなって DX(デジタルトランスフォーメーション)を一層加速する体制を整えました。

  • ニトリデジタルベースのエントランス

    ニトリデジタルベースのエントランス

オフィス家具の販売をはじめ、医療福祉施設、商業施設、学校、ホテルなどの内装プランニングや、学生寮・社員寮のコーディネートなどの法人向けビジネスと、個人向けリフォームに関するビジネスを手掛ける法人&リフォーム事業部では、そのデジタル活用に関して課題を抱えていました。同事業部で業務改革マネジャーを務める松尾 佳周 氏が説明します。

  • 株式会社ニトリ 法人&リフォーム事業部 業務改革マネジャー 松尾 佳周 氏

    株式会社ニトリ 法人&リフォーム事業部 業務改革マネジャー 松尾 佳周 氏

「当事業部での法人事業部門においては、法人のお客様がメインとなるため、個人のお客様と店舗で接する店舗運営部では使わないようなシステムが必要になります。実際に他社 SFA(営業支援システム)を導入していたのですが、思うように活用がされず、なかなか定着しないことが課題となっていました」(松尾 氏)。

松尾 氏はこのシステムが導入された当時、事業所のマネジャーを務めており、その頃からシステムの定着率の低さを課題に感じていたとのことです。なぜ活用が広がらなかったのでしょうか。

「そもそも事業部に SFA を使って営業活動を行うことについての知識がなく、サポートできる人間も限られていたので、運用方法を確立できていなかったことが理由です。営業担当がどういうプロセスで活用していけばいいか、それを課題として専門的・計画的にサポートするセクションもありませんでした。とにかくまずは導入し、使ってみてくださいという状況だったので、定着に至らなかったと考えています」(松尾 氏)。

この SFA は 4 年ほど使い続けていましたが、松尾 氏が指摘するようにサポート体制とノウハウがなかなか整わず、その間、活用拡大は実現できませんでした。また、その利用料金が比較的高かったこともあり、コストと見合っているかについても毎年の更新の際に議題に上がっていたといいます。

  • ニトリ 法人&リフォーム事業部による実際の納品例
  • ニトリ 法人&リフォーム事業部による実際の納品例
  • ニトリ 法人&リフォーム事業部による実際の納品例
  • ニトリ 法人&リフォーム事業部による実際の納品例
  • ニトリ 法人&リフォーム事業部による実際の納品例

Power Apps を活用したアプリ内製にチャレンジ

そんな中、松尾 氏は 2019 年に現在の業務改革に携わるチームに異動します。着任当時も、各担当者から報告される営業の数字と SFA で管理されている数字が異なり、SFA の数字はデータとして活用できない状態にあったそうで、課題は深刻なものとなっていました。松尾 氏は、SFA を使い続けるにせよ、別のシステムに切り替えるにせよ、とにかく改善に着手しなければと考えます。そこで浮上してきたのがマイクロソフトのソリューションでした。

松尾 氏が業務改革マネジャーとして着任した頃、すでに社内では Office 365、現在のMicrosoft 365 が活用されていました。Office 365 を導入したのは 2012 年のことで、当時情報システム部門に在籍し、現在は松尾 氏のチームで業務改革に携わっている田中 元気 氏が、マイクロソフトとの関わりがスタートした頃を回顧します。

  • 株式会社ニトリ 法人&リフォーム事業部 業務改革 担当 田中 元気 氏

    株式会社ニトリ 法人&リフォーム事業部 業務改革 担当 田中 元気 氏

「当時採用していたグループウェアを一新し、オンプレミスからクラウドサービスに移行しようという話になったのです。候補をいくつか検討したうえで最終的に Office 365 を選定し、全社導入しました。マイクロソフトとはそれ以前からお付き合いはあったのですが、本格的な取り組みに発展したのはそのときが初めてです」(田中 氏)。

田中 氏が業務改革のチームに異動したのは 2020 年のことで、松尾 氏の着任当時は松尾 氏を含めても 2 人という小さなチームだったそうです。“SFA問題”の改善に向け、とにかく何かしなければと考えた松尾 氏。Microsoft 365 のライセンスに含まれる、ビジネスアプリを簡単に開発できる Microsoft Power Apps(以下、Power Apps)に着目します。

「実は着任した頃の私は、Microsoft 365 を構成するサービスについての知識があまりありませんでした。調べてみたところ、自分でアプリを作れる Power Apps というものがあることを知り、アプリ開発にチャレンジしてみたのです」(松尾 氏)。

松尾 氏が作ったのは、リフォームの案件におけるフェーズを管理するアプリでした。この管理は Microsoft Excel で行っていましたが、その業務をアプリに置き換えてみようと考えたのです。「Excel が比較的得意だったこともあり、Power Apps でのアプリ開発はそれほど抵抗感なく取り組めました。結果的にはきわめて簡単に作れたという印象です」と松尾 氏。「本当に稚拙なアプリだったのですが」と謙遜しますが、スマートフォンから項目を選択するだけで必要事項を入力でき、案件の流れも確認できるアプリで、現場の従業員にテスト使用してもらったところ PC を開かなくても作業ができるようになったと高い評価を得ました。「これでもしかしたらある程度のところまではできるのではないか」と手応えを感じたそうです。

とはいえ、事業部全体で導入するレベルのアプリにまで自分ひとりで磨き上げるのは難しいと実感した松尾 氏は、上長である執行役員に掛け合い、業務改革チームの増員を要望しました。そこから IT スキルを持つメンバーを集め、Power Apps を本格的に活用したアプリの内製プロジェクトに取り組んでいくことになります。目指すは、定着・活用が進まない SFA の置き換えでした。

有償版に切り替え、Microsoft Dataverse の利用もスタート

Power Apps での SFA アプリ開発がスタートしたのは、2020 年 11 月のことです。まずはコア機能の実装のみでスモールスタートし、課題だった定着化を着実に進めながら徐々に機能を充実させていく計画とし、実際の開発は業務改革として札幌に勤務する大橋 弘明 氏が担いました。年が明けて 2021 年 2 月頃にはテスト版の開発が終了し、4 月からテスト運用をスタートしました。

  • 株式会社ニトリ 法人&リフォーム事業部 札幌 業務改革 担当 大橋 弘明 氏

    株式会社ニトリ 法人&リフォーム事業部 札幌 業務改革 担当 大橋 弘明 氏

そこから数カ月は、旧 SFA と並行してこの新アプリの現場導入を進めます。開発の過程で業務改革チームに異動した田中 氏は「新しいアプリの運用を始めると、機能を本当に必要なものだけに絞ったことで現場での営業管理がかなり楽になり、旧 SFA と比べてコストメリットも出ました」と振り返ります。そこで旧 SFA を同年夏の更新時に解約し、運用をこのアプリに完全に切り替えて、本格導入をスタートしました。

この時期には、田中 氏がマイクロソフトのアイディアソンにも参加。AR 技術をアプリに組み込み、顧客が自宅にニトリのキッチンがある様子を表示する、といった課題に取り組んだといいます。「Power Apps でさまざまな技術を活用できることがわかり、アプリに対して可能性を感じました」と田中 氏は語ります。

2021 年秋以降、Power Apps で内製したオリジナル SFA アプリの本格運用が始まったわけですが、この当時は Microsoft 365 に含まれる無償版の Power Apps で、Microsoft SharePoint を用いてアプリを運用していました。ところがアプリの活用が進む過程で営業担当から機能追加の要望が数多く上がるようになり、それに伴い使用するデータ量も増えてきたため、SharePointで賄うのが難しくなってきたといいます。

「アプリ導入以降、機能の拡充で営業周りの業務が一気に IT 化され、定量データが正しく集まるようになってきました。営業効率が改善され現場メンバーからもアプリへの期待が高まり、どんどん出てくるアイデアに対応するため 2022 年から Power Apps を有償版に切り替え、より大量のデータを扱えるMicrosoft Dataverse の利用をスタートしたのです」(松尾 氏)。

その後も Power Apps を活用したアプリの改良が進展しています。実開発を担う札幌の大橋 氏の知識とスキルも高度化し、現在は機能と使いやすさが格段に高まっているそうです。田中 氏はアプリを社内環境で使用するためのセキュリティ構築や、外部システムとの連携など Power Apps による開発を側面からサポートする立場。その立場で印象に残った出来事として次のようなエピソードを教えてくれました。

「有償版で使えるようになったカスタムコネクタ(外部 API と接続できる機能)を利用するうえで困りごとが生じ、マイクロソフトの担当者に相談しました。すると過去の事例も含めた細かな情報を提供してくれたので、それをアプリのアップデートに効果的に役立てることができました」(田中 氏)。

圧倒的なスピードを実感。社内での市民開発も広がる

Power Apps の活用によって従来のシステム開発と大きく変化した点について、松尾 氏はこう語ります。

「やはりスピードです。情報システム部門による内製には、システム開発のプロフェッショナルたちが私たちのほしい機能を高い完成度で開発してくれるという大きなメリットがありますが、社内のすべての部署からの開発依頼を一手に担っているため、開発にはどうしても優先順位が発生します。今回のプロジェクトでは、旧 SFA の更新是非の問題もあったため、Power Apps の開発スピードの利点を活かしある程度の開発は自分たちの事業部内で行い、情報システム部門にはサポートに入ってもらうという形で短期間でのリリースを実現できました。これはローコード開発という Power Apps の圧倒的なスピード感のおかげで実現できたことで、とてつもなく貴重なものだと感じています」(松尾 氏)。

ニトリでは以前から、いわゆる市民開発を進めていく機運がありました。もともと内製化の風土が色濃く浸透している社内で、Power Apps 導入によってその可能性が広がりました。キーとなるのが情報システム部門に設けられた BPA(ビジネスプロセスオートメーション)推進の部署であり、各部署に配置されたアンバサダーたちです。同部署とアンバサダーが中心となり、月に 1 回の頻度で Microsoft 365 活用をはじめとした IT・デジタルの勉強会も開催しています。そしてこうした取り組みにより、Power Apps で自部門に特化したアプリ開発を行う部署も実際に増えてきているとのことです。

肝心の、旧 SFA で抱えていた課題は解決されたのでしょうか。「SFA アプリの本格導入から半年以上が経過し、定着率はポジティブに増え始め、アプリで収集したデータと実際の営業活動データとの誤差もほぼゼロになったことから、大きな成果を実感しています」と松尾 氏。今後も営業担当への浸透を進め、さらに使いやすいシステムに改良していきたいと、その思いを語ります。一方、田中 氏は、SFA アプリをモバイル環境で手軽に使えるようにしたことも、定着浸透に効果があったと評価します。

ちなみに、Power Apps 導入時には Microsoft Dynamics 365 も検討対象に挙がっていたそうです。導入する部門が小規模で、営業プロセスもシンプルだったため、まずは Power Apps で迅速にスタートするほうを選んだと松尾 氏は語ります。

「現場で使いやすいシンプルなシステムを作るという自分たちのビジネスのシナリオに沿った形で、今回は Power Apps を選びました。もちろん、もっと高度な機能が必要であるとか、大規模な環境で使いたいといった場合は、Microsoft Dynamics 365 が魅力的に感じるはずです。段階的に選択肢があるのはありがたいところですね。今後営業組織が拡大し、関わる部署やプロセスが増えてきた際は Microsoft Dynamics 365 を是非再検討したいと思います」(松尾 氏)。

今後についてはこのように続けます。「当事業部は、お店のニトリと比べるとまだまだ認知度は低いですが、北海道から沖縄まで、法人事業においては一部海外にも対応しています。ニトリのもつ『低価格』『品質・機能』『コーディネート』という強みを、法人、リフォームのお客様にもご提供したいという強い思いで事業をおこなっています。その中での IT やデジタルはあくまでもツールであり課題解決のため手段です。それらを活用し VUCA の時代のビジネス環境にスピーディに適応し改革していくことで、お客様から選ばれつづけることが最終的な目標です」(松尾 氏)。

マイクロソフトは、これからの歩みもこれまで以上に力強くサポートしていきます。

  • 株式会社ニトリ 法人&リフォーム事業部 業務改革 東 昭雄 氏、松尾 佳周 氏、田中 元気 氏、同事業部 業務改革 担当 丸岡 幸子 氏

    株式会社ニトリ 法人&リフォーム事業部 業務改革 東 昭雄 氏、松尾 佳周 氏、田中 元気 氏、同事業部 業務改革 担当 丸岡 幸子 氏

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