グローバルでのデジタルインボイスの流れ

インボイス制度まで一年をきりました。最終回となります今回は、未来の請求書業務についてお伝えします。海外では日本より一足早く請求書のデジタル化が加速しています。米スタートアップ企業のBill.comは、請求書の送信から受領、支払いまの一連の流れをクラウドで自動化、簡易化できるソフトウェアを提供しています。

請求書の発行と受取をオンラインのプラットフォーム上でやりとりすることができ、電子データの請求書を受け取った側は、そのサービス内で支払まで行うことができます。また、同じく米国のFUNDBOXは、オンラインで発行した請求書データをそのままファクタリングすることができ、電子的に債権を買い取ることができるサービスを提供しています。

これにより企業は資金繰りが改善するメリットを受けられます。これらの特徴に挙げられるのは、請求書を単に紙からデジタルに変えただけではなく、そのデジタル化されたデータをファイナンスなどに「再利用」しているという点がポイントです。

日本では「データの再利用」はこれから

一方、日本ではインボイス制度自体もデジタル化がマストではなく、紙でも対応が可能となっています。

大企業やベンチャー企業などを中心に徐々に請求書などのデジタル化は始まっていますが、請求書を紙からデジタルに変えるだけの段階では、企業メリットはコスト削減など限定的なこともあり、デジタル化の普及スピードもこれからという印象です。

それでも、日本のサービスも米国同様、デジタル化されたデータを再利用できるファイナンス機能などのサービス環境が整えば、その流れも加速していくでしょうし、日本も世界に追随して、より便利な世界を作り上げていくべきでしょう。そのためにも、まずはインボイス制度を機に、請求書のデジタル化に取り組むことが重要です。

インボイスのデジタル化のメリット

将来的なデジタルインボイスの普及は、費用・業務面において多くのメリットを生み出します。

  • 「インボイス制度とは?効率よく対応する方法」 第5回

    インボイス制度で業務改善が見込める

1. 保管のコストパフォーマンスの向上

これまでの紙の保管から、デジタル媒体での保管になることで、印刷代、保管スペース、ファイリング作業など、さまざまな保管のためのコストが軽減されます。

2. 経理業務の効率化

インボイス制度のスタートによって、受領した請求書が適格請求書発行事業者によるものかどうかや、必要項目がすべて記載されている要件を満たしたインボイスかどうかをチェックなど、経理部門には新たな業務が加わります。

紙の請求書の場合はそれらを経理社員が手作業でチェックをしなければいけませんが、インボイスをデジタル化することで人間の代わりにソフトウェア上で自動的にチェックできる体制を作ることも可能になるため、経理業務の効率化が見込まれます。

3. 監査対応の効率化

これまでの紙の請求書の場合、監査対応の作業は、まず監査法人の会計士から監査対象となる請求書を依頼されると、経理社員がファイリングをしてある膨大な請求書の中から指定された請求書を探し出したり、重いたくさんのファイルを分担して監査の作業部屋まで持ち運んだり、片付けたりしていました。

また、監査期間は会計士が終日滞在し、重要書類もあるため、それらの条件を満たす会議室など、共有スペースを確保するための協力も社内にお願いする必要もあります。

これがデジタル化されたインボイスになることで、会計の仕訳データと請求書データがデジタル上で紐づけすることが可能になり、会計士が会計ソフト内の仕訳データ上で直接請求書のデジタルデータと突合をして監査チェックもできるようになります。

そのため、会計士の監査作業も、実査が必要な監査項目以外はわざわざ来社することなく監査業務ができ、監査を受ける側も監査を受けるために、これまで行っていたさまざまな準備や手配、作業がなくなり、監査対応の負荷が双方で軽減されます。

4. 会計まわりの作業の利便性向上

請求書がデジタル化されることにより、送金、ファクタリングなど、会計まわりのファイナンス業務とも連携がしやすくなり、オンライン上でのデータの一元管理や自動処理など、利便性が向上します。

これらのメリットを見ると、「紙で保管していた時の手間がなくなる」「デジタル上でデータをシェアできるようになる」「デジタル上のデータを再利用できる」、この3つのポイントだけでも数多くのメリットが生まれ、効率化も見込まれることがおわかりいただけると思います。

企業間取引のデジタル化の課題と、その解決に向けた業界の取り組み

一方で、インボイスのデジタル化は現状では課題もあります。一番の課題は、各社が発行する請求書のフォーマットが統一されていないという点です。

OCR(紙に書かれている文字を認識し、デジタル化する技術)の精度は向上していますが、紙ベースで自由に各社が現在のようにフォーマットを作成してしまうと、半永久的にすべての請求書を100%完璧に読み取ることは難しくなります。

ほとんどの請求書はOCRで読み取れても、一部の請求書に関してはOCRでは読み取り切れなかったデータが発生し、それを補填していくアナログ作業が量は少ないですが発生し、作業工数としてどうしても人の手間がかかってしまいます。

そのため、そのような課題を解決するための検討も今始まっています。会計ソフトを取り扱う国内の主要な会社が発起人となり「デジタルインボイス推進協議会(EIPA、エイパ)」を発足しています。

同協議会では、中小・小規模事業者から大企業に至るまでの幅広い事業者がデジタル庁の主導のもと、容易かつ低コストでデジタルインボイスのやり取りを行うことが可能となるよう「Peppol(ペポル)」という国際標準仕様をベースとした日本におけるデジタルインボイスの標準仕様について、必要な検討を進めています。

これが実現すれば、日本におけるデジタルインボイスの標準仕様(JP PINT)に沿った請求書のフォーマットで各社がインボイスを発行するようになり、企業間で取引したデジタルインボイスのデータは標準仕様に対応するシステムを利用すれば相互に100%取り込めるようになります。

  • 「インボイス制度とは?効率よく対応する方法」 第5回

    デジタルインボイスの標準仕様について、EIPAでは必要な検討を進めている(EIPAのWebページ掲載資料をもとにマネーフォワードが作成)

クラウドベンダーとしての決意

5回にわたってお伝えしてきましたが、請求書などをデジタル化するだけでも私たちの就業環境にさまざまなメリットをもたらします。

そして、実際に人口が減少に転じ、働き手が不足している今、デジタル化をしないと会社の生産性も上がっていかないという突きつけられた現実もあります。インボイス制度を機に、社内全体をデジタル化にシフトすることで、現場社員はこれまで事務作業に忙殺されていた時間を本来やりたい業務に集中することができるようになります。

また、事務系の社員にとっても、処理に忙殺されて1日が終わってしまう就業環境から「考える」仕事にシフトすることができるようになります。

インボイス制度の対応は、本音を言えば「面倒」「ピンチ」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。そのような面倒やピンチを、便利なクラウドサービスを提供することで「チャンス」に変えていくのが私たちSaaSベンダーの使命と考えています。

優秀な人材の争奪戦となっている今、社内環境がデジタル化されている会社というのは、求職者に向けてもアピールにもなり、会社としても優先して取り組むべきプライオリティの高い課題です。

アナログな事務作業で忙殺されない、ストレスのない満足度の高い就業環境は従業員の満足度も高まり、経営のうえでも武器になっていくはずです。