適したSaaSとは

前回までのお話で、インボイス制度への準備対応を機に、できるところから組織をデジタル化へシフトすることをおすすめしますとお伝えしました。→過去の回はこちらを参照。

今回は具体的に、事業者が自社に適したSaaS(Software as a Service)などのデジタルツールをどのように検討・導入すればよいか、わかりやすく「請求書を発行するフロー」と、「請求書を受領するフロー」の2つに領域を分けて話を進めます。

請求書発行をデジタル化することで生まれる数多くのメリット

請求書の発行フロー

請求書を発行するフローでインボイス制度に対応することは主に次の二つです。

(1)発行請求書(インボイス)の雛形を変える
(2)発行請求書(インボイス)の控えを作成し、保管する義務に対応する

発行する請求書を手書きやExcelなどで作成している中で、新たに適格請求書発行事業者となった方は、請求書の雛形に適格請求書事業者番号欄を設けるなど、インボイス制度の要件を満たす形式に変更する必要があります。そして請求書を発行後、控えを作成して保管する義務がインボイス制度施行後には生じます。

これらは紙ベースで行っても良いのですが、インボイス制度を機に、デジタルで請求書の発行や保管を行えるソフトウェアを導入するのも良いと思います。

導入するメリットとして、経費や人件費の削減や抑制があります。紙で発行・保管をすることで、物理的に用紙代、印刷代、ファイリング代、保管するスペースに関する費用など、一見少額に見えますが、毎月、毎年となってくると塵も積もれば山となるで、それなりの金額になっていきます。

デジタル化すれば、まずこれらの費用が不要になります。そして請求書の控えを保管するためだけに「印刷する」「ファイリングする」という作業そのものが不要になります。また、取引先が紙ではなく電子請求書でも良いという会社の場合、ソフトウェアで作成したデータの請求書をそのまま送付することができるようになります。

これまで、紙の請求書を郵送するための封筒代や切手代、封入作業、宛名書き、切手の貼付などの手作業もなくなり、経費や労務時間のさらなる削減につながります。クラウドサービスであれば、請求書の雛形も都度、最新の法改正に対応したフォーマットが用意されているため、費用だけでなく作業の手間も軽減できます。

そして「一元管理」というメリットもあります。Excelなどで請求書を作成していると、会社全体の売上状況が、経理担当者が会計ソフトに売上データを入力した段階で初めて正確にわかりますが、クラウドの請求書ソフトを導入すれば、たとえば閲覧権限の設定をオープンにした場合、現場担当者、経理、経営者と、各自がログインすれば、その日時点の売上先、売上金額、請求書の発行状況まで、同じ情報を共有することができます。

情報を一元管理することで「連絡の行き違い」「認識の違い」などコミュニケーションの齟齬がなくなり、経営者や現場社員が都度、経理に数字を問い合わせしなくても各自で好きなタイミングでデータを閲覧し、自らデータ分析ができるメリットもあります。

経理にとっては問い合わせも軽減するので、有効に業務時間を使える余裕が生まれます。クラウドの請求書ソフトは、個人事業主や中小企業であれば安価に導入できますし、無料トライアルを行っている会社もありますので、インボイス制度対応を機に一度試してみる価値はあると思います。

インボイス制度と電子帳簿保存法をセットにした請求書受領フローのデジタル化

請求書の受領フロー

請求書の受領に関しては「インボイス制度」だけではなく「電子帳簿保存法」の対応もセットで考えて業務改善のフローを構築することをおすすめします。

2022年1月に電子帳簿保存法が改正され、その中に「電子的に授受した取引情報はデータで保存をする」という項目があります。これは、電子データで受け取った請求書や領収書などは、紙で印刷して保存をするのではなく、受け取った電子データのまま保存しなければならない、ということです。

つまり、電子データで届いた支払請求書と、紙で届いた支払請求書の両方が社内で混在している場合、これまではデータで届いた請求書を紙で印刷して他の紙の請求書と一緒にファイリングなどで保管していた会社もあったでしょうが、今後は電子データで届いた請求書はオリジナルの電子データのまま保存をしておく必要があるということです。

各企業での対応準備が不足しているという状況もあり、2年の宥恕(ゆうじょ)措置がとられ2023年12月末までは、データで届いた請求書なども紙で印刷した状態で保存することも可能となっています。

しかし、今後何も対策をとらないと、2024年1月以降は支払請求書の保管1つにおいても、電子データの支払請求書と、紙の支払請求書と、2つ並行して経理担当者は管理しなければならなくなります。

  • 「インボイス制度とは?効率よく対応する方法」 第4回

    電子帳簿保存法改正で変わった2つのポイント

そのような煩雑さの解消とインボイス制度の対応のため、これまでのフローを「アナログ」から「デジタル」へ切り替える発想も未来志向の業務改善として一考です。

具体的には、これまでの「紙が主で、例外的に電子データが来たら印刷して対応する」という発想の業務フローから「電子データが主で、例外的に紙が届いたら電子化して対応する」という発想の業務フローへの転換です。

「デジタル化されたデータが前提」の業務フローにふさわしいSaaSを導入することは非常に簡単です。たとえば、「紙の支払請求書も含めて一括して請求書をデジタル化してくれるSaaS」があれば、前述したような課題は一度にすべて解決してしまいます。

支払請求書も一元管理でき、デジタル化して保管もできます。そして、各担当者がクラウド上で共有もできますし、経理担当者も手作業が減ります。

もちろん、インボイス制度に関する請求書のチェック機能などのサービスも今後各社で充実していくことでしょうから、今より楽になることはあっても大変になることはないでしょう。

  • 「インボイス制度とは?効率よく対応する方法」 第4回

    インボイス制度の開始でクラウド対応が不可欠だという

SaaSの利点

SaaSの利点として、会社の事情に応じて柔軟に部分導入することができるという点があります。

これから起業するベンチャー企業であれば、SaaSサービスを最初からフル導入をすることも可能ですし、既存の会社など、会計の基幹システムは今すぐ入れ替えることは難しい場合でも、取引先から現場へ、また現場から経理部門へ証憑などが届くまでの業務フローに関しては、SaaSの導入は可能な会社が多いはずです。

業務フローを、証憑が経理に「届くまで」と、経理に「届いてから」に分け、まずは経理に「届くまで」の部分でSaaSを部分導入する。そして、そこまでの部分でデジタル化されたデータを今度は経理内の作業に活かせるSaaSを活用し、API連携などでデータを流し込み、手入力などを極力減らして業務の効率化を図る、という段階を踏んでも良いと思います。

今回のインボイス制度を、システム導入の良い機会ととらえ、受け取った上流のデジタル資料を下流の会計作業にも活かし、会計システムをSaaS化、クラウド化し、リプレイスするのも未来志向の業務フロー改善のあり方ではないかと思います。