1956年創業の日本電鍍(でんと)工業株式会社は、電気・電子部品、医療器具、装身具、管楽器などさまざまな品物の金属めっき加工を取り扱っている。その高い技術力や経営手法に定評があり、2018年には東京商工会議所の「勇気ある経営大賞」を受賞したり、テレビ東京系列局の人気番組「二代目 和風総本家」に取り上げられるなど、いま注目の企業だ。
めっき加工の業務管理はパッケージソフトでは困難
同社の業態は多品種小ロットかつ、「顧客から品物を預かり、加工して納品する」というめずらしい業態である。例えば、楽器1つをめっき加工するにしても、そのパーツの種類や材質、加工の厚さなどは都度違ってくる。それが楽器だけにとどまらず、宝飾品や医療器具などさまざまな業種・業態の顧客から品物を取り扱っているのだから、その管理は非常に煩雑だ。
ほかにも、めっきに使用する金属や薬品などの資材管理から、外注対応などもあり、こうした受注業務や生産管理といった、基幹系業務に課題を抱えていた。
日本電鍍工業 代表取締役の伊藤麻美氏は「おかげさまでここ数年、売上げも順調に伸び、あらゆる業種のお客様からお声をいただけるようになりました。その反面、従来の基幹システムでは対応が追いつかなくなり、社員の業務効率に悪影響がではじめていたのです」と当時を振り返る。
同社では、2012年頃からE社の中堅製造業向け生産管理システム を利用していた。しかし、このシステムから出力した作業手配書では、1つの商品を複数の部品に分割してめっき加工するといった、部品ごとの各工程を管理しきれずにいた。そのため、手書きやExcelの指示書・手順書などを紙ベースで運用することになり、製造原価に見合わない請求や納期遅延が発生するなど、社員個人の記憶やスキルに依存した業務の進め方に限界がきていたのだ。
3分の1の初期投資で柔軟なデータ管理を実現するためにFileMakerを採用
そこで伊藤氏は、自社に合わせて生産性を向上するためのシステムを検討するべく、2017年に9社程に相談を持ちかけた。しかし、新システムへの移行には、ハードウェアの入れ替えも含め1億円ほどの費用がかかることがわかり、導入に踏み切れずにいた。
そこで、以前より日本電鍍工業と付き合いのある福井キヤノン事務機株式会社は、パットシステムソリューションズ有限会社と共同で、ハードウェアの入れ替えや追加、インフラ整備など、すべてを約3,000万円の新システムで提案してみせたのだ。
その提案のコアとなったのが、ビジネスに最適なカスタム App (カスタムアプリケーション) を作成できる開発・展開ツール「FileMaker プラットフォーム」 と 業務パッケージソフトの「OBC奉行シリーズ」だった。パットシステムソリューションズはFileMaker プラットフォームを利用したユーザーに最適な業務システムを提供する企業で、FileMakerの認定パートナーでもある。
「今回の提案に私は“即決”でした。しかし、『安いから』という理由で採用したのではありません。この両社なら私たちの多品種小ロットの仕事を理解したうえで、ニーズを満たす開発をしてくれると確信できたからです。さらに、このシステムはカスタムメイドの部分も多く、仕事の変化にともなってカスタマイズできる柔軟性に富んでいたことも決めての1つでした」(伊藤氏)
低コスト、短納期の理由はFileMakerプラットフォームとOBC奉行シリーズの併用
パットシステムソリューションズ 代表取締役の中村孝仁氏が、初めて日本電鍍工業を訪問したのは2017年秋。その後開発に入り、2019年1月に導入を開始。移行期間を経て同年2月には本稼動となった。短期間かつ低コストで実現できた理由は、FileMaker プラットフォームとOBC奉行シリーズを併用するシステムにしたことが大きいという。
「めっき加工の業務は複雑ですが、請求などの業務は標準的であることがわかり、これなら既製のパッケージソフトをそのまま利用できると考えました。私は、パッケージソフトはカスタマイズすべきではないと思っています。それは、カスタマイズした時点で“パッケージ”ではなくなり、その後の改修に多額のコストがかかるためです。さらに、システムのリプレースが難しくなって使い続けざるを得ないという状況を引き起こします」(中村氏)
複雑な業務に対応するには、機能追加やカスタマイズも安価で容易なFileMakerプラットフォームが最適だ。一方、請求業務などはパッケージソフトをそのまま利用すれば開発期間もコストもかからず堅牢に構築できる。
「パッケージソフトを使えば、会社に合うオリジナルのシステムを作る部分だけに集中できます。また、パッケージソフトで済むことには開発コストをかけず、その分、先々のカスタム App拡張にコストをかけたほうがいいと判断したのです。導入後も200以上の調整や機能改善に対応できたのも、FileMakerプラットフォームとOBC奉行シリーズの組み合わせだからこそだと思います」(中村氏)
実際の業務と、FileMaker/OBC奉行シリーズとの関係は
カスタム Appを利用するクライアント端末としては、PCを35台、iPadを18台、iPhoneを5台のほか、工場内などで情報を共有する大型モニタを3台使用している。
顧客に見積りを出して受注し、品物が顧客から届くと受付、受入検査、めっきの準備、めっき加工、仕上検査、納品書発行と工程が進む。この一連の流れを、パットシステムソリューションズがFileMakerプラットフォームで独自開発したカスタム App「TKiS」で管理しているのだ。
また、福井キヤノン事務機がFileMakerプラットフォームで開発した別のカスタム Appを使用して資材管理を行い、営業担当者はiPhoneを利用し、出先からでも日報の記入や情報の共有ができるようになっている。iPadやiPhoneからTKiSをはじめとするカスタム Appにアクセスする時は、App Storeから無料でダウンロードできるiOSアプリケーション「FileMaker Go」を利用。
めっき加工が完了した品物を納品すれば顧客に請求する段階になる。仕入と支払、会計や決算もOBC奉行シリーズを利用しており、データをカスタム Appから渡して請求以降の処理をしている。
進捗、品質管理、技術の伝承に活用
FileMakerプラットフォームの柔軟さを生かして、実際の業務の流れに忠実に即して作成されているため、さまざまな面で効果が上がっている。
品物が届くとTKiSに入力し、作業手配書を発行する。この作業手配書と品物が紐づけられた状態でこの後の工程を進んでいく。受入検査、めっき、仕上検査の各工程では、バーコードやQRコードが記載された「セルカード」を活用してめっきの仕様や進捗のステータス管理をしている。例えば、工場でめっき加工が終わった段階でもiPadでQRコードをスキャンするので、めっき部門にある品物の量が共有され、前後の工程との連携がスムーズになる。
工場では資材の発注もiPad上のTKiSで管理している。日本電鍍工業 営業部 業務課 係長の宝力俊介氏は「管理が複雑で、以前は1人の担当者しかできなかった業務が誰でもできるようになりました。また、毎月実施している約600品目の資材の棚卸も、2日かかっていたものが半日ですみ、4分の1に短縮されました。さらに、薬品の誤発注を防ぐために発注も自動化しています。現在は品目毎に最低しきい値5を下回ると自動的に10発注するという設定にしています」と言う。
同社では、金めっきといっても約30色の金色をめっきすることができ、顧客の要望に細かく対応するためには、この自動化を実現したFileMakerプラットフォームは欠かせない存在になっている。
各工程で写真を撮り、TKiSに保存する機能も大いに活用されている。同社 生産部 生産管理課 主任の榎美祐氏は「以前は品質不良があると紙に手書きで記録していました。そのため作業手配書と不良の記録が結びついていなかったのです。今は履歴がすべてまとまっているので、お客様からの問い合わせにすぐ対応でき、写真もお客様への説明や不良の再発防止対策に活用しています」と効果を述べる。
続けて伊藤氏は、「品物だけでなく下準備の方法なども写真に撮っておくことで、ノウハウの記録になります。技術や技能の伝承は非常に大切なことだと考えています。今までは個人がノウハウを持っていましたが、これからはすべてがシステムに残るようになるので、若手社員の育成や生産性の向上に大いに役立っています。記録と作業の一元管理、情報の共有など、本来あるべき姿で仕事ができるようになりました」と強調する。
業務に即したカスタム Appで会社が変わる
今回のFileMakerプラットフォームによるカスタム Appの効果は、前述した技術の伝承や生産性向上だけにとどまらない。例えば、今まで見えていなかったことが『見える化』されたことで、業務改善の打ち合わせが積極的に実施されるようになり、今後の生産計画を立て“攻めの営業”へつなげることができているという。
「日々の売上も可視化できるようになったので、目標に対する達成率がわかりモチベーションが上がりました。コストや品質に対する意識も全員で共有できるようになってきましたね。仮にミスがあっても、記録を残すことで再発防止策も立てられます」(榎氏)
最後に伊藤氏は、現状に満足することなく、今回のTKiSとともに日々進化し続ける会社であり続けたいと力強く抱負を語ってくれた。
「自身の可能性を伸ばし、自ら考えて行動する社員になってほしいと思っています。そのためには、みんなで情報を共有し業務の流れに目を向けることが必要です。前向きになるための力を得て、発想が出やすくなっています。スピード感を持ってこれまでの常識を変えていけば、日本の製造業や当社にもまだまだ可能性はあると信じています」
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