ホーローを強みとする水まわりの大手メーカーとして、キッチンや浴室、リフォームに関するさまざまな設備を製造販売するタカラスタンダード。Azure Virtual Desktop を自社サービスに組み込むことで、システムのパフォーマンスを劇的に改善させるだけでなく、これをサービス品質の向上にもつなげています。顧客エンゲージメントを高めるための社内 IT サービスのなかで、Azure サービスがフル活用されています。

独自性の高いホーロー技術で「水まわりのスタンダード」を提案し続ける 100 年企業

1912 年の創業以来、世界初となるホーローキッチンの開発や日本初のステンレス一体成型ユニットバスの開発など、水まわりの機器を製造販売するメーカーとして、日本国民の衣食住を支えてきたタカラスタンダード(以下、タカラ)。連結売上高は 2115 億円(2022 年 3 月期)、連結従業員数は 6298 名(2022年 3 月末現在)で、日本全国に 7 ヵ所の支社、155 ヵ所の支店、17 ヵ所の工場を構え、津々浦々でビジネスを展開しています。ショールーム数は業界最多の 163 ヵ所を数え、キッチンのシェアは業界 No.1 を誇ります。

長期ビジョンは「ホーローと共に、光り輝く魅力ある企業へ」です。ホーローを中心とした同社の強みを追求し、独自性の高い技術や商品、サービスを通じて、世の中に安全・安心で質の高い暮らしを提供する企業を目指しています。管理本部 情報システム部 執行役員 情報システム部長 樋爪 康久 氏は、こう話します。

  • タカラスタンダード株式会社 管理本部 情報システム部 執行役員 情報システム部長 樋爪 康久 氏

    タカラスタンダード株式会社 管理本部 情報システム部 執行役員 情報システム部長 樋爪 康久 氏

「ホーローはキズや汚れ湿気に強いという特性がある一方、デザイン面に弱点がありました。そんななかタカラは、インクジェット技術をつかって多彩な表現が可能なホーロー製品を展開し、市場から高く評価されてきました。2022 年に創業 100 周年を迎え、ホーローにこだわりながら、『次のスタンダードをつくるんだ』をモットーに挑戦を続けています」(樋爪 氏)。

独自性へのこだわりや、次のスタンダードに向けた挑戦は、IT システムの取り組みでも同様だといいます。これまでにも、独自性の高さを生かした、顧客向け、パートナー向けのサービスを開発・提供してきました。なかでも注目できるのが、販売店や代理店向け(以下、社外パートナー)に提供している見積提案システムです。

「見積提案システムは、ノート PC やタブレット型 PC からキッチンや浴室向け商品を自由に組み合わせて見積りができるシステムです。店頭やショールームで販売スタッフがお客様の要望を聞きながらタブレットで提案したり、営業担当者が適切な価格を見積もるために PC で情報を検索したりします。商品点数は数千件を超えることもあるため、システム化することでお客様のニーズに素早く対応できます。お客様との接点となる大事なシステムであり、企業として新しい挑戦に向けたさまざまな変革を行っていくうえでも重要なシステムに位置づけています」(樋爪 氏)。

見積提案システムは、利用シーンが増える一方、パフォーマンスが課題となる場面が増えてきました。画面の表示が遅くなったり、顧客や社外パートナーを待たせてしまったりといったことが増えてきてしまったのです。これを解消する目的で採用されたのが、Microsoft の仮想デスクトップサービス Azure Virtual Desktop でした。

パフォーマンス課題を Azure Virtual Desktop の「応用」で解決

タカラが直面したパフォーマンス課題について、管理本部 情報システム部 インフラ基盤グループ長 課長 久保 康之 氏は、こう話します。

  • タカラスタンダード株式会社 管理本部 情報システム部 インフラ基盤グループ長 課長 久保 康之 氏

    タカラスタンダード株式会社 管理本部 情報システム部 インフラ基盤グループ長 課長 久保 康之 氏

「見積提案システムは、もともと社内の営業担当者に向けて開発したシステムです。社内ネットワーク(社内 LAN)での利用を前提にシステムが設計されています。社外パートナーの担当者が利用する際にはセキュリティ要件を満たすために VPN を経由して社内ネットワークに接続して利用する必要がありました。技術的には、.NET や Java などの技術を使ってクライアントサーバーシステムを Web アプリケーションのように利用するスマートクライアント方式を採用しています。スマートクライアント方式は、PC のブラウザで利用できるという利便性がある一方、処理に必要なデータをローカル環境にダウンロードする必要があります。そのため、VPN を経由して社外から利用する場合は、ネットワーク帯域がボトルネックになりやすかったのです」(久保 氏)。

見積提案システムは約 10 年前に開発されましたが、社外パートナーが接客時に利用できるよう、約 7 年前に VPN 経由でのアクセスに対応しました。タカラには全国に 260 社を超える社外パートナーがおり、それぞれの店舗でシステムを利用して、顧客に対してすばやく見積りができる仕組みを整えたのです。また、タカラには、東南アジアなどホーロー人気の高い海外の社外パートナーの拠点もあるため、社外パートナーが見積りを行ったり、商品を検索したりするケースが増えていました。中期経営計画でも海外売上の増加を掲げていましたので、見積提案システムの導入によりそれを加速させるという狙いもありました。

「見積提案システムの利用が拡大するにつれ『起動に時間がかかる』『商品をセットし終わった後に更新する時間が長い』という声を数多くいただくようになりました。特定の画面を更新する際にはインターネットの回線が影響するため、 20 〜 30 秒、海外の社外パートナーの拠点からは 2 〜 3 分かかっていました」(久保 氏)。

問題を根本的に解決するためには、システムアーキテクチャの見直しが必要でしたが、その場合、多くの予算と期間が必要になることがわかりました。どうすれば良いか解決策を探っていたときに、マイクロソフト関連のイベントで知ったのが、仮想デスクトップの Azure Virtual Desktop だったといいます。

「社外パートナーからはクラウドに置いた仮想デスクトップにインターネットでアクセスし、仮想デスクトップから社外用APサーバーにアクセスする構成にすれば、クライアントからの通信はクラウド上で完結します。Azure Virtual Desktopを応用すれば、既存のアーキテクチャのままレスポンスを大きく改善できるのではないかとひらめいたのです」(久保 氏)。

AMM のサポートを活用し、ハンズオンから本番リリースまで実質 3 ヵ月で実現

もっとも、当時の久保 氏には、Microsoft Azure や Azure Virtual Desktop に関しての知識が少なく、どのように既存システムを構築・移行していけばいいか具体像を描きにくかったといいます。さまざまな Web サイトで調べてみても、一般的なユースケースである「社員が利用する仮想デスクトップの利用」といったものがほとんどであり、欲しい情報が得られなかったのです。

「仮想デスクトップ自体は、別途検討したことがあり、存在自体は知っていました。ただ、既存サービスの中に組み合わせて利用できるかどうかは、私自身、半信半疑なところもありました。そこでマイクロソフトさんに相談したところ、『Microsoft Azure や Azure Virtual Desktop に強いパートナー』として日商エレクトロニクスを紹介してもらいました。日商エレクトロニクスは、私たちの狙いもきちんと理解し、すぐにハンズオンの開催も実現できました。そこでさまざまなナレッジを提供いただいたことで、Azure Virtual Desktop を既存システムに組み合わせてパフォーマンスの改善が可能だと確信したのです」(久保 氏)。

久保 氏とともに、Azure Virtual Desktop 導入に携わった管理本部 情報システム部 インフラ基盤グループ 上本 直樹 氏は、こう話します。

  • タカラスタンダード株式会社 管理本部 情報システム部 インフラ基盤グループ 上本 直樹 氏

    タカラスタンダード株式会社 管理本部 情報システム部 インフラ基盤グループ 上本 直樹 氏

「日商エレクトロニクスの対応スピードが早いことはもちろん、私たちの意図を組んだ提案をすぐに行なってくれたことが印象的でした。たとえば、ハンズオンの開催から本番環境の構築までは約 1 週間しかかかっていません。また、2022 年 7 月の正式リリースまで実質 3 ヵ月ほどでした。その間、いくつかトラブルにも遭遇したのですが、マイクロソフトと連携しながら、的確なアドバイスをいただいたことでスムーズに解決できました。私たちが自走することを寄り添って支援いただいたのです」(上本 氏)。

マイクロソフトと日商エレクトロニクスによる支援がスムーズに実施できたポイントの1つに「 Azure 移行およびモダン化プログラム AMM:Azure Migrate and Modernize(旧称 AMMP:Azure Migration & Modernization Program)」があります。このプログラムでは、既存システムをクラウドに移行したり、クラウドに適したかたちにモダン化したりする際、マイクロソフトがパートナーを経由して、ベストプラクティスや適切なフレームワークの提供、専門エンジニアによる技術的な支援などのサポートを行います。Azure Virtual Desktop に関する独自性の高い利用方法でも、この AMM を最大限に活用したのです。

2〜3 分の処理が 15 秒に短縮、社外パートナー向けサポート工数を大幅に削減

Azure Virtual Desktop を活用し、見積提案システムは、オンプレミスと、Azure 上の Azure Virtual Desktop を組み合わせて構成する新しいサービスに生まれ変わりました。

これまでと同様に、社内ネットワークからのアクセスは、既存データセンターを利用します。一方、これまで VPN を利用していた社外からのアクセスは、Azure の西日本リージョンで稼働する Azure Virtual Desktop を直接利用する仕組みとなりました。さらに、既存データセンターは、Azure の西日本リージョンと Azure ExpressRoute を使って構内接続されていて、安全性と高速性を両立しています。

このハイブリッド構成のポイントは、既存システムに手を加えることなく、高いパフォーマンスと信頼性を実現していることにあります。久保 氏のアイデアが AMM を活用しながら、日商エレクトロニクスとともにかたちになったということです。久保 氏はこう振り返ります。

「現在は、Azure Virtual Desktop のマルチセッション 3 台という構成で約 300 ユーザーがアクセスできる環境を整えています。見積り提案は、さまざまな拠点から一時的に並行して行われるという特徴があります。いつどの拠点で利用されるかの予測は難しいため、Azure のクラウドリソースを活用することで効率良く処理を分散させています。また、マルチセッションなどの Azure Virtual Desktop の機能を活用することで、効率性とパフォーマンスを両立させることもできています。こうしたシステム構成や運用体制は、AMM や日商エレクトロニクスのサポートがなければ実現できなかったことです」(久保 氏)。

  • システム図

    システム図

新しい見積提案システムはリリース直後から驚くような効果を上げています。まず、定量的な効果としては「 2 〜 3 分かかっていた特定の処理が 15 秒に短縮」があります。ネットワーク帯域にかかる負荷が減り、パフォーマンスが劇的に向上したのです。

また「サポート工数の削減」も大きな効果です。従来は、社外パートナーがセットアップや利用時トラブルに遭遇した場合、営業担当者がパートナー先に出向き、パートナーの要望を聞きながら、トラブル対応にあたっていました。利用端末の初期設定や、ランタイムの設定等の詳細構成も必要であり、接続元の環境がそれぞれ異なることから、トラブルの頻度も高かったと言います。営業担当者で解決できない技術的な問題は、IT 部門が対応していましたが、全国各地に幅広い販売網を持つタカラのトラブルを IT 部門の限られたスタッフで対応することは大きな負担となっていました。

Azure Virtual Desktop への移行後は、社外パートナーの環境に依存することなく、Azure Virtual Desktop が稼働するサーバーを一元的に管理することが可能になり、サポートの手間が大幅に削減されたのです。

AMM を活用しながら、さまざまなシステムの移行やモダン化を Azure で進めていく

新しいシステムがビジネスにもたらした効果もことのほか大きいものとなっています。具体的には、システムのパフォーマンスが劇的に向上したことで、見積り作成がしやすくなり、実際に見積り件数が増加したのです。

「見積り件数は前年とくらべて約 2 倍に増加しました。これまではパフォーマンスのせいで見積りを数多くこなすことができないケースも多かったのですが、すばやく見積りを作成できるようなったことで、これまで以上に見積提案システムを利用するようになったと考えています」(久保 氏)。

見積り件数が多くなれば、その分、顧客はさまざまな提案を受けとることができるようになります。また、すばやく見積りを得られるため検討する時間をその分確保することもできます。システムの改善により、サービスの品質向上につながったのです。

また、ネットワークのレスポンスが向上したことで、タカラのビジネススピードが高まったケースもあります。上本 氏は、こんなエピソードを紹介します。

「IT システム部門にとって、ユーザーから評価を得るということはうれしいものです。今回のプロジェクトでは、システムを中国の社外パートナーに展開したとき、現地の担当者が大変喜んでくれました。海外の社外パートナーの拠点では、ネットワーク遅延が国内よりさらに大きくなっていたのですが、その分、大きな効果を実感してもらえました。Web 会議の画面越しに日本語で『めっちゃ速いよ』『見積りがたくさん作れるよ』と直接感謝を伝えられたときは本当にうれしかったですね」(上本 氏)。

加えて、AMM を活用したことによる短期間での移行もメリットだったといいます。検証作業中には、Azure Virtual Desktop が正常に開かないというケースもありましたが、日商エレクトロニクスとマイクロソフトのエンジニアによる技術サポートにより、スムーズに解決できました。そのうえで樋爪 氏は今後についてこう話します。

「Azure Virtual Desktop を利用した新システムはまだすべての拠点や販売店で利用されているわけではありません。まずは、その利用拡大を図っていきます。また、Azure Virtual Desktop は他のシステムでも活用できることが確認できました。今はファイルサーバーの Azure 移行から対応を行っていますが、他の既存システムのクラウド移行やモダン化で活用していきたいと思っています。Azure に強いパートナーとして、日商エレクトロニクスともさまざまな取り組みを進め、マイクロソフトの製品を活用しながら、お客様へ価値を高める提案をしていきたいと思います」(樋爪 氏)。

マイクロソフトは、Azure Virtual Desktop を始め、AMM による技術支援を通して、タカラスタンダードのクラウド活用をサポートしていきます。

[PR]提供:日本マイクロソフト