2022年に大きな注目を集めた衛星通信のモバイルへの活用は、空や宇宙までもエリアカバーにする「6G」に向けては重要な存在とされています。その衛星通信を中心に、モバイル通信で従来カバーできなかったエリアを広げる取り組みを確認してみましょう。→過去の次世代移動通信システム「5G」とはの回はこちらを参照。
急速な高度化が進む衛星通信、スマホとの直接通信も
ここ最近、衛星通信のモバイルへの活用が大きな注目を集めるようになっています。従来主流であった静止軌道衛星と比べ、衛星を多数打ち上げる必要があるものの、地上との距離が近く高速大容量通信を実現しやすい、低軌道衛星の活用がが進みつつあることがその背景にあります。
現在、その先端を走っているのが、実業家のイーロン・マスク氏らが設立した米Space Exploration Technologies(スペースX)で、3000を超える低軌道衛星群「Starlink」を活用した通信サービスの提供を開始しています。
家庭でも導入できる価格で数百Mbpsの通信速度を実現するなど、高額で遅いという衛星通信の常識を覆し、戦争でインフラが破壊されたウクライナなど、さまざまな国で活用されたことが話題となりました。
そのStarlinkは2022年10月に日本でもサービスを開始。さらに、スペースXと提携しているKDDIが2022年12月から、同社のモバイル通信ネットワークのバックホール回線にStarlinkを活用し、光ファイバーの敷設が難しい離島や山間部などのネットワーク強化を推し進めています。
そしてもう1つ、同じく2022年に注目を集めたのは米アップルが新たに投入した「iPhone 14」シリーズで、衛星と直接通信することで携帯電話の電波が届かない場所でもSOSのメッセージを送信できる機能を新たに搭載したことが話題となりました。
こちらは米国のGlobalstarという企業の衛星通信を活用しており、指示にしたがって衛星の方角にiPhoneを一定時間向ける必要があるなど、通常の通信と同じというわけにはいかないながらも、通常サイズのスマートフォンで衛星と直接通信できるようになったことが驚きをもたらしたことは確かです。
そして、衛星通信を活用したデバイスやサービスは、2023年一層の盛り上がりを見せることとなりそうです。それはすでに発表されているさまざまな情報からも見て取ることができます。
例えば、スペースXは米国の通信事業であるTモバイルUSと2022年8月に提携しており、2023年に衛星とスマートフォンを直接通信するサービスの実現を目指すと発表しています。まずは、SMSなどテキストによるメッセージのやり取りを実現する仕組みを提供するとしていますが、その後はデータ通信や音声通話などへサービスを広げていきたい考えのようです。
また、日本でも楽天モバイルが米AST SpaceMobileと「スペースモバイル計画」を進めています。こちらもスマートフォンと衛星を直接通信できるようにするものですが、従来の衛星より大きなアンテナを用いることでより高速通信ができることが特徴とされており、YouTubeは視聴できる程度の通信速度を実現することを目指しているようです。
こちらは2024年以降の実現予定とされていますが、2022年9月にはすでに試験衛星の打ち上げが成功しています。それゆえ順調に進めば、2023年中には何らかの試験が実施され、その実力の一端が見えてくるのではないでしょうか。
さらに、端末面に関しても衛星通信への対応に向けた環境整備の動きがいくつか見られるようになってきました。
例えばクアルコムは米国時間の2023年1月6日、衛星通信の米イリジウムと、衛星通信を用いてテキストメッセージなどができる「Snapdragon Satellite」を、「Snapdragon 8 Gen 2 Mobile Platform」を搭載したAndroidデバイスから順次実現していくことを明らかにしています。
チップセット側が衛星通信に直接対応すれば、デバイスを開発するメーカー側がより衛星通信に対応しやすくなるでしょう。それゆえ2023年のどこかのタイミングで、ハイエンドモデルを中心に衛星通信対応のスマートフォンが急増する可能性も考えられそうです。
海中通信の実現に向け実験を進めるNTT
衛星通信の活用が急拡大する背景には、衛星の打ち上げなど宇宙技術の進化が大きく影響していますが、もう1つ影響を与えているのが、5Gの次の世代となる「6G」です。
6Gでは地上だけでなく、空や宇宙などより広い範囲をモバイル通信のエリアにしていくことが求められているのです。
そしてもう1つ、広大ながらもエリアカバーが進んでいない場所として挙げられるのが海です。ですが最近の動向を見ると、実験レベルではありますが海中でモバイル通信を実現する取り組みも着実に進められているようです。
例えばNTTとNTTドコモ、NTTコミュニケーションズは2022年11月1日、海中での高速無線通信の実現を目指すべく、海中音響通信技術を用いて浅海域(水深30m程度)で伝送速度1Mbps/300mを達成する実験に世界で初めて成功したことを発表しています。
実は携帯電話に用いる周波数の電波は水に非常に弱く、水中で同じ電波を射出してもほとんど届きません。
それゆえ水中で通信するにはより低い周波数の電波、光、そして音波のいずれかが用いられるようですが、3社はそのうち、浅い海域で安定して長距離通信ができることから音波を用いた音響通信技術を活用し、高速無線通信できる仕組みを確立。それを水中の映像伝送や、無線の水中ドローンの遠隔制御などに用いる実験を進めているようです。
-
NTTグループの3社は2022年11月に、音響通信による海中での1Mbps/300m伝送をを世界で初めて成功したと発表。水中という特殊な環境で高速通信を実現するため、電波ではなく音波を用いて通信する仕組みとなっている
海中での無線通信が実現できれば、海中での作業がなされる漁業、そして海中での工事などでも地上と同様のデジタル化が進み、大幅な効率化がなされることが期待されています。海中通信は衛星通信と違って具体的なサービスの実現時期はまだ見通せない状況にありますが、6G時代を見据える上でも今後関心が大きく高まることとなるのではないでしょうか。