今日、さまざまなワイヤレス規格とプロトコルが使用されており、特定のアプリケーションに適したテクノロジを選択するのが難しいケースがよくあります。本稿では、考慮すべき重要な基準のいくつかを検討し、Wi-Fiテクノロジ、Bluetooth Low Energyテクノロジ、Proprietary RF、Connectivity 、およびConnectivity Standards AllianceのGreenPowerプロトコルの4つの一般的なオプションを考察します。

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ワイヤレステクノロジを選択する際に考慮すべき多くの検討事項があります。これらには本質的なトレードオフの関係があるため、相互に依存している場合が少なくありません。幸い、ほとんどのテクノロジは標準に基づき、特定のアプリケーションおよびエコシステム向けに設計されているため、多くのトレードオフは、すでに特定のユースケースと相互運用性に対して最適化されています。

独自プロトコルと対照的なケースでは、外部エコシステムとの相互運用性が必須ではないため、主な利点はワイヤレスプロトコルをさらに最適化できることです。プロトコルのオーバヘッドと通信時間は、アプリケーションの具体的な要件に合わせて最小化できます。Proprietaryは最高に柔軟性が高く、一般的には可能な最少コストで実現できる最小電力ソリューションです。

次のセクションでは、それぞれの検討事項を分類し、他の事項との相互依存性について説明します。

周波数スペクトル

Wi-Fi、Bluetooth Low Energy(Bluetooth LE)、およびZigbee(IEEE 802.15.4)テクノロジは、2.4GHz帯域におけるアンライセンス(免許不要)スペクトルを使用します。2.4GHzは、Wi-FiとBluetooth LEが統合された携帯電話の急増に伴って、2.4GHzの使用を基本的に標準化した世界のアンライセンス帯域です。

新世代のWi-Fiは、2.4GHzに加え5GHzも使用して混雑を緩和し、より多くの帯域幅を提供します。米国のFCCは最近、さらに多くの帯域幅を持つ6GHz付近の別の帯域を開放しました。世界中の他の地域もそれに続いており、6GHzが世界標準になる可能性が高いといえます。

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    図1. テクノロジの比較

ライセンスなしで使用できる地域サブGHz帯域はありますが、残念ながら、世界周波数標準はありません。一般的な周波数は、いくつかの国で433MHz、米国で915MHz、ヨーロッパで868MHzです。その結果、ソリューションプロバイダは個別の地域SKUを持つ必要があります。これがサブGHzの大きな欠点です。ただし、オンセミ(onsemi)などの多くの無線チッププロバイダは、異なる地域に対してBOMをわずかに変更した共通ハードウェア設計をサポートしているため、多くの場合その違いはわずかです。

簡単に補足すると、ZigbeeテクノロジはサブGHz帯域での動作もサポートしていますが、今日では2.4GHzのほうが広く普及しています。主な例外は、Zigbee Sub-GHzがスマートメータに使用されている英国です。

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    図2. グローバルなアンライセンス周波数スペクトル

ライセンススペクトルの使用も一般的ですが、通常は重要な配備や大規模な展開にのみ使用されます。例としては、衛星ネットワークやスマートメータリングネットワークなどがあります。商業緊急サービスもライセンス帯域を使用します。ライセンススペクトル使用の主な推進要因は、信頼性と干渉からの保護です。携帯電話も、これと同じ理由でライセンススペクトルを使用します。

通信範囲

通信範囲は、本稿では触れていませんが、多くのパラメータと物理的特性に依存する複雑なテーマです。しかし大まかにいうと、通信範囲は以下のパラメータに依存します。

  • 環境の物理的伝送特性(通信チャンネル)
  • 送信ノードの出力電力
  • ノイズフロアに対して非常に小さな信号を受信する受信機の機能(つまり感度)
  • 干渉信号の存在と、ブロックされた信号を受信する受信機の機能
  • アンテナの指向性
  • テクノロジプロトコル自体

Wi-Fi、Bluetooth LE、およびZigbee/802.15.4では、使用目的に応じてプロトコルの物理プロパティがすでに調整されています。しかしながら、送信電力、環境パラメータ、およびそれらがワイヤレス信号、アンテナパラメータ、受信機の感度に与える影響、さらには干渉源に対する堅牢性を理解することは、システム設計者の責任です。

通信範囲は周波数帯に反比例します。経験則では、周波数が2倍になると通信範囲が半分になる感覚です。出力電力を増やすと通信範囲を拡大するのに有効ですが、最終的には実用性が失われます。基本的に、出力電力の増強が効果を発揮する電力量には限界があります。

通信範囲を制限するもう1つのパラメータがデータレートです。データをより高いデータレートで送信しようとするほど、受信が困難になります。簡単に考えられる場面は、誰かに早口で何かを伝えようとするときです。聞き手が発言を理解しない場合は、大声で話しても伝わらないでしょう。これがコミュニケーションにおける情報理論の背景にある大前提です。

周波数とデータレートが高くなると、プロトコルはMIMOと呼ぶ複数入力・複数出力機構を実装しなければなりません。基本レベルでは、情報を並列メッセージに分割するだけで、単位時間あたりにより多くの情報を転送できます。つまり、パラレルデータストリームを送信することで、より多くのデータを同時に送信できるため、範囲を狭めることなく効果的にデータレートを高くすることができます。MIMO次数は並列チャネルの数です。たとえば、4×4 MIMOは、4つの送信機と4つの受信機があることを意味します。このデータレートと距離間のトレードオフこそ、5G展開がきわめて多くのタワーを必要とする大きな理由の1つです。5Gの速度は4Gよりもはるかに高速なので、ネットワークを完成させ、必要なレベルの性能を提供するには、MIMOを備えたより多くの基地局が必要です。

独自プロトコルの詳細は、選択した帯域に対する政府の法的規制によって設定された規制限度で制限されます。たとえば、EU 868 MHz帯域では、出力電力は+14dBmに制限されます。以下のような多くの調整可能なプロトコルパラメータがあります。

  • 受信機を着信信号にロックするためのトレーニングに使用されるプリアンブルおよびトレーニングシーケンスの長さ
  • データおよびプロトコルのペイロード
  • 使用する変調の種類
  • 帯域幅とデータレート
  • コーディングとエラー訂正

このリストは包括的なものではなく、独自プロトコルの設計に関係するパラメータの一部です。どれも微調整が可能で、すべてのパラメータを調整できるため、独自プロトコルが電力消費を最小化するための最良の方法の1つです。

ネットワークトポロジ

メッシュするかしないかそれが問題です。この古くからの言葉は、多くのエンジニアに決断を迫っています。決定に際して考慮すべきメッシュネットワークに関する不可避な現実が存在します。とりあえず、メッシュ機能を備えたBluetooth LEおよびZigbeeテクノロジに限定して検討してみましょう。

Bluetooth LEは、定義上、短距離のポイントツーポイントネットワークで、それが一般的に使用されている形態です。しかし、過去数年にわたって、Bluetooth SIGはメッシュプロトコルの定義を定めており、スマート照明業界で注目を集めています。携帯電話や大部分のゲートウェイと直接通信できるという便利さから、人気を集めています。

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    図3. Bluetooth LEメッシュネットワークトポロジ

ただし、メッシュネットワークは、特定のユースケースにメリットが求められる場合にしか使用すべきではありません。たとえば、工場や産業環境では、より多くのノードが相互に接続され、信頼性向上と単一障害点が存在しないという利点が求められるため、メッシュネットワークが特に望ましいトポロジです。これは大きなメリットですが、ルータノードに常時電力を供給しなければならないため、消費電力の犠牲を伴います。もう1つのコストはレイテンシです。メッセージはホップとも呼ばれる複数のノードを通過するため、遅延が増加する可能性があります。リアルタイムデータを必要とするアプリケーションでは、これが問題になる場合があります。

メッシュのあまり目立たないもう1つの利点は、ネットワークの範囲が拡大することです。ポイントツーポイント(P2P)接続による範囲の制約がなくなるため、メッシュは単一P2P接続の場合よりもはるかに長い距離に拡大できます。この場合もコストはレイテンシですが、加えて各ルータノードはより複雑なソフトウェアと、スタックだけでなくネットワークのルーティングテーブルも格納するための大容量メモリを必要とします。それによりコストが増加します。

実用上可能ならば、スターネットワーク(ポイントツーマルチポイント)が通常最も経済的です。サブGHzスターネットワークは通信範囲が広く、短距離プロトコルメッシュに比べて、より経済的なソリューションになる場合がよくあります。しかし、エンドノードからコーディネーターへのルーティングパスが1つしかないため、いくらかの堅牢性低下のコストを伴います。

Wi-Fiに議論を戻します。Wi-Fiは高速で通信範囲が広いため少し異なりますが、従来からスターネットワーク(P2P)です。Wi-Fiの通信範囲が広くなる理由の1つとしては、Wi-Fiネットワークの送信電力が通常約+30dBm(1W)であるためです。一般的なBluetooth LEまたはZigbee無線は、0〜+8dBm、場合によっては最大+20dBmを送信しますが、これはゲートウェイを除いてあまり一般的ではありません。通信範囲はメッシュがない場合、Bluetooth LEでは通常約10m、Zigbeeテクノロジでは約100mに制限されます。

Wi-Fiに5GHzと6GHzの帯域を追加すると、通信範囲が狭くなることにも言及する必要があります。優れたサービス品質を提供し続けるために、範囲が狭くなる影響を打ち消すために、Wi-Fiにメッシュネットワークが追加されつつあります。EasyMeshと呼ばれるWi-Fiメッシュ認証プログラムは、さまざまなベンダーからのWi-Fiノードとコントローラを同時に運用および調整して、均一で効率的なカバレッジを維持することを保証します。

結論

本稿では、周波数スペクトル、通信範囲、ネットワークトポロジ、パフォーマンスのトレードオフなど、エンジニアがワイヤレスシステムを設計する際に考慮すべきいくつかの検討事項を紹介しました。ほとんどのシステムでそうですが、性能のトレードオフは相互依存している場合が一般的です。

後編となる次回では、消費電力、共存、セキュリティなど、設計に適したワイヤレステクノロジを選択するための、その他の検討事項について説明します。

著者プロフィール

Dan Clement
onsemi
Senior Principal Solutions Marketing Engineer