ホームセンターチェーンのカインズは、デジタル戦略の一環として、Salesforceによるシステム開発の内製化を推進している。その適用範囲の拡大にあたって、テラスカイのサポートを受けながら、Salesforce向けのリリース管理ツールである「Flosum」の導入と、Salesforceの横断管理チーム「CoE(Center of Excellence)」の設置を並行して行った。これにより、同社ではSalesforceによるリリースのサイクルを迅速化し、その適用範囲の拡大を実現している。
1978年に開業した「いせやホームセンター 栃木店」を起源として、日本全国に225店舗のホームセンターを展開するカインズ。創業から40年を経た現在を「第3の創業期」と位置づけ、2019年に発表した中期経営計画「PROJECT KINDNESS」のもと、持続的な成長を目指した改革を続けている。
改革の柱のひとつが「デジタル戦略」だ。オンラインショップや、スマートフォン向けアプリといった領域にとどまらず、デジタル技術でリアル店舗とオンラインをシームレスに融合させた「IT小売企業」へと進化していくことを目標に掲げている。
同社は「IT小売企業」への進化、いわばデジタルトランスフォーメーションの実行部隊として「デジタル戦略本部」を設置してシステム内製化を進め、顧客体験の価値向上や店舗メンバー(従業員)の作業効率化に寄与するデジタルソリューションの企画・開発に取り組んでいる。
実際に複数のサービスがリリースされている点から見ても、成果は明白だ。デジタル戦略本部 デジタルソリューション開発部 Webスクラム開発グループ グループマネジャーの崎濱氏は「オンラインで注文した商品を店舗で受け取れる“CAINZ PickUp”、店舗で開催されるイベントへの参加予約、施設の予約、工具の貸し出し予約などができる“CAINZ Reserve”、アプリを通じて商品の売り場の位置や在庫数などを確認できる“Find in CAINZ”などが例としてあります」と話す。
3~4時間かかっていたリリース作業の時間が、30分以内へと短縮
上述の、複数サービスを実現した「デジタル戦略本部」が拘っているのがシステム内製化だ。 この方針を打ち立て、エンジニアを増員し、Salesforceをメインのプラットフォームとして、さまざまなサービスを内部でアジャイル開発していくことになった。 外部に開発・運用を任せていたSalesforceの内製化にあたり、早期的な改善を必要としたのが、リリースにまつわる作業の効率化だったという。
「これまで協力会社に任せていたSalesforce全体の管理を、社内で引き継ぐことになりました。複数のアプリケーションをSalesforceで開発し始めていたので、内部開発のルール、リリース時の共通ルールなど、一から決めていく必要がありました」と崎濱氏は振り返る。
Webスクラム開発グループで開発リーダーを務める崔氏はSalesforceのリリースについてこう語る。
「Salesforce上でアプリケーションをリリースする際には“変更セット”と呼ばれる機能を使うのが標準的ですが、これは注意が必要な作業で、何度やっても慣れるということはありません。コンポーネントの種類やアプリケーション、カスタム項目、Apexクラスといったものを手作業でひとつずつ選んで、そのつど実行する必要があります。1カ所でもミスがあると、エラーが出てしまいます。アプリケーションの開発環境から本番環境へのリリースまでには、5つの環境を段階的に移行していく必要があるのですが、非常に時間がかかり開発担当者のストレスも大きいものでした」(崔氏)
同社では、この状況を改善するため「Flosum」の導入を決定した。これは米Flosum Corporationが開発するSalesforce向けのリリース管理、継続的インテグレーションの運用を効率化するツールで、日本ではテラスカイが販売代理店となっている。
「Flosum」のおかげで『プロダクトづくりのより本質的な部分に集中』できるように
「Flosumを導入した後も、複数のチームで開発していくので、やはりFlosumを使うためのルールを決めておく必要があります。このルール決めとドキュメント作成に関して、2020年の秋からテラスカイにサポートをお願いしました。また、Salesforceの定期アップデートに合わせてFlosum自体も頻繁に更新が行われるのですが、そのキャッチアップや技術的な問題の解決についても継続して支援をしてもらっています」(崔氏)
崔氏は「Flosum導入の効果は絶大でした」と評価する。変更セットを利用した場合、1回のリリースにあたり3~4時間かかっていた作業が、30分以内へと大幅に短縮されたのだ。この効果は、開発スピードにも影響する。
Salesforce開発を行う他のチームからも、Flosumには良いフィードバックが得られている。「リリースのハードルが下がり、作業を行えるメンバーが増えた」「他チームの状況やリリース資源の把握が、以前より大幅に効率良くなった」といった声が出ているという。
「リリース作業そのものにかかる時間や手間が大幅に減ったことで、アプリケーションの品質を高めるためのプロセスや、そのサービスが生みだす価値をどう最大化するかを考えるなど、『プロダクトづくりのより本質的な部分に集中』できるようになったと感じています」(崎濱氏)
「現場の感覚としては、もう“Flosumがない環境ではリリースしたくない”というのが正直な気持ちです」(崔氏) こういった声のとおり、カインズは複数アプリを管理しながら、週に1回以上のペースで機能追加、改善といったリリースを実行しているという。
適用範囲の拡大を視野にSalesforce横断管理チーム【CoE】を組織
さらにテラスカイは、カインズへのFlosumの導入支援と並行して、Salesforce開発を全社的に推進していくためのCoE(Center of Excellence)チームを作っていくことを提案した。というのもカインズでは、主に店舗メンバーによって利用されるシステムや、顧客体験の向上に寄与するシステムについて、Salesforce上で開発を進めていくことを今後の方針としているからだ。
「私は現在の部署に所属する以前に、店舗の資材館(資材売場)でシステムに関わっていました。店舗では、受発注のシステム、在庫管理のシステムなどが、それぞれ個別に存在していました。そのため、データの連携に手間が掛かり、何よりそれらを使い分けて仕事をしなければならず、店舗メンバーの負担が大きくなっていたのです。せっかくSalesforceを使えるのですから、店舗向けシステムはすべてSalesforceを通じてストレスなく利用できるようにしていきたいと考えています」(崔氏)
Salesforceで内製化を進めるにあたり、多くのチームでアジャイル開発が継続できる体制を作っていくには、エキスパート組織として運用を統括する「CoE」の設置が重要な施策となる。
「CoEに準じた組織として、各開発チームの代表者から成るSalesforce横断管理チームを設置しました。設置にあたって、テラスカイには『そもそもSalesforceプラットフォームの管理では何をしなければならないのか、そのために組織としてどのようなことを事前に考え、ルールを決めておかなければならないのか』といったところからレクチャーを受けました。アジェンダの設定やミーティングのリード、管理者と開発者向けのマニュアル作りまでを手際良くサポートしてくれました」(崎濱氏)
「これまでテラスカイが関わってきた他社のCoE事例も、私たちが作っていく組織の形をイメージするうえで非常に参考になりました。一般的な事例だとビジネス戦略などが中心で、実際の現場が開発体制をどう作っていったのか参考にできるような情報が少ないのですが、今回テラスカイに支援に入ってもらったことで、そうした部分のノウハウを多く注入できたことは収穫だと思っています」(崔氏)
外部には「開発」ではなく『技術面』と『組織面』の支援を期待
カインズは引き続きテラスカイの支援を受けながら、Salesforceによる内製開発の基盤となる環境整備を進めていく。
「開発メンバーの多くは、もともとSalesforceでの開発経験がありませんでした。そうした立場からすると、やはりSalesforceには独特の概念やクセがあり、やりたいことを実現するためにどうすればいいのか悩んでしまうことも多いのです。その点、Salesforceのノウハウが豊富なテラスカイから『技術面』『組織面』での支援を受けられることには価値があると考えています」(崎濱氏)
「今回のテラスカイの支援で導入したFlosumは、Salesforceで開発の生産性を上げたい企業にとって必須のツールだと思います。また、CoEは大きな組織でのSalesforce活用をうまく進めていくために重要です。今後もSalesforceを組織の中でフルに活用するためのノウハウを身につけ、次々と新しいものを生みだしていきたいと思います」(崔氏)
現在、デジタル戦略本部は、関連部署のメンバーも含めて百数十名の体制となっているという。彼らがSalesforce上で生みだし改善を続けていくプロダクトが、カインズの「IT小売企業」に向けたたゆみない変革を支えていくことだろう。
[PR]提供:テラスカイ