ビルオペレーションの課題における人的リソースのハードル
働き方改革は当然ながらどの業界でも達成されるべきことであり、不動産業界も例外ではなくしっかりと取り組んでいる。そこに加えて、いわゆる建設業界の“2024年問題”による労働時間規制の影響を、建設と関係の深い不動産業界は直接的に受けているだろう。さらに人件費もあがっており、ビル等の建築費高騰もトレンドにある状況だ。
またここにきて、ビルを建てて、より価値を高めていくようなケースが増加している。いまのビルは造るだけでなく、そのビルの価値を落とさず維持、さらには自社のビジネス成長に向けてバリューアップが求められているわけだ。そのため、ビルの管理・運営業務も従来にない価値を追求して高度化させていく必要があるところだが、上述した人手不足の問題を抱えている現状では、それもなかなかに難しい。
そこで注目したいのが、やはりデータであり、デジタル技術である。最新のテクノロジーは、不動産業界のこうした課題をどのように解決し、ビルや街のさらなるバリューアップを実現していけるのか。
解決策の一つとして考えられるのが、ビルの管理・運営を離れた場所から行うリモートオペレーションだ。言うまでもなく現在はさまざまな業界でリモートワークが定着している。オフィス業務やWeb会議がリモートで行えるのなら、ビル管理・運営業務も遠隔で可能であろうという発想である。もちろん法令やルールなどの整備は必要となるが、管理・運営を担う人間がそのビルに直接的にいない状態でも、外部から業務を的確に行えるようになれば、人手不足の問題を解消しながらビル自体の価値向上も実現できる。そういう考え方につながるわけだ。
業務効率化・省力化の先まで見据えたプラットフォームとプロダクト
前提として、ビルは現在スマートビルと言われるビルが増えてきている状況にあるが、ビル内に設置された無数のセンサーやカメラで、設備・機器の稼働状況はもちろん人間の出入り・動きなども含めた多種多様なデジタルデータを収集することが可能になっている。いわゆる“スマートビルディング”だ。加えて、そのビルが立地する街自体もスマート化が進んでいる。全国各地で産官学協働によるスマートシティのプロジェクトが動いていることは、ニュースなどで目にすることだろう。
つまり、デジタル技術によって日に日に変わるビルや街の姿、状況を可視化し、実際にそこから得られるデータの利活用で“バリューアップ”に向けたさまざまな取り組みが可能になっているということである。
このようなビルや街区の管理・運営はもちろん、そもそもの開発、あるいは稼働開始後の高度利活用による価値・サービスの創出まで、スマートビルディング/スマートシティに関わる多彩なソリューションの提供を目指しているのがNTTコムウェアだ。
同社では、描くスマートシティの世界観を「GreenUs®」(グリナス)というソリューションブランドで表現している。GreenUs®は、ビルや街から集まる多種多様なデジタルデータを開発・管理・運営に携わる会社が利用し、業務の効率化や省人化、環境負荷・エネルギーコストの低減、その先の収益向上や新たなサービス創出などに活用できるようにするのがコンセプトだ。結果として、ビルあるいはビルが建つ街に住む人や働く人が「このビルで働いてよかった」「この街に住んでよかった」と実感できるような快適性・利便性と働きがいを生み、さらに有用なデータをスムーズに循環させることで、サステナブルなスマートシティの実現を目指そうというものだ。
このGreenUs®のもと、NTTコムウェアではデータ利活用と価値創出のベースとなるプラットフォームやプロダクトを提供している。その中核に位置づけられるのが、スマートビルディングに関するデータ収集と、そのデータのさまざまな利活用を支えるプラットフォームとなる「Smart Data Platform for City」(以下、SDPF for City)だ。
そして、SDPF for Cityで集めたデータを基にビルのリモート管理・運営を可能にするのが今回紹介する「City Twin Ops」である。
3D空間上でビル情報の把握と操作を可能にするCity Twin Ops
City Twin Opsでは、リアルな世界をデジタル空間上に3Dで再現するデジタルツイン技術を用い、SDPF for Cityで収集・蓄積したビルや街区の膨大な情報を管理・運営に活かしていく。
ユーザーインターフェースとして「ビルディングビュー」と「シティビュー」の2つを用意。このうちビルディングビューは、文字通りビル内部にある設備・機器・空間等の各要素と、それに関する情報をリッチな3D空間に表示するもの。このビューで操作を行うことで、ビルのその場にいない人はもちろん、ビル自体に来たことがない人であっても管理・運営オペレーションを実現できるようにサポートする。
従来、ビル内の設備等の位置は図面で管理され、一定の習熟がなければその図面を見ながら操作を行うことは難しかった。しかし人材不足のいま、そうした専門スキルや経験を持つ人を雇用すること自体が厳しくなっていることは上述の通り。そこでこのように、図面と異なり一目でわかる3Dビューにより、遠隔オペレーションをサポートすることに大きなメリットが生まれるわけである。
そもそもビルと一口にいっても、そこには多種多様な設備・機器があり、それぞれを専門業者が設置している。それらすべての稼働状況や故障履歴を把握するのは言うまでもなく困難な仕事となるが、ビル内のセンサーやカメラで収集したデータに加えてそうした情報までを3D空間上に可視化すれば、誰もが容易に管理・運営作業を行えるようになるわけだ。例えば人が利用していないフロアでは遠隔で照明を落とす、頻繁に使われる会議室は清掃の頻度を上げる、あるいは前回の交換から時期が経過した設備を視覚的に確認して対応する、といった効率的オペレーションも可能になるだろう。
今後、ビルの基本的なメンテナンス作業自体はロボットが担うようになっていく時代が来ると言われている。そこに遠隔から少ない人数で管理・運営を効率的に行える仕組みが導入されれば、その部分に携わる必要のなくなった人材の時間を、ビルを訪れた人や働く人への価値提供に充てられるようになるのではないかと考えている。City Twin Ops、さらにその上位コンセプトであるGreenUs®が、単なる現場業務の効率化・省力化だけでなく、その先のより良い価値・サービスの提供といったビル自体のバリューアップまで視野に入れたソリューションであることがわかるはずだ。
City Twin Opsの可能性は幅広い。例えば近隣の駅で電車のトラブルがあり、運行が止まっている場合、現在はわざわざスマートフォンで検索しなければその情報を知ることができないため、知らずに駅へ入って混雑に巻き込まれるということはよくある。そうした情報をビル内にいる時点でCity Twin Opsを用いて、デジタルサイネージ等で知らせられるなら、運行再開までビルの中で“楽しむ”という行動選択につながり、そのビルを利用している満足度が高まるだけでなく、入居店舗等のビジネスにも良い影響を与える。
これはあくまで一例だが、管理・運営に携わる人的リソースとコストを減らし、さらに高付加価値創出に寄与することもできるとなれば、多彩な可能性を期待できるわけだ。加えて、上述のようにビル全体の可視化により省エネを徹底し、環境配慮に活かせるところもCity Twin Opsのメリットになるだろう。
ちなみにシティビューは、ビルだけでなく街区全体を俯瞰できるようにすることで、その街区自体の価値を高められるようにするもの。スマートビルディングを超えてスマート街区の可能性が模索され、実現に動き出すこれからの時代にも、City Twin Opsはさまざまな部分で貢献できるというのがNTTコムウェアの思いである。
街全体のバリューアップを支えるソリューション提供に向けて
NTTコムウェアは、NTTグループにおいて通信網のオペレーションシステム構築など、グループ事業のベースとなる部分を長きにわたり担ってきた企業だ。その技術とノウハウは、GreenUs®、及びSDPF for CityやCity Twin Opsにおいても存分に発揮されている。例えばビューのインターフェースを可能な限りシンプルにし、情報にリーチして操作を行う人が判断しやすいようにしているのはその一つ。
今後については新築ビルだけでなく、既存ビルのバリューアップでの活用促進にも努めたいと考えている。さらには、NTTグループの他の企業と協業を深め、AIなど最新テクノロジーも活用して、現状の可視化からその次の分析のフェーズに進み、より高度な利活用と価値創出につなげていく考えだ。また、現時点でスマートシティのプロジェクトにおけるGreenUs®ソリューションの導入事例は年々増えてきているが、これについても自治体等の取り組みにおける街区のバリューアップという視点で、今後さらなる拡大を目指している。
※「GreenUs」「Connectedx」はNTTコムウェア株式会社の登録商標です。
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