アパレル業界をはじめ、さまざまな分野のビジネスデザイン&クリエイティブデザインを請け負い、企業ブランドの成長を支援するサンキャスト。現場で行う業務の割合が高いこともあり、社外で快適に仕事ができる環境の構築に以前から取り組み、各種業務システムのクラウド移行を進めてきました。今回はその一環として、オンプレミス環境のサーバーで運用していた販売管理システムのクラウド移行に着手。代表取締役の三溝 氏を中心に検討が進められ、Microsoft Azure の IaaS 上に既存システムをリフト&シフトするというアプローチが採用されました。内製でクラウド上のインフラ構築を行い、さらに BCP 対策として Azure 東西リージョンへのレプリケーションも実施した本事例は、情報システム部門を持たず、システムベンダーに任せきりという中小企業にとって、重要な“気づき”を与えてくれる取り組みとなっています。
クラウドシフトのラストピースとなる販売管理システムの移行先に、Azure を選択
店舗や展示会のデザインから施工までを一括して請け負い、企業ブランドの向上や新たな価値の創出に取り組むサンキャストは、ディレクションチーム・デザインチーム・フィールドサポートチームといった複数のチームによる分業体制で業務を推進しています。事務所も東京・大阪をはじめとした複数個所に構え、グループ会社と協業して全国でビジネスを展開。加えて現地に出向いて業務を行うスタッフも多く、社会全体にテレワークが浸透する以前から、社外で業務を行える環境の構築を進めていたといいます。そこで活用されたのはクラウドであり、主に SaaS を利用する形で、オンプレミスで運用していた業務関連のシステムを移行。メール・Web をクラウド型のサービスに移行し、顧客管理、会計・給与・勤怠、ファイル共有、プロジェクト管理、コミュニケーションといったシステムを次々に SaaS へと置き換えていきました。
こうしてクラウド化を進めていくなか、最後までオンプレミス環境に残っていたのは販売管理システムでした。業務の内容的に汎用システムをそのまま使うことができず、自社専用にカスタマイズして運用していたため、クラウドへの移行が難しかったと語るのは、今回の取り組みを主導したサンキャスト 代表取締役 社長の三溝 賢 氏です。
「これまでは、弊社の東京本部に設置したサーバーにカスタマイズを施した販売管理システムを導入し、他の支店やグループ会社からは VPN やリモートアクセスで利用するという運用を行っていました。このハードウェアのメンテナンスがかなりの負担になっており、さらに東京本部は電気工事などで停電するケースも多く、その度に業務が止まるといった課題も抱えていました。また、機器や回線の不調で VPN やリモートアクセスがつながらなかったり、遅くなったりするといったトラブルも起きており、専任のシステム管理者が社内にはいないことを加味したなかで、販売管理システムもクラウドに移行して管理工数を削減したいという思いが高まっていました」(三溝 氏)。
こうした状況のなか、オンプレミスで運用していた販売管理システムの更新時期が近づいたことで、2020 年の秋からクラウド移行のプロジェクトが本格的にスタートしました。サンキャストの販売管理システムはシステムベンダーが構築・カスタマイズを担っており、更新にあたっても当初はサーバーの入れ替えという提案を受けたといいます。それでは根本的な解決にはならないと判断した三溝 氏は、クラウドの IaaS 上に販売管理システムを移行することを検討。システムベンダーと議論を重ね、またクラウド事業者のセミナーに参加するなど自身でも情報を収集した結果、移行先のクラウドサービスとして Microsoft Azure(以下、Azure)の採用を決定しました。
「システムベンダーに相談を持ちかける以前から、Web サイトから資料をダウンロードしたり、セミナーに参加したりと、主要クラウドサービスの情報収集を進めていました。事前検討の段階からマイクロソフトの担当者に連絡を取り、非常に丁寧に説明いただけたことや、システムベンダーに Azure のシステム構築経験があったことで、最終的に Azure を採用することに決めました」(三溝 氏)。
情シス担当者不在のなか、今後の利用拡大や運用を踏まえ、代表取締役 社長自らが Azure のインフラ構築を行う
サンキャストは専任の情報システム部門を設置しておらず、自社の IT システムの方向性は、代表取締役である三溝 氏が判断しています。自社の業務を俯瞰する立場で IT システムの選定に携わることで、意思決定を早め、実際の業務内容を考慮した効率的な仕組みを構築できているといいます。今回のプロジェクトも同様で、マイクロソフトのサポートを受けながら、Azure 上へのインフラ構築を三溝 氏自身で行い、システムベンダーが販売管理システムのカスタマイズとインストールを担当するといった役割分担で進められました。
「当初はシステムベンダーにすべてを依頼するつもりだったのですが、今後の利用拡大を考えると、自社である程度コントロールできたほうがよいと判断し、Azure 上の仮想サーバー、SQL サーバー構築までは内製で行うことにしました」(三溝 氏)。
不明な箇所を随時マイクロソフトに確認することで、特に大きな問題もなくインフラ構築が進められたと三溝 氏。苦労した部分として、「構築を進めていくなかで Azure の一機能である Azure Advisor が、『こうしたほうがいい』とさまざまな提案をしてくれたため、どの程度対応すればいいのかさじ加減が難しかったことくらいです」と語り、エンジニアでなくてもインフラを構築可能な Azure の使い勝手を高く評価します。
こうして進められた本プロジェクトでは、販売管理システムに加えてシステムベンダーの開発したワークフローシステムも Azure 上に構築され、2021 年 10 月に本稼働を迎えます。新たに導入したワークフローシステムに関しては、現場での実運用も含め課題は多かったものの、販売管理システムに関しては、オンプレミスからの移行もスムーズに進み、稼働後の運用に関しても大きな問題は発生しなかったといいます。
また今回の取り組みにおいては、BCP 対策として Azure Site Recovery を活用し、本番環境(東日本リージョン)とは別に、西日本リージョンにセカンドサイトが構築されました。別リージョンへのレプリケーションを実施した経緯について、三溝 氏はこう語ります。
「インフラの構築時に Azure Advisor から推奨されました。システムベンダーとの契約で SQL サーバーのバックアップは取ってもらっており、時間をかければ復旧できる体制は作っていたのですが、基幹システムなので停止時間が長くなるとリスクが高まることは確実で、別リージョンへのレプリケーションを採用することにしました。容量に応じた従量課金のためコスト面での不安はありましたが、現段階では想定していた範囲で収まっており、効率的な BCP 対策をスムーズに実現できたと思っています」(三溝 氏)。
自社の業務を知り尽くした企業トップが主導することで、現場に寄り添う DX を実現
前述したとおり、今回のプロジェクトは代表取締役 社長である三溝 氏自らが主導して進められています。このため、クラウド移行に向けた販売管理システムのカスタマイズに際しても、三溝 氏の判断で、業務の効率化につながる改修がリクエストされたといいます。
「たとえば情報システム部門が今回のプロジェクトを推進する場合には、従来のシステムをクラウドへとシフトさせることだけに注力するのが当たり前です。それに対し、私のような業務全般を統括する立場の人間が主導することで、効率的な業務プロセスというものをシステムに組み込むことができます。こうした発想は実際の業務を熟知していない IT 管理者からは出てこないもので、特に中小企業における、“社内の仕事を効率化するために、IT をいかに活用するか”という観点においては、企業の代表が IT 環境の整備を主導することの意義は大きいと考えています」(三溝 氏)。
こうして販売管理システムとワークフローシステムが Azure の IaaS 上での運用を開始したことに関して、実務面での責任者であるサンキャスト チーフディレクターの壹岐 亮夫 氏は、こう所感を述べます。
「業務サイドの視点では、正直、各種システムの基盤となる Azure が実際の業務においてどのような役割を担っているのか詳細には理解できていません。ただ、昨今はコロナ禍の影響もあって在宅勤務環境の整備が求められており、その意味でも、今回の取り組みで販売管理システムとワークフローシステムを社外から快適に利用できる環境を構築できたことは、実務面で大きな効果が出てくると考えています」(壹岐 氏)。
今回の取り組みで、Azure の持つ柔軟性・拡張性を享受できるようになったことは、今後のビジネス拡大を考えるうえでも重要な意味を持つと三溝 氏は力を込めます。
「クラウドに移行し、ハードウェアの入れ替えなしでシステムの拡張が行えるようになったことは、今後を見据えて大きなメリットになると考えています。この度、稼働を始めた販売管理システムは仮想サーバーの性能的にも十分で快適に動作していますが、今後ビジネスが拡大して処理が追いつかなくなっても、即座にスケールアップして対応することができます。手順を理解するのに少し時間はかかりましたが、IP アドレスによるアクセス制限など、セキュリティの担保が容易に行えるのもポイントです」(三溝 氏)。
現場スタッフの業務効率化から事業継続性の担保、さらに将来に備えた拡張性まで、サンキャストが今回の取り組みで得た成果は多岐にわたります。特に業務面では、三溝 氏と壹岐 氏がディスカッションを重ねて詳細を詰めていったこともあり、現場に寄り添う IT 活用が実現できているといいます。
「一般的に業務システムを刷新すると使いこなすのに時間と手間がかかり、本来の業務が妨げられるケースも多いと思います。今回の取り組みでは設計段階から情報が共有され、現場の意見も取り入れてもらっているので、そういった面ではほとんど苦労していません」(壹岐 氏)。
また、ワークフローを含め業務システムのクラウド移行が完了したことでペーパーレス化も進み、中小企業においても急務となっている電子帳簿保存法改正への対応にも効果を発揮しているといいます。「私たちの得意先、取引先は書類のやり取りが紙ベースを中心に行われているのが現状です。このため、ペーパーレス化もこちらから持ちかけ、メリットを説明しながら進めている状況です」と壹岐 氏。中小企業 の同業他社や顧客の環境と比較し、先行的に DX が実践できていることに手応えを感じています。
三溝 氏は今回の取り組みで得た知見を活かし、Azure を中心にクラウド活用を推進していきたいと今後の展望を語ります。現在は各業務システムに個別の SaaS サービスを採用していますが、将来的には統合型のサービスに一元化して、より管理しやすい環境を構築したいと考えており、その意味でも Azure のその他サービスや Microsoft 365 などマイクロソフトが展開するクラウドサービスには注目しているといいます。
企業のトップが主導し、現場の業務を考えたシステム構築を実現した本事例は、DX を加速させたい中堅中小企業におけるひとつの解といえます。サンキャストが推進する今後の取り組みからも目が離せません。
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