昨今においてWi-Fiは重要なネットワークインフラになっている。PCやスマートフォンだけでなく、家庭向けのスマートデバイスなどでもWi-Fiを使うようになっており、今後もますます普及していくことは疑う余地がない。現時点で広く利用されているのはWi-Fi 5だが、昨年11月に総務省の周波数再編アクションプランの中で6GHz帯の無線LANへの開放が言及されたこともあり、今後、市場の主流はWi-Fi 6になっていくだろうと予想されている。こうした新しいニーズに対応するため、Infineonは2021年からAIROC CYW5557xシリーズのWi-Fiポートフォリオを提供。Wi-Fi 6に対応した製品をラインナップした。Infineonならではの技術を盛り込み、性能を引き上げたというWi-Fi 6/6E ソリューション。その独自性について、インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社の丸山氏に話を聞いた。

市場の主流はWi-Fi 5からWi-Fi 6へ

インフィニオン テクノロジーズ コネクテッド セキュア システムズ事業本部 IoTシステムズ リージョナルマーケティング部 部⻑ 丸山敏郎 氏

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コネクテッド セキュア システムズ事業本部
IoTシステムズ リージョナルマーケティング部
部長 丸山敏郎 氏

Wi-Fiの規格は順次刷新されている。現在、最も広範に利用されているのはIEEE 802.11ac、あるいはWi-Fi 5と呼ばれるものだが、これは2013年に市場に投入され始めてから既に9年近くが経過している。2021年にはこれに続く規格としてIEEE 802.11axの標準化が完了。対応製品の市場投入はこれに先んじて2019年頃に始まり、昨年あたりから急速に普及し始めている。Wi-Fi 6と呼ばれるこの規格は、既存のWi-Fi5と同じく2.4GHz帯と5GHz帯に加えて、新たに6GHz帯(5.925~7.125GHz)を使う仕様も追加されているが、各国の規制状況の関係ですべての国で利用できるという状況ではない。そこで2.4GHz帯と5GHz帯のみを使うものをWi-Fi 6、これに加えて6GHz帯も利用するものをWi-Fi 6Eとして扱っている。

Wi-Fi 6は、この先急速にWi-Fi 5に代わって市場の主流になることが想定されている(図1)。もちろん後方互換性は確保されているので、現在出荷中の製品を今すぐWi-Fi 6対応にする必要はないが、今後登場する製品はWi-Fi 6対応が一般的になってくるだろう。加えて、日本ではこれまでWi-Fi 6Eの6GHz帯の利用が不可能だったが、昨年11月、総務省の周波数再編アクションプランの中で6GHz帯の無線LANへの開放が言及された。現時点ではまだ具体的な答申が行われていないのでどのような形になるか明確ではないが、国内でも6GHz帯の利用が可能になる可能性が高い。このことを踏まえ、Wi-Fi 6Eのマーケットが新たに立ち上がることを念頭に置いておくのが妥当だろう。

  • 図1:ABI Researchによるマーケット推定。2023年にWi-Fi 5とWi-Fi 6/6Eの出荷量がほぼイーブンとなり、その先はWi-Fi 6/6Eが主流になると推定されている。

    図1:ABI Researchによるマーケット推定。2023年にWi-Fi 5とWi-Fi 6/6Eの出荷量がほぼイーブンとなり、その先はWi-Fi 6/6Eが主流になると推定されている。

Wi-Fiから少し離れるが、特にコンシューマ向けのアプリケーションで見逃せない動向はLE(Low Energy)-Audioである。規格そのものはBluetooth 4.0で最初に入ったが、BLE 5.2ではLE-AudioでIsochronous Channelを利用できるようになり、今年からはこのLE-Audioに対応したワイヤレスオーディオ機器が多数登場すると予測されている。従来のBluetooth Classicベースのワイヤレスヘッドホンに比べLE Audioで導入されるLC3コーディックにより低遅延、高音質が実現可能で、またLE Isochronous Channel通信より、これまでBT Classicでは実現できなかった、マルチスピーカーやマルチ言語などの対応が容易になる。既にWi-Fiを使ったスマートスピーカーやA/Vレシーバーなどは多数あるが、今後は、そこからLE-Audioで最終的に利用者まで音楽を飛ばす能力が求められるようになると見られている。

独自の技術で性能を引き上げたInfineonのAIROC CYW5557xシリーズ

こうした新しいニーズに対応するにあたり、Infineonは昨年からAIROC CYW5557xシリーズのWi-Fiポートフォリオを提供している。同社は元々、2007年頃からAIROCというブランドでWi-Fi 4ことIEEE 802.11nを、2012年にはWi-Fi 5のソリューションを市場に提供しており、昨年からWi-Fi 6に対応した製品をラインナップした形だ(図2)。

  • 図2:Wi-Fi 6対応は現在3製品。うちAIROC CYW55572のみはWi-Fi 6対応(6GHz帯未対応)だが、CYW55571/55573はWi-Fi 6E(2.4/5/6GHz帯に全て対応)となっている。

    図2:Wi-Fi 6対応は現在3製品。うちAIROC CYW55572のみはWi-Fi 6対応(6GHz帯未対応)だが、CYW55571/55573はWi-Fi 6E(2.4/5/6GHz帯に全て対応)となっている。

Wi-Fi 6はWi-Fi 5に比べて多くの利点がある。図3は、左がユーザーの抱える課題、右がそれに対応するWi-Fi 6のメリットとなる。Wi-Fi 5からの混雑時のスループットの改善がよく語られるWi-Fi 6であるが、実際には同時接続性の向上やビームフォーミングを使っての到達距離伸長、レイテンシの削減によるオンラインゲームやライブ中継などでの快適性向上など、スループット以外のメリットも多く、省電力に関しても様々な追加機能があるため、Wi-Fi 6の方がユーザーエクスペリエンス向上に繋がると考えられており、これが冒頭で示した急速なWi-Fi 6のシェア増大の原動力になっている。

  • 図3:昨今では、実はスループットそのものよりも、Latencyの多さや瞬断(一時的にパケットの流れが止まる)などの方がむしろ問題になっている。Wi-Fi 5でも条件が良ければ1Gbps程度の通信は可能なため、スループットは相対的に問題ではなくなりつつある。

    図3:昨今では、実はスループットそのものよりも、Latencyの多さや瞬断(一時的にパケットの流れが止まる)などの方がむしろ問題になっている。Wi-Fi 5でも条件が良ければ1Gbps程度の通信は可能なため、スループットは相対的に問題ではなくなりつつある。

こうしたメリットはもちろんInfineon以外のソリューションでも享受できるが、Infineonのソリューションではそこに「プラスアルファ」が加わる(図4)。

  • 図4:到達距離や電池寿命、セキュリティに加えてLE-Audioを含むBLEの同時利用が可能、といったあたりが他社製品との差別化要因となっている。

    図4:到達距離や電池寿命、セキュリティに加えてLE-Audioを含むBLEの同時利用が可能、といったあたりが他社製品との差別化要因となっている。

たとえば、一番問題になりそうな到達距離だ。実際にはスループットと到達距離のトレードオフとなることが多いが、Infineonのソリューションを利用すると最大到達距離を倍近くまで伸ばすことも条件によっては可能である(図5)。これは、1024-QAMなどWi-Fi 6でオプション扱いされている仕様は当然すべてサポートしたうえで、さらに独自のLESI(受信側感度を引き上げる機能)や、Wi-Fi 4以前の規格で通信する場合でも2つのアンテナをフルに活用するなど、Infineon独自の技術が盛り込まれており、Wi-Fi 6との互換性を保ちつつ性能を引き上げている。

  • 図5:Wi-Fi 6と比較して40%の到達距離拡大というのは他社製品との比較である。

    図5:Wi-Fi 6と比較して40%の到達距離拡大というのは他社製品との比較である。

また、混信などに対する拡張も用意されている(図6)。11axの機能であるDual Carrier Modulation(DCM)やBSS Color、OBSS_PD based SRなどの機能などとともに、電子レンジなどのノイズの抑制を行ったり、インバンド/アウトバンドの他のWi-Fi通信からの干渉を抑制したりする機能を備えている。CYW55572と前世代製品であるCYW4356を比較した場合、同一スループットなら18dBの出力削減が可能であり、最大スループットは11nでも10Mbps、11axだと135Mbpsも改善される。

  • 図6:右図は横軸が2アンテナの受信感度、縦軸がスループットである。CYW55572は受信感度が18dB向上しており、-40dBにおけるスループットは最大135Mbpsも上回る250Mbps近くを維持できているのがわかる。

    図6:右図は横軸が2アンテナの受信感度、縦軸がスループットである。CYW55572は受信感度が18dB向上しており、-40dBにおけるスループットは最大135Mbpsも上回る250Mbps近くを維持できているのがわかる。

また、その他に独自の省電力機構なども搭載されており、より低い消費電力が必要とされる用途向けにも適しているのが特徴だ。この省電力については、たとえばWi-FiとBluetoothを連動させることで、普段の待機電力を最小に抑えつつ迅速に起動させるといった実装も容易である(図7)。これは、次に説明するBluetoothも実装しており、Wi-FiとBluetoothが完全に別系統になっているからこそ可能な方法である。

  • 図7:待機中はBluetoothのみを待機させ、Wi-Fiの側はPAを含めて休止状態においておくことで消費電流を100μA未満に抑えることができる。ここにユーザーからBluetooth経由で通信を行うと、これをホストに通知、ホストがWi-Fi側もActiveにするという形だ。

    図7:待機中はBluetoothのみを待機させ、Wi-Fiの側はPAを含めて休止状態においておくことで消費電流を100μA未満に抑えることができる。ここにユーザーからBluetooth経由で通信を行うと、これをホストに通知、ホストがWi-Fi側もActiveにするという形だ。こうした使い方をするアプリケーションは、今後増えてくるだろう。

Wi-Fiに加えてBluetooth 5.2が搭載され、柔軟な利用が可能に

AIROC CYW5557xシリーズではWi-Fiに加えてBluetooth 5.2が搭載されており、ここでLE-Audioがフルにサポートされている。LE-Audioの実装により、今後は新しいマーケットが広がっていくと考えられる(図8)。LE-Audio自体はこれまで使われていたBluetooth Audioとは非互換であり、もちろん従来と同じBluetooth Audioでの接続も可能だが、より柔軟性に富んだ利用が可能になる。今年からLE-Audioに対応したオーディオハブやスマートスピーカー、ワイヤレスヘッドホンなどが市場に出始めると思われるが、こうした新製品はLE-Audioをサポートしていなければフルに性能を発揮できない。そのため、特にBluetoothを使ったワイヤレスヘッドホンでは今年から来年にかけて製品ラインが更新されていくことになるだろう。

  • 図8:LE-Audioを利用したアプリケーション例。ひとつのAudio Hubから複数のワイヤレスヘッドホンへの配信や、マルチストリームの同時配信などが可能になる。

    図8:LE-Audioを利用したアプリケーション例。ひとつのAudio Hubから複数のワイヤレスヘッドホンへの配信や、マルチストリームの同時配信などが可能になる。

AIROC CYW5557xシリーズは、全製品がBluetooth 5.2に対応している(図9)。特徴的なのは、大出力用と小出力用の2種類のPAが内蔵され、用途や状況に応じて切り替えて使えることである。

  • 図9:Bluetoothブロック。Wi-Fi用とは別に管理用のMCUやPHY/MAC/PAが搭載される、充実した構成である。

    図9:Bluetoothブロック。Wi-Fi用とは別に管理用のMCUやPHY/MAC/PAが搭載される、充実した構成である。

インフィニオンはWi-Fi、Bluetoothの両方のデバイスでリーダーの位置におり、同じ2.4GHz帯を使うWi-FiとBluetoothのCoex(共存機能)によりWi-Fiと併用する際には自動的に周波数や出力などを切り替えて、Wi-Fiとの干渉を避けながらLE-Audioを含むBluetoothアプリケーションをフルに活用できる仕組みが用意される。また、LE-Audioをフルに活用するために必要なLE Audioのスタックは、台湾のA&W社のようなパートナー企業からも提供されており、開発を容易に行える。

  • 図10:Classic AudioとLE AudioのStack例

    図10:Classic AudioとLE AudioのStack例

良好なコネクティビティの確保に貢献するAIROC CYW5557xシリーズ

AIROC CYW5557xシリーズは55571/55572/55573の3製品がラインナップされている。このうちCYW55572は間もなく量産に入る予定で、CYW55571/3も間もなくサンプル出荷が開始される。3製品はパッケージとピン配置は完全互換で、異なるのはアンテナが1x1か2x2かという点と、6GHz帯のサポートの有無だけである。日本においても、順調にいけば2022年中に法改正が行われ、2023年あたりからはWi-Fi 6Eのマーケットが立ち上がると見られている。たとえば、まずCYW55572を使って製品を開発し、Wi-Fi 6Eのマーケットが立ち上がったらこれをCYW55573に切り替える、ということもできるだろう。

最終製品の使い勝手を考えたとき、コネクティビティが良好か否かは、意外に大きな影響を及ぼす要素である。InfineonのAIROC CYW5557xシリーズは、良好な接続性の確保に大きく貢献可能なコンポーネントであることは、ぜひ記憶に留めておいてほしい。

AIROC™ Wi-Fi 6/6E + Bluetooth 5.2コンボソリューション
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