Infineonはパワー分野で幅広く製品を展開しており、そのターゲットには冷蔵庫や洗濯機、エアコン、扇風機などのモーターを利用した家電製品も含まれる。そうした家電向け製品の展開に関し、インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社 パワー&センサーシステム事業本部のンー ボブ氏と孫 茹氏にお話しをお伺いした。

  • インフィニオンテクノロジーズジャパン株式会社 パワー&センサーシステムズ事業本部 パワー 部長 ンーボブ氏、同事業部課長 孫 茹氏

夏はエアコンの出荷数が多く、また家庭用冷蔵庫もフル稼働する季節だ。この家庭用冷蔵庫のマーケットは今、変化しつつあり、省エネあるいは脱炭素化への波が押し寄せている。たとえば冷蔵庫向けのソリューションは、これまでであればIPM (Integrated Power Module)と呼ばれる統合式のインバーター回路が主流だったのが、ここ数年変化を見せており、部品の選定も変わりつつある(図1)。

  • 図1 インバーター式冷蔵庫のソリューション比率のグラフ

    図1

特に家庭用冷蔵庫では、ディスクリート部品をベースとした比率が加速している。直近でいえば80%ほどの製品がディスクリートになる見込みという数字すらある。これはいうまでもなくCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響で加速した半導体不足が大きな要因である。IPMにするとBOMコストや実装面積の削減にはなるが、逆に品不足の影響を受けやすくなる。冷蔵庫もエアコン同様「出荷できるまでお待ちください」とは言いづらい製品であり、目的の半導体が入手できないなら代替品を使って製造することが求められるが、IPMだとこれが困難になるからだ。

そしてここで利用されるパワーデバイスは、業務用の大容量冷蔵庫/冷凍庫はともかくとして、家庭用冷蔵庫には汎用性の高いディスクリートMOSFETが選ばれることが多くなっている。これは家庭用冷蔵庫の稼働状況が関係する。

煩雑に開け閉めされ、かつ冷蔵/冷凍庫の容量が大きな業務用では、コンプレッサーがフル稼働している時間が長くなりがちだが、家庭用の場合はそこまで負荷が高くない。むしろ最低限の負荷で長時間稼働しているケースの方が多い(図2左側)。消費電力でいえばほとんどの時間が10W未満の稼働で、フル稼働(70W)する時間はほとんどない。こうなると、全体の効率を考える場合には高負荷時の効率よりも低負荷時の運転効率を重視する方が、トータルでの効率改善に繋がりやすいのである。

なぜ効率改善に繋がるかというと、インバーターでよく使われるのは、MOSFETとIGBTという2種類のパワー半導体であり、それぞれの導通損失(稼働に伴う消費電力)の計算式は下記のようになるからだ。

MOSFET 導通損失=I2xRDS(on) (オン抵抗)
IGBT 導通損失=VCESAT x I

軽負荷設計にする場合はMOSFETの低RDS(on)の特徴を生かすことで導通損失の低減につながる。一方、高負荷設計を重視する場合、VCESAT と電流Iの関係で、IGBTの方が効率的に有利になる。両者の関係をまとめたのが図2の右側である。

  • 図2 CoolMOSがモーター駆動用途で優れた軽負荷効率を可能にする理由の説明

    図2

設計にもよるが、両者の導通損失がクロスオーバーするのは負荷でいえば50%程度の領域になることが一般的だ。つまり、フル稼働時間が長い業務用冷蔵庫などはIGBT、低負荷状態で長時間の連続運転を行う家庭用冷蔵庫などの場合はMOSFETが適切であるということになる。

同様に、白物家電の中にも低負荷で長時間稼働する製品(ファン、サーキュレーター、家庭用エアコン、加湿器などのインバーター回路にはディスクリートのMOSFETを使うことが多くなっていくだろう。

Infineonといえば車載向けモータードライバーの方が普段目にする機会は多いが、実はこうした家庭向けの白色家電、特にモーターの駆動回路に向けたディスクリートソリューションも豊富に用意している。

  • 図3 Infineon CooLMOS業界最大のHVディスクリートパートフォリオの画像

    図3

図3はInfineonのMOSFET製品のラインナップである。冷蔵庫やエアコン向けは、600V耐圧のPFD7という左下の製品となるが、300W以下に関してはヒートシンク無しで動作する製品を取り揃えており、最終製品の小型化やBOMコスト削減、設計の柔軟性の確保などにも貢献している。

そのPFD7について、実際には扱うべき電流値やパッケージに応じて複数の製品がラインナップされている(図4)。DPAKパッケージのものが最大16Aまでに対応した品揃えになっており、10A以下であればこのDPAKと端子形状が互換で省サイズのSOT-223のものも利用可能である。

  • 図4 家電インバーター用推奨600V CoolMOS PFD7 SJ MOSFET&2ED EiceDRIVER ゲートドライバーICの画像

    図4

図5は、実際の冷蔵庫のコンプレッサーの駆動回路の実例である。日本の冷蔵庫でいえば300L以上が主流だが、AC/DC変換を含むPMICにはCoolSETTM、ゲートドライバーにはEiceDRIVERTM、そしてパワーステージはCoolMOSTMがそれぞれ利用できる形だ。

  • 図5 ブロック図

    図5

この実例における効率の実測値が図6である。競合製品と比較した場合、0.3A付近での効率の差は1%にもおよぶ。冷蔵庫における最終製品の差別化要因の大きなポイントのひとつが消費電力であるため影響は大きい。これはコンプレッサー以外をすべて含めての比較であるが、昨今の冷蔵庫はほかにも差別化要因として急速/パーシャルな冷凍/解凍機能や冷凍/冷蔵室毎の細かな温度調整/送風ファン、さらにはIoTやカメラなどと機能豊富な方向に進化しつつある。

こうした機能はそのまま消費電力増に繋がるので、逆にいえばコンプレッサーの消費電力は低ければ低いほどありがたいことになる。そもそも図6で、0.1Aのときですら全製品が効率で94%を超えているということからもわかる通り、もうこの分野で大きな改善は技術的に望めないのだ。だからこそ細かい改善を積み重ねていく必要がある。そうした状況における1%の差がいかに大きいかは容易に想像がつくだろう。

  • 図6 Total inverter efficiency % vs.phase currentのグラフ

    図6

今回は家庭用冷蔵庫を中心にご説明したが、家庭用エアコンなどでも状況はよく似ている。家庭用エアコンでいえば室外機は比較的低負荷で定常運転される割合が非常に多い。長時間のフル稼働を行うような用途であればIGBTを利用する方が効果的だが、フル稼働は全体から見ればほんのわずかで、あとは低負荷で長時間稼働するようなケースであればMOSFETを利用する方が効果的だ。Infineonはこうした用途で高効率なMOSFETのディスクリートソリューションを提供している。

図5のモーターコントローラやユーザーインターフェースなども、それに適した製品が多数用意されているし、そうしたMOSFETやゲートドライバーのための評価キットなどもすでに提供中である。さらにいえば、もっときめ細かな制御を行いたい、IoT接続を行いたいというニーズがあった場合のソリューションももちろんInfineonから提供される。

ンー ボブ氏は「電気代が高騰しているなか、省エネはますます白物家電の必須項目となる。InfineonはディスクリートからIPMモジュールまでフルラインアップをもち、最新世代のディスクリート MOSFETを活用すればさらに一段上の高効率を実現可能。日本の家電メーカーの省エネを手伝い、継続的にサポートしていく」と語った。

関連リンク

CoolMOSTM 最新パッケージ
>>詳細はこちら
Infineon アプリケーション ページ
>>詳細はこちら

製品サイト: 

  • 600V CoolMOSTMPFD7
  • CoolMOSTMP7
  • EVAL_DRIVE_3PH_PFD7
  • [PR]提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン