2019年8月まで、研究機関や産業界の計算資源として利用されてきたスーパーコンピュータ(以下、HPC)「京」に変わり、2021年4月からは「富岳」の共同利用がスタートする。その計算速度は「京」の約100倍、現時点で世界No.1を誇る。2020年9月現在、まだ開発・整備が行われている最中だが、共同利用スタートに向けて多方面での活用が期待されている。しかし「富岳」クラスのHPCが持つ計算能力を産業に活かすには、課題も多いという。
2020年10月7~9日、オンラインで開催される「VINAS Users Conference 2020」(以下、カンファレンス)では「大規模・高精度・高速計算と最適設計のためのソリューション~ オープンソース とHPCの設計利用 ~」をテーマに、次世代HPC利用にまつわる課題と解決策や、最新のテクノロジーが紹介される。カンファレンスを主催する株式会社ヴァイナスの代表取締役社長、藤川 泰彦氏に、その概要をリモートで取材した。
高性能であるがゆえに、計算結果が膨大になるという課題
株式会社ヴァイナスは、CAE(Computer Aided Engineering)やCFD (Computational Fluid Dynamic:数値流体力学)に関連したソリューションやサービスをとおして、自動車、航空、重工業、創薬など、さまざまな分野の大規模・高速・最適設計を支援している企業だ。「富岳」プロジェクトにおいても大きな役割を担っており、公益財団法人 計算科学振興財団(FOCUS) 高度計算科学研究支援センターに「富岳/FOCUSスパコン利用支援センター(C-CAT)」を設置し、ユーザーの利用支援に向けた準備を行っている。
「『富岳』を利用する際の課題のひとつは、高性能であるがゆえに、生成される計算結果が膨大な量になるということです」と、藤川氏は言う。特にさまざまな研究・設計に用いられるCFD解析は、年々データサイズが大規模化し続けている。HPCの進化にともない高度な解析が可能になったことに加え、ひとつの現象をいくつもの視点から解析するケースが増えていることが、その要因だ。
たとえば自動車の車体設計の場合、走行時にかかる空気抵抗を「富岳」で解析すれば、車体をとりまく空気渦を、あらゆる角度から精細に可視化できる計算結果を得ることができる。しかしそのデータ量は膨大で「100Mbps程度の一般回線で転送しようとすれば、数ヶ月はかかってしまう」(藤川氏)という。仮にこのデータをすべて転送できたとしても、やはりデータが大きすぎて、設計者の判断に役立つよう可視化する工程(ポストプロセッシング)が捗らない。これでは設計に時間がかかりすぎ、市場の変化に合わせた新製品を打ち出していくことはできないだろう。
HPCの進化によって、こうした問題が起こることは数年前から予測されており、東京理科大学 工学部情報工学科の藤井 孝藏教授は「新たなポストプロセッシングについて考えるべきだ」と説いてきた(藤井教授は今回のカンファレンスでも、基調講演を担当する)。「富岳」の運用に深い関わりを持つヴァイナスはこの数年、藤井教授が鳴らす警鐘に呼応して技術的な解決策を探ってきたが、今回のカンファレンスでは、いよいよ具体的なソリューションを提示できるまでになった、藤川氏は言う。
課題解決への3つのアプローチは「性能・関数評価グラフ」「可視化並列処理」「低次元化」
ヴァイナスが提示する「新たなポストプロセッシング」は「性能・関数評価グラフ」「可視化並列処理」「低次元化」の3つの方向性に則したものとなっている。
「性能グラフ・関数評価グラフ」は文字通り、解析を行った製品の性能を、グラフによって直接評価できるようにすることだ。設計者にとっては、画像や映像で可視化された解析結果よりも、数値とグラフで表されたデータの方が判断を下しやすいうえ、グラフ生成だけであれば、必要なデータは少なくて済む。さらにヴァイナスではグラフを出力するためのテンプレートを設計する機器や目的に合わせて多数用意しており、無償で提供している。
「可視化並列処理」は、ヴァイナスが提供するCFD可視化ポストプロセッサ「FieldView」を利用し、HPCで行った計算結果の中から必要なものだけを、HPC上で可視化する手法だ。先に挙げた自動車の車体設計を例にすれば「時速100kmで走行した場合、車体後部に起きる空気の流れがわかる、真横からのアニメーション」というように、範囲を限定してHPCに可視化データを生成させる。これなら利用者は、計算結果すべてをダウンロードする必要はない。また従来、利用者がポストプロセッシングとして行ってきた可視化の工程までHPC側に行わせることができるため、作業工程・時間を効率化できる。可視化したい範囲をいくつか指定してHPCに並列処理させれば、ひとつあたりのデータ量をおさえつつ、多くの結果をスピーディに取得することが可能だ。
「低次元化」とは、HPCが出力した膨大な解析結果を自動でふるいにかけ、人間が理解しやすいよう、重要なものだけに絞り込んで可視化することを意味する。その実現に向けてヴァイナスでは「VFBasis」という製品を用意している。この製品の元となるのは、JAXAが大気圏突入カプセルの設計用に開発したアルゴリズム「FBasis」で、POD(固有直交分解)およびDMD(動的モード分解)といった低次元化技術に、機械学習を融合させたものだ。ヴァイナスが産業での利用に道筋をつけ、2019年からは自動車の走行時に起きる振動や、冷却ファンが発する騒音の原因となる空気渦を特定するのにも役立てられている。2020年春には、使いやすさに焦点を置いて改良された「VFBasis」として製品化された。
「富岳」の本格運用を踏まえ、大規模・高精度計算の結果を扱いやすくする、これらソリューションについては、カンファレンスで利用例を交えつつ、詳しく紹介される。
「CRUNCH CFD」で、さらなる大規模・高精度計算の可能性を追究
一方、ヴァイナスでは超高精度計算・超大規模計算の可能性も追求し、高機能流体ソルバ「CRUNCH CFD」の取扱いも行っている。米国で開発された「CRUNCH CFD」は圧縮性・超臨界・化学反応などに対応しており、これを利用すれば、真空中での素材合成など従来のCFDでは扱えなかったような解析もでき、ものづくりの可能性が大きく拡がる。カンファレンスではJAXAのケーススタディも発表される予定だという。
「ものづくり」がどのように変わっていくかを、いち早く体感できる内容が詰め込まれた「VINAS Users Conference 2020」。業界を問わず、設計・製造や研究・開発に携わる人であれば、注目すべきイベントと言えるだろう。
会期 |
[DAY1:ポストプロセッサと自動車・都市開発・医療機器] 2020年10月7日(水)13:00~17:40(予定) |
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[DAY2:プリプロセッサとターボ機械・航空宇宙・自動車] 2020年10月8日(木)13:00~17:35(予定) |
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[DAY3:最適設計・高速化・HPC] 2020年10月9日(金)13:00~17:55(予定) |
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ワークショップ DAY1:10月13日(火) DAY2:10月16日(金) ※各ワークショップは参加登録(事前登録制)が必要となります。 |
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開催方法 |
Web経由でご参加いただきます。 アクセス方法は、ご参加者へ追ってご案内します。 ※お客様の通信環境によっては正常に受講頂けない場合がございますので予めご了承願います。対応OS・ブラウザの詳細についてはこちらをご参照ください。 |
対 象 | エンドユーザー様 ※当社の販売ソフトウェアとサービスをご利用のお客様・ご検討中のお客様。 ※ユーザー会につきベンダー等の方は参加をご遠慮いただく場合がございます。 |
参加費 | 無料(但し、事前登録を要します。) |
参加登録申し込み | こちらのWEBよりお申込をお願いいたします。 |
主催 | 株式会社ヴァイナス |
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