1956年に世界で初めて樹脂製バルブを製造した旭有機材株式会社。創業以来続く「金属材料を有機材料に変える」というDNAを核として成長を続け、”流れ”を支える技術で世界の安心な暮らしを支えてきた。これからの旭有機材を示すキーワードとして「グレートニッチトップ」を掲げ、さらなる発展を目指している。

同社はモノづくりにおけるクオリティ・コスト・デリバリー(=QCD)を向上させるべく、ローコード開発プラットフォームClaris FileMakerを用いてシステムを内製し、大幅な業務改善に成功したという。本稿では、アプリ開発の経緯やシステムの特長について、旭有機材のNK推進部の皆さんにお話を伺った。

  • 写真:製造工場でiPadが活用されている様子(画面を見ながら作業をする作業員)

    内製したシステムを活用して業務を効率的に進めることに成功した旭有機材株式会社

樹脂製バルブのパイオニア、旭有機材

旭有機材は、1945年の第二次世界大戦が激化する中、航空機に用いる金属材料の不足を受け、木材と樹脂を利用して部品を製造する使命を持って誕生した。管材システム、機能樹脂、水処理・資源開発分野において世界的に高い技術力を誇り、グローバル展開も積極的に進めている。同社の製品は、海水や塩酸など金属が錆びやすい流体を取り扱う施設で多く利用されており、世界で初めて樹脂製(プラスチック)バルブを販売した日本を代表する樹脂製管材メーカーとしても知られている。

樹脂製バルブは、「錆びない」「軽い」「金属溶出がない」という金属製バルブにない付加価値を備えており、製鉄・電解・メッキ・農水・水産・海水淡水化・半導体業界などでモノづくりのプロセスを支えている。特に、半導体業界における樹脂製バルブの需要は急増している。コロナ禍によってテレワークなどの新しい働き方が求められ、社会全体のデジタル化が急速に進行することで、半導体の需要がいっそう高まった。旭有機材はこうした世界的な需要の増加を受け、研究開発で技術を磨き「樹脂製=壊れやすいのでは?」という概念を払拭し、半導体製造の分野をはじめ、その適用範囲をさらに広げていくことを目指しているという。

  • 写真:旭有機材の樹脂製バルブ

    モノづくりのプロセスを支える、旭有機材の樹脂製バルブ

モノづくりのプロセスを支える、旭有機材の樹脂製バルブ

写真:バルブを手にしながらインタビューに応じる木村氏

旭有機材株式会社
管材システム事業部 管材製造所 NK推進部 部長代行
木村 真哉 氏/副参事

樹脂製バルブの設計・製造・販売という、旭有機材の主力事業を担っている管材システム事業部。宮崎県延岡市にある延岡製造所はその一大製造拠点だ。同製造所では、ローコード開発プラットフォームClaris FileMakerを用いた業務改革が積極的に行われている。NK(延岡革新)推進部の部長代行を務める木村 真哉氏は同社がDXに取り組む意義を次のように語る。

「QCDをより高度化させることは、私たちモノづくりをする企業の使命です。そのために延岡製造所では、積極的に設備系の自動化に取り組んできました。一方で、事務作業やデータ収集・分析などの業務系の自動化は進んでいませんでした。より高度なモノづくりを実現するために、ITで業務の見える化を行い、ムダを省くことで、現場改善の時間と機会を創出しています」(木村氏)。

製造所内業務のDXを進めるにあたり、当初は大規模なシステム開発を検討していたという。しかし所内の業務は多岐にわたり、大きすぎてどこから手を付けるべきか要件定義が成り立たない状態で、開発にかかる時間やコスト、そして大きな手戻りが懸念されていた。このような状態で要件定義がまとまらず、業務改善に必要なアプリ開発計画は難航していた。

写真:バルブを手にしながらインタビューに応じる西村氏

旭有機材株式会社
管材システム事業部 管材製造所 NK推進部 デジタル化推進チームリーダー
西村 圭市 氏/主事

「業務改善にあたって、現場の意見を吸い上げることは必須でした。システムを内製して、試作アプリを作って現場で使ってもらい、都度フィードバックを受けながら作り上げていくことで、現場の業務に即したシステムが構築でき、改善のメリットも得ながら、大規模システムに必要な要件定義も前進するのではないかなと思いました。そこで目を付けたのが、FileMakerによるシステム開発の内製化でした」(木村氏)。

同社が内製化に踏み切ったのは、長期的なシステム運用と将来の全体的なDXの推進を加味したうえでの判断だったと、NK推進部のデジタル化推進のチームリーダーを務める西村 圭市氏は説明する。

「外部のベンダーに開発委託ばかりしていると、システムがブラックボックス化してしまい、社内にノウハウが蓄積されません。また、社内システムも複数ありますから、そのうちの一部のシステムを改修するにしても、それがどのぐらい他のシステムに影響するのかをベンダーに聞かないとわかりません。そのぶん開発・改善の速度も落ちてしまいます。こうした理由から自分たちでシステムを作らなければいけないと強く感じていました」(西村氏)。

延岡製造所の業務を大幅に改革した4つのシステム

こうして旭有機材のFileMakerプラットフォームを活用したシステム内製が始まり、これまでに20種類以上のシステムが開発されてきた。そのなかでも今回は、延岡製造所の業務を大幅に改善した「製造実行システム:通称『∞MUGEN(無限)』」「金型管理システム」「部品出荷アプリ」「NCRアプリ」の4つシステムを紹介していく。限られた社内の開発リソースで効率的に開発を進めるために、ボリュームのある「製造実行システム」は旭有機材が要件定義を行い、外部のシステムベンダーが開発したという。そのほかの3つのシステムは社内で開発されている。

延岡製造所では110台のiPadが導入され、これまでの紙の業務がiPadに代替されることが、効率化を大きく促進するカギとなっている。

毎日3時間の入力集計作業がiPadアプリでボタン一つに

延岡製造所の製造工程は、大きく「成形」「加工」「組立」という流れになっている。システム開発前は成形個数や不良品などの作業記録を紙で管理していたため、情報の一元化ができていなかったという。管理者にとっても、リアルタイムに作業の進捗を把握できないことが課題となっていた。こうした問題を解決するために開発されたのが「製造実行システム:通称『∞MUGEN(無限)』」だ。

  • 写真:従来の製造工程管理に使用していた紙の管理表

    従来の製造工程管理に使用していた紙の管理表。
    紙に印刷して作業進捗確認するために、複数の工作機を行き来していたが、システムによる見える化と余力時間の創出で出来高が約10%アップ

  • 写真:モニターに映し出されたリアルタイムな作業状況

    作業状況を大型モニターに表示しリアルタイムで把握できる

工程計画を製造実行システムに取り込むことで、管理者はPCもしくはiPadの画面上で全体の計画を把握したうえで作業現場に指示を出せる。一方で現場の作業員はiPadから作業リストを確認し、その場で作業を記録できるため、管理者はリアルタイムに作業の進捗状況を確認できるようになる。

「製造実行システムの導入によって、紙やExcelの管理に使っていた時間が大幅に削減されました。また、システムにデータが蓄えられているので、作業の課題を洗い出しやすくなり、品質情報なども把握しやすくなっています」(西村氏)。

ペーパーレス化に伴う記録作業の効率化と事務所に行かずとも現場で情報を閲覧できる点で、作業現場から高く評価されているという。管理者からは、「ほかの生産工程のデータも閲覧できるため、より広い視点で議論が行えるようになった」という声もあがっているそうだ。

「成形と加工のあいだの中間工程において、計画を確認する打ち合わせの時間を毎日設けていたのですが、システムを導入したことで計画の見える化を実現し、打ち合わせの時間を削減できました。これにより付加価値を高めるための時間を創出し、結果として出来高が約10%アップしました」(木村氏)。

  • 写真:iPadをみながら作業する従業員

    iPadを活用してリアルタイムに作業進捗を把握できるようになった延岡製造所

シンプルな仕組みながら、大幅に作業時間を削減した「金型管理システム」

成形工程において使われる金型は種類が多いため、以前はどの金型がどこで保管されているかがわからず、必要な金型を探すのに20分ほど要していたという。金型管理システムは金型の保管場所の登録・検索ができる仕組みで、開発からわずか2カ月で実運用に至った。

  • 写真:大量の金型

    製品ごとに異なる金型をいかに素早く探せるかで生産の効率性が大きく変わってくる

  • キャプチャ:金型の保管場所の検索結果

    金型の保管場所の検索結果

「金型は外部にメンテナンスを依頼することもあります。2時間以上も金型を探してまわった結果、メンテナンス中でここには無かった……ということもあり、時間的なロスはかなり大きかったと思います。金型管理システムは保管場所の登録・検索ができるという、非常にシンプルな仕組みですが、金型を探す時間は大きく改善されました。年間約2,400時間の削減効果があると分析されており、現場からは大変好評です」(西村氏)。

ベテランの技術を継承する、「部品出荷アプリ」

  • キャプチャ:部品出荷アプリの操作画面

    部品出荷アプリの操作画面

  • キャプチャ:部品出荷アプリの操作画面(作業手順が手書きで記載されている)

    ベテラン作業員ならではのノウハウをアプリで参照することで新人でもスムーズな対応が可能に

写真:バルブを机においてインタビューに応じる酒井氏

旭有機材株式会社
管理本部 経営企画部 情報システム企画グループ
酒井 美帆 氏/主査

部品を出荷する際の組み合わせはおよそ25,000通りあり、検査・梱包時の手順や注意点は多岐にわたる。それゆえに新人はベテラン従業員に都度確認しながら作業を進める必要があり、ときにはそれに起因したケアレスミスにつながることもあったという。部品出荷アプリはiPad上に手順・注意点を表示させることで、こうした課題を解消。また、ベテランの持つ作業ノウハウを蓄積・共有することで、新人や別部署のヘルプ要員に向けた研修用のナレッジ集としても活用されている。

本システムの開発を手掛けた酒井 美帆氏は、システムの評判を次のように説明する。

「現場からは『ベテランの方に確認する手間がなくなった』『紙資料を探したり閲覧したりする手間を省けた』という声をもらっています。作業の着完もアプリ上に記録し、出力が可能なため、月報作成も効率化されました。また、出荷ロット単位で作業開始と終了をタイマーで計測して作業時間を確認するなど、データを活用してさらなる改善に向けた作業分析も行う予定です。部品出荷アプリによって“業務改善の土台づくり”ができたと実感しています」(酒井氏)。

部署間のリアルタイムな情報共有を実現した「NCRアプリ」

※NCR:Non Conformance Report(不適合報告書)の略

  • 写真:部品とNCRアプリを表示したiPad

    不良品の現物を担当者に持参しなくても対処方法のやりとりができるNCRアプリ

  • 写真:不良品の対処法が記載されている画面

    不良品の対処について、アプリを通じて品質管理部門からの指示が確認できる

従来は所内の各工程で不具合や不良品が発生した際は、不良品とともに紙の報告書を品質管理部門に提出し、翌日の会議で対策を検討するという流れだった。NCRアプリはこの一連の報告フローをすべてデジタル化したことで、品質管理部門と現場間のリアルタイムな情報共有を実現した。iPadで不具合箇所を撮影してアプリにアップすれば、不良品を提出する必要もなくなり、品質管理部門からはアプリを通して関係部署へ対処法が指示される。さらにその情報を技術部などの関連部署に共有することも可能だ。

「NCRアプリの導入によって、品質管理部門や現場担当者が10名ほど集まって実施していた毎朝20~30分ほどの対策会議がなくなりました。『対策会議につかっていた年間480時間以上もの時間をほかの作業にあてられる』と喜びの声が品質管理部からあがっています」(酒井氏)。

  • キャプチャ:不具合報告画面

    不具合報告画面

旭有機材のシステム開発の内製化を支えた、Clarisパートナー

開発当初より旭有機材の導入相談に乗っていたのが、Claris 認定パートナー 株式会社ユビキタステクノロジー(大分県)だ。現在は、Amazon Web Services(AWS)上にある旭有機材のFileMakerサーバーの保守・管理・運用を担っている。

写真:インタビューに応じる伊東氏(ユビキタステクノロジー)

株式会社ユビキタステクノロジー
伊東 岳氏

「ユビキタステクノロジーさんにはFileMakerについてよくわかっていなかったときから当社にきていただいて、勉強会を開催してくれました。おかげでスムーズに内製化のスタートを切ることができたと思います。我々だけでは乗り越えられそうにない悩みに対してアドバイスをいただいていますし、安定運用には欠かせない存在です。今後は新しいバージョンへの対応や、内製が難しい一部の開発をお願いするなど、技術的なサポートも受けながら、一緒にシステムを発展させていきたいと考えています」(酒井氏)。

これに対しユビキタステクノロジーの伊東 岳氏は、旭有機材の取り組みを次のように語る。

「FileMakerを導入してから現在に至るまでのアプリ開発のスピード感がすごいと感じています。現場を巻き込んだアジャイル開発ができる FileMakerに目をつけた旭有機材さんの先見の明があってこそで、今回の導入を通してFileMakerの底力を教えてもらいました。」(伊東氏)。

現場にも浸透し始めた“業務改革マインド”。NK推進部はさらなる挑戦へ

旭有機材はFileMakerを活用し、現場の従業員に寄り添いながら改革を進めてきた。開発期間わずか2カ月でシステムを実装するなど、さまざまな成功を収めた同社だが、大きなシステムは外部に委託したり、ユビキタステクノロジーのサポートを受けたりと、力を借りるべきところを見極めながら進めた点が、効率的な社内開発の実現に繋がったといえる。また、システム開発の内製化は現場の従業員のマインドも大きく変えたという。

「現場からは、新規システムの開発や既存システムの改善要望が多数あがっており、全社のマインドが大きく変化しているように感じます。これによって業務改善はより活発になりますし、データを利活用すればQCD向上にもつながります。これこそが真のDXといえるのではないでしょうか」(西村氏)。

今回の事例で培ったノウハウを活かし、今後は業務改革をどのように推し進めていくのだろうか。最後に、木村氏に展望を伺った。

「『はじめて』に挑み『違い』をつくるという当社の目指す姿を実現するために、これからも当社にとって『はじめて』のデジタル基盤を社内で構築する活動を続けていき、これまでとは『違う』、より現場で使いやすいシステムを構築していきたいと考えています。現在は製造所内の業務を中心にシステムを作っていますが、これから営業や管理部門などに広げていくためにClaris Connectの導入も検討しています。管材システム事業部では『お客さまの"流れる"を支える』というキーワードを掲げていますが、流れを止めないためのベースを作っていくことが、我々NK推進部の使命です」(木村氏)。

  • 写真:木村氏、酒井氏、西村氏の「旭有機材」ロゴ前の集合写真

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