インテル株式会社は3月、長崎県の佐世保工業高等専門学校(以下、佐世保高専)において、AI人材育成プログラム「 Intel® AI for Future Workforce 」を活用した「インテル・AIラボ」を日本で初めて実施した。AI実装による地域の課題解決を牽引する人材(以下、AI人材)の育成 を担う同プログラムについて、「インテル® vPro® プラットフォーム」をベースとしたインテル製品の活用も交えレポートする。

  • 「インテル・AIラボ」現地レポート_001

    佐世保高専の外観

AI人材育成は時代の急務

近年はAIの発展が著しく、AIを活用したサービスの社会実装があらゆる分野で進んでいる。しかし、AI技術自体が新しいものであるため、AIをどのように活用すればいいかわからない、という人がほとんどだろう。今後、AIの活用が必須となる中で、AI人材の育成は急務となっている。

インテルが提供する「 Intel® AI for Future Workforce 」は、大学や高等専門学校などの高等教育機関の学生をターゲットとし、AI人材を育成するための教育プログラム。同社が提供するインテル® vPro® プラットフォーム搭載のPCを使い、AIの基本知識習得から、社会課題解決のためのAIソリューションの企画、実装などを一通り学ぶ実践的な内容となっている。 Intel® AI for Future Workforce を含めるインテルのAI教育プログラムは、すでに米国を中心にインドや韓国など、世界各国で展開が進んでいるが、今回ついに日本にも上陸し、第一回目の開催地が佐世保高専となった。

  • 「インテル・AIラボ」現地レポート_002

    インテルの遠藤氏が行った Intel® AI for Future Workforce の説明

高等専門学校(高専)は高度な専門知識を持った実践的技術者を育成するための5年制の高等教育機関で、全国に国公立・私立併せて58校が存在する。主に工業系の分野を専門とする学校が多く、NHKが主催するロボットコンテスト(高専ロボコン)などで高い技術力を競わせている姿をご存じの方も多いだろう。

佐世保高専は、造船の町として知られる長崎県佐世保市にある国立(独立行政法人高等専門学校機構)の工業系高専で、4つの学科に約850名の学生が学んでいる。今回の「 インテル・AIラボ」には全学科の1年生から4年生までの中から志願した30名が参加した。

  • 「インテル・AIラボ」現地レポート_003

    参加した学生はAIについては必ずしも知識があるわけではなく、これから学んでいくという学生も多かった

AI人材を育成するインテルの教育プログラム

今回のプログラムでは講師役としてテクノロジー・クリエイティブ人材育成事業などを行うJellyWare株式会社が協力し、5時間の座学と実習、ミニハッカソン(※1)が実施された。AI人材といっても、AI自体を開発する「研究者」、AIを使ったサービスを開発する「開発者」、そしてAIサービスで問題解決を図る「事業計画者」の3種類に分類できる(※2)とされている。今回の5時間のカリキュラムのゴールとしては「事業計画者」として、 AIの特徴や課題などを理解した上で、AI を活用した製品・サービスを企画し、社会的、産業的な課題を解決できる「社会課題解決AI人材」の育成が設定された。

  • 「インテル・AIラボ」現地レポート_004

    講師を担当したJellyWareのCTO 上田 浩 氏

また、今回のプログラムの実施には長崎県が全面的にバックアップしており、プログラム最後に行うミニハッカソンでは「長崎県が抱える諸問題をAIで解決する」というテーマも与えられた。このように、自治体と連携し、地域課題解決におけるAIの活用事例の研究という側面もあったようだ。

  • 「インテル・AIラボ」現地レポート_005

    ミニハッカソンの課題には「長崎県が抱える諸問題の解決」が選択肢に加えられており、ほとんどの学生がこれらの問題から課題を選択していた

実際の授業内容だが、AIの種類と動作の理論の解説。そして実際にGoogleのTeachable Machineを使ったノーコード開発によるディープラーニングの実践という筋立て。10〜20分程度の座学と、10分程度のハンズオンや3分程度のディスカッションの繰り返しで進行する。

  • 「インテル・AIラボ」現地レポート_006

    参加者にはプログラミング未経験者も含まれていたが、コードを書かなくても実際に動くものがつくれる

解説はわかりやすいものの、内容そのものは決して平易というわけではなく、限られた時間の中で次々に課題をこなしていくので、気を抜くことはできない。さらに最後のミニハッカソンは約1時間程度で企画と実装、さらに発表資料も作らねばならず、PCにまつわる総合的なスキルが要求される、なかなか高度なものだった。

午前10時から昼食の休憩を挟んで午後17時までという長丁場のプログラムではあったが、志願して参加した学生たちということもあって、中だるみすることもなく、全員が熱心に参加していたのが大変印象的だった。

  • 「インテル・AIラボ」現地レポート_007

    ミニハッカソンでの発表風景

なぜインテルがAI教育を?

インテルは近年、デジタル技術を社会の多くの人々が活用し、よりよい生活を実現するという理念の元、市民の「デジタルレディネス」(デジタル化への適応力)を高めるため、デジタル人材の育成支援活動や、地域へのデジタル実装にグローバルで力を入れている。国内においては、日本政府の掲げるデジタル田園都市国家構想の実現と2026年度末までに230万人のデジタル推進人材の育成に貢献することを念頭に取り組んでいる。

特に STEAM教育、クリエイティブワーク、AI教育、DcX(※3)の4つを重点分野とし、「インテル・デジタルラボ構想」という活動も行っている。今回の Intel® AI for Future Workforce を活用した「AIラボ」も、この活動の一環として実施されたものだ。

  • 「インテル・AIラボ」現地レポート_008

    デジタルラボの概要

なお、活動においてはインテル® vPro® プラットフォームを中心とした同社の製品が利用されている。特に、インテルが無償で提供するリモート管理ソリューション「インテル® EMA」(Endpoint Management Assistantの略。通称「エマ」)は、学生の端末操作をサポートするという観点で重宝されている。

インテル® EMAの特徴は、クライアントPC側の設定が簡単な点にあり、ルーターやファイアウォールを越えたリモートアクセスを容易に可能とする。また、教育現場ならではの活用としては、教師が学生全員の画面を確認して、理解度が低い学生へ遠隔操作でサポートを行ったり、教員の管理画面から学生の端末へファイルを転送したりすることも可能。もちろん、ソフトウェアのトラブルサポート、インストールといった一般的なリモート管理の機能も有しており、これらを専門的なPC知識を必要とせず利用できる。

  • 「インテル・AIラボ」現地レポート_009
  • 「インテル・AIラボ」現地レポート_010
  • インテル® EMAによるリモート管理では、学生の操作画面をリモートで確認できるだけでなく、必要に応じて遠隔操作によるサポートもできる

さらに、インテル® vPro® プラットフォーム搭載PCとインテル® EMAの組み合わせでは、PCのON/OFF、再起動を一括で行うことができる。さらには、BIOS画面へのリモートアクセスといった管理も一括して行うことができ、こうした細かな点からも、デジタル化推進をサポートするためのインテルの「本気」が感じられるのだ。

  • 「インテル・AIラボ」現地レポート_011

    インテル® vPro® プラットフォーム対応のPCであればより利便性が高まり、業務効率化につながる

“AIで何ができるか”が分かる良い機会に

今回のプログラムは学生には好評だったが、学校側にとってはどうだろうか。佐世保高専の猪原 武士 准教授と、濵田 裕康 准教授にお話を伺った。

――今回、 「インテル・AIラボ」に参加されたきっかけは?

猪原氏:AIという最新の技術を、専門外の学生を含めて学ぶ機会を作りたいと思っていたところ、このようなプログラムがあることを知り、参加することになりました。

高専生は組み込み系も含めたソフトウェアとハードウェア、両方できる・動かせるというのが強みです。さらにAIを扱えるようになれば、制御系プログラムとAIを組み合わせて、より高度なものづくりができるようになり、高専生の持つイメージや可能性をより発展していけると思っています。

――佐世保高専の情報教育について教えてください。

濵田氏:基本的に全学科、高校レベルの情報教育は必須となっており、非情報系の学科でも、高校より少し上のレベルまで学ぶこともあります。また、プログラミングに関しては昔から全学科で授業を行っていました。

現在、高専・大学も含めた高等教育機関ではデータサイエンスやAIの教育プログラムを設定し、文科省がプログラムの認定を行っています。リテラシーレベルと応用基礎レベルがあり、すでにほぼ全ての高専がリテラシーレベルの認定を受けていますが、応用基礎レベルはこれからです。この中で、実際にAIに触れていくことになります。

ただし、AIを実際に触るとなったときに、例えばコードを書いて実行するとなると、本校では全学科でプログラミングもやっているとはいえ、コードを書くのはハードルが高い部分です。今回のプログラムではノーコードツールを使っていたので、学科、学年を問わずどの学生であっても参加しやすく、実際にAIで何ができるのかがわかりやすかったので、とてもありがたいと思いました。

――本プログラムの感想はいかがでしたか?

猪原氏:学生がとても生き生きしていて、ワークショップにも積極的に参加している姿が見られました。またプログラム終了後に実施したアンケートの結果からも学生の満足度が高かったのは教員としてうれしかったですね。教員自身もAIについて一緒に学べたのもよかったと思います。

濵田氏:アンケートの結果から、受講前後で学生のデータサイエンスやAIに関する理解度が高まったことが明確になっています。実はアンケートの内容は、来年度から全ての国立高専の学生が到達すべき目標に合わせていたのですが、多くの項目で高いレベルに到達した学生が増えていることがわかりました。今回のプログラムで触れていない部分もありましたが、それを考慮しても、プログラムが有効だったと言えるでしょう。

  • 「インテル・AIラボ」現地レポート_012

――本プログラムの感想はいかがでしたか?

猪原氏:現在、高専全体で「Society 5.0型未来技術人財」育成事業として「COMPASS」というプロジェクトが動いています。

これは、AI・数理データサイエンス、サイバーセキュリティ、ロボット、IoT、半導体と今求められている社会ニーズをくみ取りながら高専のカリキュラムをアップデートしようとするプロジェクトです。

ここで扱う分野は先端分野なので、これまでの高専教育に浸透しているとは言えません。これをどう教育に落とし込んでいくか、教員も教材や必要なスキル、知識を整理している最中です。こうした状況ですので、今回のプログラムは参考になり、非常にありがたいと感じました。


「インテル・AIラボ」は、佐世保高専を皮切りに、今後全国の高専・大学での展開を軸に、形を変え高校や自治体でも広く展開されていく予定だ。

こうした活動をきっかけに、若い世代のAI人材が全国で続々と誕生していけば、各地域の様々な問題が解決され、よりよい社会環境の実現につながっていくだろう。教育関係者の方はぜひ、同プログラムへの参加を検討していただきたい。

  • 「インテル・AIラボ」現地レポート_013

(※1)主にソフトウェア開発に用いられ、エンジニアなどが一堂に会し、新しい製品やソリューションを生み出すために行われるイベント。

(※2)独立行政法人情報処理推進機構「IT人材白書2019」概要 P35にて分類。

(※3)DcXは、インテルが提唱するData centric transformationの略。IT技術によってビジネスに変革をもたらすDX(Digital Transformation)に対し、変革をデータ中心に捉えなおした考え方。

Information

Intel® AI for Future Workforce

インテル・AIラボ


インテル® vPro® プラットフォーム

インテル® EMA

[PR]提供:インテル