購買活動のデジタル化が進む今、デジタル上における最高の顧客体験を演出できれば、新規顧客の開拓、既存顧客の維持も可能になる。では、顧客体験を向上させるにはなにが必要か。それは、「顧客が真に必要とする情報を」「顧客が必要とするタイミングで」提供するための顧客データの活用だ。しかし、これを実行しようとすれば、売上向上や生涯顧客の獲得につながる「機会」だけでなく、個人情報保護をしなければ罰金・罰則を課せられるという「リスク」にも直面することになるため、顧客データ活用に葛藤を抱えている企業も多いようだ。

こうした状況下、Tealium Japanは2023年9月20日、「Digital Velocity ― 顧客データ活用サミット 2023」をオンライン開催した。サミットでは、Tealium Japanをはじめ、様々な企業・有識者が顧客データ活用の最新情報や事例を紹介した。

  • Digital Velocity ー 顧客データ活用サミット 2023

本稿では、そのプログラムの中から、Tealium Japanのパートナー企業である、株式会社博報堂の大嶋 靖海 氏によるセッション「CDP活用における構造化について」の概要を紹介する。CDPを導入・運用するにあたり、どのように顧客モデルを捉えればいいのか―。博報堂が実践する「顧客や業務を構造化する考え方」は、マーケティング戦略に携わるすべての方にとって、よきヒントとなるはずだ。

CDP活用における構造化について

(写真)大嶋 靖海 氏

株式会社博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 大嶋 靖海 氏

大嶋氏はまず、DXが進んだことによってマーケティングプロセスに変化が生じてきたことを指摘した。旧来のマーケティングは、マーケティングチームやセールスチームなどが立てた目標に対して業務設計が行われ、その業務設計の中で顧客に対してどういう価値を提供して行くのかを考えていく、いわばフロー型のプロセスを踏んでいた。しかし顧客体験こそが重要であるという認識が広まった現代、マーケティングプロセスはMix型、つまり「ビジネス目標・業務・顧客体験が、行ったり来たりしつつ、お互いに影響し合いながらマーティングを進めていくプロセス」に変わってきていると、大島氏は言う。

  • (図版)価値創造型のDX

どちらのプロセスにしても、どんなデータを使って施策を構築していくかがポイントになる。

フロー型の場合、業務システムやデータベース(具体的なキャンペーンやEC、CRM、SFAなどのデータ)をもとに施策一覧をつくり、それを要件としてCDPの設計を行う。しかしこのプロセスでは、捉えるべき顧客像が描かれていなかったり、共通認識化されていなかったりするため、CDPのシステム上でも、顧客をデータとして表現できていない。この状態で施策を追加・変更しようとすれば、CDPの設計変更・設定変更が複雑になり、コストも時間もかかってしまう。

こうしたロスを生まないためには、まず顧客像をきちんと描き、「顧客の分類・定義」をすることが重要だ。

もちろんすでに多くの企業で、選定したターゲットのペルソナを描き、そのペルソナがどういったカスタマージャーニーを辿るかを明確化、プロジェクトに携わるメンバーで認識を共通化した上で、実際の施策に落としていく…というプロセスを実行されているだろう。しかし大嶋氏は次のように注意を喚起する。

「大事なのは定義した顧客像が、各施策と正しく紐づいている状態になっているかどうかです」(大嶋氏)

つまり、顧客の定義をシステムないしはデータ上で表現できるようにする必要があるということだ。それぞれのペルソナに合わせてデータ項目名、データベースのカラム名などをしっかり定義し、それに基づいてCDPを設計するというプロセスが重要となる。

顧客の分類・定義を、いかに施策につなげられるか

プランニング構造の例として、大嶋氏は下記の図を示した。左側が、顧客の分類・定義、中央は、サイトから離脱した、商品ページを何回見た、実店舗に来店した…といった様々な行動属性だ

「顧客の分類に属性というものを掛け合わせていくことによってオーディエンス、通常の概念で言うとセグメントに入れることができ、これが施策につながっていきます」(大嶋氏)

  • (図版)CDP設計までのプランニング構造

大嶋氏は、「顧客の分類・定義」がもっとも重要であると繰り返す。CDPを設計する際の顧客分類方法として、ジャーニー型とストラクチャー型の2つの方法を用いることが多いという。

<ジャーニー型>
まずビジネス全体を俯瞰して、ボトルネックや課題、顧客構成や売上比率などを整理、そこから注力するポイントごとに顧客分類を定義していく。どのような定義をすれば、そこに含まれる顧客にはどれほどのボリュームがあり、どのような違いがあるのか、既存のデータと仮説を比較しながら分類して、そこからカスタマージャーニーにつなげていく手法だ。

■向いている商材
CDPの設計は「顧客に次の行動を促す」ためのものになっており、主に高関与商材(自動車、住宅、不動産、金融など、頻繁には買わないもの)に向いている。

■KPI
行動を促した最後に契約や購入といったアクションがあるので、KPIは数(契約数、販売個数など)になる。

  • (図版)ジャーニー型顧客分類

<ストラクチャー型>
顧客全体を構造化して分類していく方法だ。まずは顧客構造の縦軸と横軸を決めることからスタートする。例えば、横軸に商品を購入する「頻度」、縦軸に商品を購入するまでの「間隔」を置くとする。そしてその軸にある特徴、例えば顧客数、購買量、訪問回数などを把握し、グルーピングしていく。そしてこのグループを顧客分類としてCDPの中に設定していくのだ。

■向いている商材
「次の購買や継続を促す」あるいは「離脱を防ぐ」設計になっており、中関与商材向きだ。

■KPI
KPI はLTV(Long Time Value:どれだけ長く契約してもらうか、どれだけ長期間にわたって買い続けてもらうかなど)になる傾向がある。

  • (図版)ストラクチャー型顧客分類

ストラクチャー型は、顧客分類と施策一覧を組み合わせることで、運用を一気通貫で行えるようになっていくのが特徴だ。しかし、一気通貫で顧客構造とCDPのシステムの構造を管理していくためには、構造、設計、使い方などを文書としてまとめたドキュメンテーションも必要になってくると、大嶋氏は言う。

「顧客の分類構造と、シナリオ、施策、システムの設定が、すべて繋がっていなければなりませんから、例えばIDを振ってきちんと分類していくとか、CDPの設定が顧客構造のどこに対応しているのかといったことを、しっかり把握できるドキュメンテーションが非常に大事になってきます。このような形で管理をしていけば、きちんとビジネスとしての成果が出せるようなシステムになっていくと、我々は考えています」(大嶋氏)

CDPを活用した構造化は、変化が激しい現代の顧客ニーズや市場動向に追随し、企業の競争力を維持・強化するために必要不可欠なものとなりそうだ。

4つの切り口から、顧客データ活用の最前線を紹介

「Digital Velocity ― 顧客データ活用サミット 2023」では、「プライバシー」「シグナルロス(CAPI)」「リアルタイム」「フレキシビリティ」という4つの切り口からセッションを実施。個人情報保護の「リスク」を考慮しながらも、売上増や顧客獲得の「機会」に繋げることができる顧客データ活用法が発信された。当日のプログラムは以下の通り。


▼オープニング
ご挨拶、「大変革の時代に生き抜くデジタル戦略」

ティーリアムジャパン株式会社
日本法人 カントリーマネージャー 酒井 秀樹

Tealium Inc.
CEO Jeff Lunsford


▼事例セッション
【Kmart × デロイト】パーソナライゼーションとプライバシーのパラドックス
顧客体験の中心に同意を据えたソリューション

Kmart グループ
マーケティング アンド ロイヤルティテクノロジーアーキテクト Photi Orfanidis 氏

デロイトデジタル
プリンシパル Frederik De Keukelaere 氏


▼事例セッション
リアルタイム・データの可能性を解き放つ:データからタイムリーかつ関連性の高いオファーへ

KBC Global Partners
キース・カーター 氏

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▼パートナーセッション
デジタルマーケティングトレンドとAWS/Tealiumによるデータ利活用高度化へのアプローチ

アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
事業開発本部 Digital Marketing Solution
シニア事業開発マネージャー 松本 鋼治 氏


▼事例セッション
武蔵野銀行のCX向上に向けた取組みとWeb行動データの活用について

株式会社武蔵野銀行
デジタル推進部 デジタル企画グループ
調査役 松田 安弘 氏 ⇒関連記事はこちら


▼ティーリアムセッション
30分で理解するティーリアムCDPの圧倒的なデータエンジン

ティーリアムジャパン株式会社
シニアセールスディベロップメントレプリゼンタティブ 宮本 晶


▼ティーリアムセッション
CDP最新動向 2023年版

ティーリアムジャパン株式会社
マーケティング シニアマーケティングディレクター 安部 知雄 ⇒関連記事はこちら


▼パートナーセッション
CDP活用における構造化について

株式会社 博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局
大嶋 靖海 氏


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